パブリック・リレーションズ

2009.01.31

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 8〜ロビー活動

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語版は私も翻訳メンバーの一人に加わり昨年9月に発売されました。

前回ブログでは、アメリカ合衆国の第44代大統領に就任したオバマ氏のスピーチをパブリック・リレーションズの視点から分析しました。今回は、ホワイトハウスに新しい主を迎えたワシントンでのロビー活動について、第6章「法的考察」(矢野充彦訳)の中のロビー活動(190ページ)に絞って紹介します。拙著『パブリック・リレーションズ』(2006、日本評論社)でも、「ガバメント・リレーションズは、組織体が事業や組織の活動目的を達成するために、政府や行政との関係を通じて情報収集、ロビイング(ロビー活動)やセミナー・討論会などの集会を行い、メディア・リレーションズをも含めて幅広く行う活動のことである」とし、ロビイングがガバメント・リレーションズで果たす重要な役割を記しています。

政権交代で3,000人が異動

オバマ政権の発足でワシントンに駐在するロビイストにとって大忙しの時期がやってきました。自動車業界や金融業界などの依頼を受けた多くのロビイストが忙しく駆け回っています。

通常、ロビー活動は特殊能力を有する者が従事し、ロビイストと呼ばれます。ロビー活動が盛んな米国では3万人を超えるロビイストが存在。特にビジネス界・産業界が積極的で500 以上のアメリカ企業と、3,000以上の通商団体がワシントンにガバメント・リレーションズのオフィスを持っています。

『体系パブリック・リレーションズ』でも「ロビー活動はパブリック・リレーションズの実務で最も急成長した専門分野のひとつである」と述べられています。パブリック・リレーションズの多くの実務家がこの分野で活躍し、ロビー活動は他のパブリック・リレーションズ活動と連携、統合されてさらに効果を高めることになります。

政権が交代すると米国ではワシントンDCでは約3,000人もの人事異動が行われるといわれています。日本では大臣の退任にともない各省庁のポストが大幅に入れ替わるといったことはありませんが、米国では各省庁の課長レベル以上の役人はすべて交代となります。したがってロビー活動の成否が企業経営に深く影響してきます。

厳格な制約:連邦ロビー活動規制法

本書では、政府に対するパブリックの信頼を守るために、ロビイストへのいくつもの厳格な制約や開示要件などが細述されています。例えば、組織体のために働くロビイストは、1946年連邦ロビー活動規制法の第?章に基づき、自身の活動を開示する義務が課せられています。ロビイストは、議会に登録し、四半期ごとのロビー活動による支出と収入の詳細に記録された決算書の提出を行い、立法に影響を与える目的でロビイストが発表した記事や論説文を報告しなければならないとあります。

また連邦議会は、ロビイストについて「クライアントに雇用されたか、委任を受けた者で、6カ月の間にクライアントを代表して複数回コンタクトを図り、自身の時間の少なくとも20%をクライアントへのサービス提供に費やす人物である」と明確に定義。同時に、1995年ロビー公開法を制定し、制約や開示要件について更新しました。

さらにロビイストやロビー活動を行う企業は、上院事務総長および下院書記官に登録し、氏名、住所、ビジネスの場所、自身のビジネスの電話番号、クライアント名、および登録者がロビー活動を行った6カ月の間に1万ドル超を寄付した人物を報告しなければなりません。また、クライアントから支払われた金額やロビー活動のために支出した金額明細を年2回提出する必要があります。

このロビー活動法は、非営利の慈善団体や教育機関、その他の免税組織にも適用され、特にロビー活動に従事するNPOは、連邦からの補助金や賞、受託契約、ローンの供与までも禁止するという厳格さです。

本書では1938年の外国代理人(エージェント)登録法(FARA)を紹介。「外国の依頼者」のために働くパブリック・リレーションズの実務家についても全員、米国の政府職員を対象にロビー活動をするかどうかに拘わらず、米国以外の政府や企業、または政党のエージェントとして働く人に対し、10日以内に米国法務長官へ登録することを義務づけていると述べています。

日本ではかってロッキード事件に登場した児玉誉士夫による政界工作により、ロビイストのイメージには「黒幕」、「影のフィクサー」といった胡散臭いイメージが長年形成されていました。しかし米国では本書に示されているように、厳格な制約や開示要件を設けることで、あらゆる企業・団体をはじめ州政府や外国政府を含めた多くの組織体がロビイング機能を有効に活用し、政府に対するパブリックの信頼を勝ち得ています。

ロビー活動で最も重要なことは倫理観。国の政策や法律に不正な影響を与えることは許されないからです。日本では現在ロビー活動の法的規制はありませんが、健全なロビー活動を実現するためには、登録制とし、正攻法でロビイングを行うことで、いつでも情報の開示ができる環境を作る必要があります。これにより消費者や国民へのロビー活動に対する情報開示が透明性を増し、政治が開かれたものとなっていくはずです。

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