趣味
2009.08.24
私の心に残る本 29 『天才は10歳までにつくられる』
こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。
皆さん、最近テレビで、園児全員が逆立ちで歩いたり、7段8段の跳び箱を軽々跳び越えたり、5歳児で漢字が読み書きできたりする特別な教育法について、観たことはありませんか?この教育法は「ヨコミネ式」教育法といい、その主宰者は、女子プロゴルファー横峯さくらの伯父である、横峯吉文さんです。
今回は、その横峯吉文さんが書いた『天才は10歳までにつくられる』(2009年、ゴルフダイジェスト社)をご紹介します。「すべての子供は天才である」。本の冒頭に出てくるこの言葉にはインパクトがあります。本書は、「ヨコミネ式」教育法を具体的に解説した本で、強い個の原点とは何かを提示しています。
自学自習のスイッチとは
横峯さんは1980年、鹿児島県志布志市に社会福祉法人純真福祉会「通山保育園」を設立。現在は、3つの保育園と「太陽の子山学校演習場」、「太陽の子児童館」の理事長を務めています。「ヨコミネ式」教育は全国的に話題となり、カリキュラムとして採用する保育園、幼稚園が急増。その「ヨコミネ」式の原点は、自分で学ぶ「学育」にあるようです。
横峯さんは、「反復して身につけた基本は、いくらでも応用が効く」として、反復学習法を提唱しています。従ってカリキュラムのベースも、読み書き計算・体操を20分ずつ、毎日反復する構成になっています。それをベースに英語や音楽、水泳など、さまざまな必要項目をプラスしていき、心身をバランスよく発育させる教育環境を実現しています。
そして、カリキュラムには、子供が自分で考え、行動し、気づくこと、つまり自然に逆らわず自発性を促す、「自ら学ぶ力」となる「自学学習」のスイッチを入れるしくみがいくつも隠されています。
そのスイッチは、子供の脳の発達に合わせた教育をすること。たとえば、乳幼児はとても耳がいいので、「ヨコミネ」式では、英語や音楽など、音に関する教育は0歳から2歳のうちに始めています。また、書き取りも、漢字やカタカナ、ひらがなを組み合わせた95文字の基本文字を用意し、漢字の「一」から教え、ひらがなの「む」で完了するシステムになっています。
また「勝負させること」で子供の意欲を掻き立てています。毎朝の10分のランニングでも、リレー方式できちんと競わせています。毎日競わせることで、勝つことの喜びをカラダに覚えさせているとしています。このランニングは、足腰を強くする効果もあって、子供のカラダのベースをつくるようです。
そして、「ヨコミネ」式は、こどもの好きなことを追求させることで、学ぶ喜びを身体で実感させています。本書には、ピアニカを学ぶにも、子供の好きな曲をどんどんやらせて、子供が喜んで次々に新しい曲目に挑戦する姿が、生き生きと描かれています。
能力を信じる
私が、この本を読んで本当に素晴らしいと感じたのは、そのカリキュラムの独創性もさることながら、「ヨコミネ」式の根底にある、教育者の「信じる力」です。「ヨコミネ」式では、生徒である子供たちの能力を信じて、彼らができるものを与えて、後は、子供の好きにさせてあげています。
信じることが重要だと解かっていても、それができる大人はほとんどいません。親が、「子供が傷つくのがかわいそう」「どうせできない」など、不必要な心配やネガティブな考えを抱いて、子供をマイナス志向に導いてしまうケースはいくらでもあります。しかし、「ヨコミネ」式には無縁です。写真の子供の目が明るく生き生きと輝いているのは、周りにいる大人が子供を芯から信じているからかもしれません。
冒頭の言葉にあるように、子供は天才でその可能性は限りなくあります。自学自習のできる子供を育てる教育方針は、これから必要な方向性です。私は、常々、今の日本で強い個をもった人材を排出する必要性を強く訴えていますが、「ヨコミネ」式には、強い個を作るベースがあると感じました。
以前、パブリック・リレーションズ(PR)は古くから日本に醸成されている「絆(きずな)」に通じるところがあることをお話しました。絆は「しがらみ」とは異なり、悪い意味合いが介入しない言葉です。島国で農耕を営んできた日本は、あうんの呼吸やテレパシーで相手とコミュニケートできる、ハイコンテキスト・カルチャーの国といわれ、これまで欧米の多民族・多言語社会のローコンテキスト・カルチャーとは異なった絆づくりが行なわれていました。
しかしいまや、グローバル社会の一員として、ローコンテキスト社会の中での絆づくりが求められています。私はローコンテキスト社会の中における絆づくりこそ、パブリック・リレーションズではないかと考えています。なぜなら多民族社会米国のパブリック・リレーションズはローコンテキスト・カルチャーの中で発展を遂げてきたからです。
そして、パブリック・リレーションズを初等教育に導入するためには、「きずな教育」を推進することが最も効果的であると私は考えています。本書を読み終わり、このような理想的にも見える「ヨコミネ式」教育法のシステムに、きずな教育の導入が可能になれば、日本の教育を一変させることになるのではないかという直感を得ました。
30年の試行錯誤の末にたどり着いた、落ちこぼれゼロといわれる教育法。横峯さんには、機会があれば、是非一度お会いし、「ヨコミネ式」教育について、また卒園後の子供たちがどのように成長しているのかなど、意見交換を行なってみたいと思います。「人間力」が求められている日本。皆さんはどのように考えますか?
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いまや日本中で連日連夜、謝罪が繰り広げられている。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見。「説明責任は果たせたと思う」と大臣をかばう総理のコメント。
だが国民はけっして納得していない。いまなぜ、どのように《説明責任》を果たすことが求められているのか? パブリック・リレーションズ(PR)の第一人者が、「倫理」「双方向」「自己修正」の三つの原則から、日本における《説明責任》の実態を解説し、問題点を指摘する。情報開示に不可欠なリスク管理にポイントをおいた待望の書き下ろし。
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