パブリック・リレーションズ

2008.10.11

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 1〜オープン・システムとクローズド・システム

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

米国でロングセラーを記録する Effective Public Relations 第9版の邦訳『体系パブリックリレーションズ』が9月20日に発売されました。20世紀を代表するパブリック・リレーションズの研究者スコット・カトリップ、アラン・センター、グレン・ブルームによる同書はパブリック・リレーションズのテキストブックとも言われ、米国でも多くの学生が利用しています。

今回は、カトリップ氏らが、生命体の永続性をテーマにした生態学から進化したシステム論をパブリック・リレーションズに応用して唱えたコンセプト「オープン・システムとクローズト・システム」を紐解いてみます。

壁が障害となるクローズド・システム

システムとはある境界を持ち、他のシステムと相互作用しながらその境界内の時間軸で目的を達成・維持し、永続しようとする一連の単位です。

パブリック・リレーションズ(PR)という枠組みでシステムを考えると、パブリック・リレーションズにおける一連のシステムに含まれるのは、組織体(クライアントまたは所属する組織)とパブリックです。カトリップ氏らはパブリックを「組織体が相互に利益を享受し永続的関係性を確立・維持すべき人々」と定義しています。

カトリップ氏らは、組織体を1つのシステム、さまざまなパブリックを抱合した1つのシステムと捉え、システムの相互関係の在り方により、クローズド・システムとオープン・システムという2種類のシステムに分類しました。

クローズド・システムにおける特徴は、対応型。クローズド・システムには、情報の流通はあまりなく外部とのコミュニケーションは一方的。このシステムには自らを変えるという発想はなく、このタイプの組織は対象(ターゲット)となるパブリックを変えようと行動します。組織利益を優先し一方的な視点で外部の状況を把握するので、環境変化に追いつけずに危機に陥りやすいのもこのタイプです。

カトリップ氏らは、批判した雑誌社のインタビューに応じなかった企業や、BSE(狂牛病)の証拠提出の後もその事実を否定し続けたアメリカの牛肉業界等を例に取り上げ、クローズド・システムを説明しています。そして彼らは、パブリックを考慮せず問題処理に消極的である閉鎖的な状況を作り出している、組織とパブリックの間の壁が、組織繁栄にとって大きな障害となると言及しています。

生き残りに必要なオープン・システム

システムの究極の目的は生き残ること。生存のために恒常的な変化を続ける状態をホメオスタシス、生き残るために内部構造や目標達成プロセスを変化させることをモルフォジェネシスといいます。情報流通が双方向で、外部の変化と共に内部も変化していくホメオスタシスとモルフォジェネシスが継続的に機能しているシステムをオープン・システムといいます。

オープン・システムの特徴は、積極型。このシステムを採用する組織は、対称性の双方向性コミュニケーションを通した相互利益に基づく相互変化が可能です。このタイプの組織は、パブリックの変化に敏感に反応し、その変化に積極的に適応しようと行動するので、問題発生を未然に防ぐことができます。また、実際に問題が発生しても、その窮地から新たなWINWIN環境を作り出し、更なる飛躍に役立てることが可能となります。

カトリップ氏らは、オープン・システムを問題回避や問題解決を効果的に行なえるモデルと位置づけています。そしてカトリップ氏らは、積極的に問題に直面して解決したカルフォルニアのピスタチオ協会やデジタルリサーチ社等の例を挙げて、組織の生存と繁栄において、相互利益の視点に立ち、パブリックと能動的に関わり自らを変化させる事の重要性を論じています。

日本の社会には、リスクを取らずに現状維持に終始する企業、問題を先送りにして不祥事を起こしている企業など、クローズド・システム的な企業が未だ多く存在します。しかし情報流通網が複雑に絡み合う21世紀に、組織が閉鎖的であることはもやは不可能です。

カトリップ氏らは、「パブリック・リレーションズの業務は、端的に言えば、組織を取り巻く環境に合わせて調整・適応できるように組織体を支援することにある」といっています。つまりパブリック・リレーションズの実務家の役割とは、組織体の将来像を見据えて、組織をオープン・システムの状態に導き維持することにあるという意味です。

このセクションを読むと、日本における閉鎖性を打開する鍵がパブリック・リレーションズの理論と実務にあることが再確認できるように思います。是非手にとって読んでみてください。

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