趣味

2009.09.28

私の心に残る本 30堺屋太一の『凄い時代:勝負は2011年』

『凄い時代:勝負は2011年』 堺屋太一著

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

「凄い時代である。一年前は大昔、二年先はまったく新しい世の中になるだろう」
新しい民主党政権下で日本はどのような道を進めばいいのか?と考えている人も多いのではないかと思います。 冒頭の文は、今回ご紹介する堺屋太一著の『凄い時代』(2009年、講談社)からの抜粋です。本書で堺屋さんは、2008年から2009年にかけて世界を未曾有の混乱に陥らせた金融、政治、経済の状況や将来への展望などを、官僚、閣僚経験者ならではの多様な視点で解かりやすく書いています。

どうして日本が「最悪」なのか

堺屋さんは、通商産業省(現・経済産業省)に在籍中、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)を企画、開催し、 1978年通産省退官後、1998?2000年には小渕・森内閣の経済企画庁長官に就任。一方で、『油断!』(1975年)で小説家としてデビュー、NHKの大河ドラマ「秀吉」の原作者になるなど、幅広い視点で人生を生きている人です。

本書で堺屋さんは日本が最悪な状態にあるとし、サブプライム・ローン破綻に始まる金融危機では最も被害が少なかった国(世界損出の4%未満)であったにもかかわらず、2009年の実体経済の下落率予測(IMF)はマイナス6.2%で震源地米国のマイナス2.8%に比べ落ち込み幅が大きいことを指摘。

そして、「今日の経済不況は、自由化・規制緩和のせいではない」と断言し、「製造業を中心とした、物財の面だけを自由化・規制緩和しながら、21世紀の成長分野である 医療・介護・育児・教育・都市運営・農業などを完全な統制体制のままにしてきた『偽りの改革』にある」とその問題点を摘出しています。

堺屋さんはその主な原因について、日本が官僚主導の体制を保持しながら、終身雇用の雇用慣行を続け、 20世紀の最適工業社会に甘んじ必要な改革に手をつけなかったことにあると述べています。

小渕内閣の経済企画庁長官を務めた堺屋さんは、小渕政権は、バブル崩壊後に苦しむ経済不況脱却のために、金融構造の改革、社会関係放棄の改革、労働法規の改革など日本の経済社会をクローバル化に適応させる「壮大な改革」を実行していたと書いています。しかし、当時の首相、小渕恵三は、志半ばで病に倒れ、改革の実現には至らなかったと述懐しています。

みんなの「満足」を目指して

堺屋さんといえば、知価革命。本書でも堺屋さんは「物財の豊かさが人間の幸せ」を掲げた社会から、みんなの「満足の大きさ」を追及する社会にシフトさせる知価革命を提唱しています。

その方向性で国づくりを行なう決定的な期間は3年であるとして、堺屋さんは、世界的な混乱の中、日本が自由と繁栄の道を進むために必要なのは、「明治維新」的な大改革であると説いています。

そのためには価値観と行為基準、そして社会構造の変化が必要だとして、3つの改革を提案しています。1つ目は、公務員制度の改革と地方分権の徹底による、官僚依存、官僚主導からの脱却。2つ目は、終身雇用制度を緩和し、公共が国民の生産力を高めるために責任を持つ体制づくり。3つ目は、若年出産の推進と子育て産業の市場化であるとしています。

現在さまざまな分野で、20世紀に多くの格差と対立を生んだ物質主義の社会から、心の豊かさを重んじる共生型の社会へと移行させるにはどうすべきかが模索されています。堺屋さんの提案もその1つ。これらの改革は、どんなハードルをも越えて実現していかなければならないものだと思います。

このような抜本的な改革には目標達成への強靭な意志と確かな手法が必要となります。パブリック・リレーションズ(PR)は、パブリックやステークホルダーとのリレーションシップ・マネジメント(良好な関係性の維持)を通して、目的を最短距離で達成する手法です。従って、パブリック・リレーションズをしっかり実践することは、堺屋さんが提唱する事柄の実現の早道となるはずです。

本書は、地球規模での変化が進む中、日本がどのような長期的繁栄を目指していくのかといった疑問に対して、大きな指針を与えています。一度読んでみてはいかがでしょうか。

書籍

注目のキーワード
                 
カテゴリ
最新記事
アーカイブ
Links

ページ上部へ