パブリック・リレーションズ

2007.07.13

PRパーソンの心得 11 バランス感覚

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

ミートホープの食肉偽装やJR西日本脱線事故などの不祥事は、利益と安全性のバランスを完全に無視した結果おきた事件。バランス感覚を失うと、個人や組織体は、その全体性や方向性を見失い、深刻な問題を引き起こします。

バランス感覚が目標達成を左右する

『広辞苑』によればバランスとは、「つりあい。均衡。」と出ています。バランス感覚とは、時間軸や空間軸などさまざまな座標軸の間で釣り合いをとる能力のことです。

パブリック・リレーションズの実務家としていろいろなバランス感覚が求められます。なかでも目的に対して自らのポジショニングを明確にし、ターゲット(パブリック)と良好な関係性を築く上で大切な、「全体と部分」「現在と未来」「自己主張と協調性」などは重要な要素といえます。

これらのバランス感覚のなかで「全体と部分」では、部分的なせめぎ合いばかりに固執せず、プロジェクトの全体像や方向性に沿って次の行動を見極める能力が求められます。

PRプランの計画・実施段階では常に環境が変化します。PRパーソンには、全体像が変容する中で潮目を読みながらシナリオや個々のタスクを速やかに修正する能力が求められます。最短での目標達成を試みるPRの実務家には、木を見て森を見ずではなく、木も森も同時に見る複眼思考が重要な能力となります。

「現在と未来」のバランス感覚は、過去をベースにしっかりと現在に身を置きながら明確な未来像を持つことです。

時間軸で複数の視点を持つと、未来を見据えながら現在に全力投球することができます。

結果として個人や組織体の継続的な繁栄が可能となります。目先の利益ばかりを優先せず、研究機関の設立やCSR(企業の社会的責任)の展開など未来に備えた先行投資は、現在と未来のバランス感覚が取れている好例といえます。

「自己主張と協調性」のバランス感覚は、組織の存続に必要な協調性を考慮に入れながら建設的に自己主張する能力です。この感覚には相手の心理や意図に共感を示す姿勢と自分の意思を伝える能力が必要です。

このバランスが欠落すると、倫理を省みず自らの利益追求に終始する一方向的な行動に陥りがちです。このバランス感覚は、対称性の双方向性コミュニケーションを実現し、相互理解の下でのパブリック・リレーションズを行う上で重要な感覚となります。

このようにバランス感覚を持つことは、個人や組織体の掲げた目標達成をスムーズにすると共に、継続的な成功と繁栄を可能にするのです。

バランス感覚で迅速なレスポンス

バランスのとれた行動をとるときには、全体的な方向性を持つことが必要です。つまり戦略という判断基準をしっかりと持つこと。戦略がなければ、個々と全体の関連性が見えなくなり最適なバランスを失います。

一方、戦略という指針を持つことで部分的には損失に見えるものでも、プロジェクト全体にプラスに働くと判断すれば、速やかに新しいものを採り入れたり、不必要なものを切り捨てることも可能となります。

また、状況を客観的に俯瞰するメタ認知も重要な要素。メタ認知により自己と他者のポジショニングをさまざまな座標軸で正確に把握することは、バランスの取れた的確なレスポンスをおこなう前提となります。

これまでバランス感覚の大切さを述べてきましたが、その感覚が生かされるのは、「当事者が何をしたいか?」という意思を決定する瞬間です。

「何ができるのか?」という客観的な視点は大切です。しかし「その状況下で自分は何をすべきなのか?」を決断・実行する推進力は主観を伴う意思から生まれます。ですから、バランス感覚に固執しすぎず個人や組織の意思を決定に反映させる努力が求められます。

PR実務家は、カウンセラーとして常にクライアントの半歩先を考え、組織のトップやクライアントにアドバイスを提供しなければなりません。それには、変化を把握し速やかに対応する力が求められます。バランス感覚を磨くだけでなく、その能力を問題に対し即座にレスポンスできる能力へと進化させていかなければならないのです。

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