こんにちは井之上喬です。
桜の開花情報が聞かれる時節となりました。皆さんいかがお過ごしですか?
今週は、『体系パブリック・リレーションズ』( Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本、日本語版は昨年9月に発売されました。
今回は、第15章の「事業および企業におけるパブリック・リレーションズ」(北村秀実訳)の中から企業の社会的責任(CSR)に関する2つの事例を紹介します。ひとつは環境問題をテーマにした事例で、もうひとつは児童労働問題に関するものです。
BPの温室効果ガス排出削減計画
本書では、「多くの企業は、何十年もの間、書面にまとめられた経営哲学を守ってきた。」と語っています。そして、「それらは『コア・バリュー』と呼ばれたり、ジョンソン&ジョンソンのように『我が信条(Our Credo)』などと呼ばれるものである。2001?2003年に相次いだ企業の不祥事騒動の後、多くの企業は、最善の事業行動の指針となる新しい行動規範またはガイドラインを作成してきた。」としています。
続いて、「しかし、極めて重要な質問は、企業がこれらの規範に違反した場合にどう対処するのかである。『厳しい試練』としばしば呼ばれているとおり、企業が実際に苦渋の選択に直面するのは、行動規範に直接抵触する行為に気づいた時である。組織として何をするのか?その選択肢として考えられるのは、コンプライアンス違反の行為を即刻中止する、違法行為および(または)その疑いのある行為に関与した従業員を解雇する、規範の重要性を明示するための具体的な手立てをとるなどが考えられる」と規範に抵触した際の企業のとるべき態度が述べられています。
そして本書では、上述の「厳しい試練」に直面した事例としてBP(旧社名:ブリティッシュ・ペトロリアム)を紹介。
「BPは石油・ガス業界において、ある種謎めいた存在である。同社は、すばやく決然とした行動をとり、他の企業であれば、避けたいと願うような組織体と関係性を育み、石油・ガス業界に関して一般大衆が持つ負のイメージに対処することさえ躊躇しない。例えば、地球温暖化問題について、大半の石油会社は信頼できる科学的データの欠落した玉虫色の概念だと言及している。」と科学的データの信憑性についてのBPの疑問を提示。
そして、「しかし、BPは、同社が地球環境に及ぼす影響について議論するため、特に影響力があり、地球温暖化、天然資源の持続可能性などが関連するイシューに重点的に取り組む非政府組織(NGO)との討論の機会を模索している。」とBPが温室効果ガス排出削減計画に積極的に取り組んでいる姿勢に触れています。
また、「BPのジョン・ブラウンは、自社が地球環境に及ぼす影響を認め、温室効果ガスの排出削減計画を実施した石油業界初のCEOであった。新たな対話の結果、その他の成果も示し始めた。エクソンモービルなどの企業が、より確かな科学的裏付けがともなわないまま改善にとりくむことに消極的であるのに対して、BPは環境にやさしい石油企業としての評価を着実に固めつつある。」と科学的データの真偽に関係なく取り組む、BPの社会的貢献について紹介しています。
児童労働虐待防止プログラムへの支援
もう一つの事例はイケア・コーポレーション。スウェーデンの家具会社で、CSRに早くから果断に取り組む姿勢を示し、各方面から注目を集めていると本書で紹介されています。
また本書では、「イケアが初めて遭遇した激しい批判の発端は、納入業者がそれぞれの国で幼い子供を雇用していたという児童労働問題だった。そのひとつが、機織り機につながれていたパキスタンの子どもの事件である。イケアはその告発を調査するため、絨毯事業のマネジャーをパキスタンに派遣した。その事業マネジャーは、同国に到着するやいなや、当該納入業者との契約を打ち切った。」と児童労働問題について同社の厳しい姿勢を示しています。
そして、「その後もイケアは迅速に、あらゆるイケア製品に児童労働が関与することを禁止する条項を納入業者との契約書に追加した。さらに、イケアではコンサルティング会社を使って納入業者がこの新方針を順守しているかどうかを監視している」。
その後イケアは、国連児童基金(ユニセフ)や国際労働機関(ILO)、個別の組合を訪問し、児童労働問題に対して様々な解決策を探っています。同社は数カ月の間に、児童労働虐待防止プログラムを支援するため50万ドル以上を拠出したといわれています。
家計を支えるため学校にも行かずに働く児童は、先進国ではほとんど見られませんが、アジア、アフリカ、中南米などの発展途上国では、いまだに多くの子どもたちが過酷な条件下で就労しています。国際労働機関(ILO)の推計によれば、世界中の5歳から17歳の子どものうち、およそ2億1,800万人が就労しているといいます。
ここで紹介した環境問題と児童労働問題の事例は単なるCSRとしてだけでなく、今後、政・官・民が一体となってグローバルに取り組まなければならないテーマのほんの一部にしかすぎません。
CSRは多くの企業が積極的に取り組んでいます。フィリップ・コトラーによると、理想的なCSRは企業が本業を活かしその枠組みの中で自主的に実現すべき社会貢献としています。スイスに本社を置く、製薬会社のノバルティスはコトラーの言うような理想的なCSR行っている会社といえます。実に全社の売上高(2008年:約415億ドル)の3%をCSRに使っているとされています。
同社は途上国援助の一環として、マラリア治療薬を原価で提供したり、熱帯病の研究所をシンガポールに設立したり、また高額な白血病の薬を米国など先進国の低所得者の患者支援に提供するなど、その社会貢献活動は他を圧倒しています。
パブリック・リレーションズ(PR)の実務家はこうした領域にもっと踏み込み、コミュニケーションのプロブレム・ソルバーとしても寄与していくことが強く望まれます。