趣味
2009.04.27
私の心に残る本25 稲盛和夫の『働き方』
世界の根幹が揺らぐ混迷の時代にあって、「働くこと」を厭う人や働くことを怖がる人など、働くことに幸せを見出せない人が増えてきています。
今日は、京セラの名誉会長を務める稲盛和夫さん著『働き方』(2009年、三笠書房)をご紹介します。稲盛さんの本は以前このブログで『人生の王道〜西郷南洲の教えに学ぶ』(2007年、日経BP社)を紹介しています。亡くなった私の父が鹿児島生まれということもあり、鹿児島出身の稲盛さんには他の人とは違った特別な思いがあります。本書『働き方』では、稲盛さんは「なぜ働くのか」「いかに働くのか」という問いに明るい可能性を示しています。
幸福になる働き方
「『よく生きる』ためには、『よく働くこと』がもっとも大切です」。
稲盛さんは1932年生まれ、中学の受験に失敗したり、結核で死線をさ迷ったり、戦災で自宅を焼かれるなど、若い時に多くの挫折を経験。地元の鹿児島大学工学部を卒業したあと、59年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長を務めています。84年には第二電電(現KDDI)を設立すると共に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に貢献した人を顕彰しています。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成にも力を注いでいます。
稲盛さんは、働くことは生活の糧を得る手段にとどまらず、心を磨き、人間性を高める手段でもあると断言しています。ここでは稲盛さんが新卒で京都のオンボロ会社に勤めていたときのエピソードが挙げられています。はじめは愚痴ばかりこぼしていた稲盛さんですが、それでは人生が始まらないと一念発起。まずは、目の前にある仕事を徹底的にやってみようと決意し、「ど」がつくほど真剣に働いたそうです。
当時稲盛さんはファインセラミックスの開発担当をしていました。実験に打ち込み、次第に素晴らしい実験結果を出せるようになると、それまでの会社に対する愚痴や人生に対する不安はすっかり消えてしまっていたそうです。ここで初めて、艱難続きだった稲盛さんの人生に、一生懸命働いて成果を得る好循環という幸運が舞い込んだといいます。
この経験をもとに稲盛さんは、「働くことは『万病に効く薬』」だとして、「愚直に、まじめに、地道に、誠実に」働けば、神様は絶対に幸福への切符を差し出してくれると述べています。
「平凡な人」を「非凡な人」に変えるもの
「たとえ身のほど知らずの大きな夢であっても(中略)まずは目標を眼前に掲げることが大切なのです。なぜなら、人間には、夢を本当のものにしてしまう、素晴らしい力があるからです」。
稲盛さんが、「経営の神様」と謳われた松下幸之助さんの講演会に参加した面白い話しが紹介されています。松下さんが唱える「余裕のある経営」の実現について、松下さんは聴衆からその方策について問われたとき、「それは(まず自分自身がそう)思わんとあきまへんなぁ」と応えそのままだまっていたそうです。答にもなっていないようなこの言葉が聴衆の失笑をかったとき、稲盛さんはこの一言に込められた松下さんの万感の思いに、身体中に電撃が走ったといいます。
本気で思えば、やるべき事が見えてくる。それを継続的に地道に行なえば、必ず思いは実現する。稲盛さんは、これは人生における鉄則であると説いています。
「人生つまるところ、『一瞬一瞬の積み重ね』に他なりません。(中略)また、『偉大なこと』も『地味なこと』の積み重ねに他なりません」。
稲盛さんは、継続する力こそが、凡人を非凡人にする力であるとしています。「鈍な人」が愚直に頑張り非凡な人になることも、天才や名人が大きな成果を残すのも、その裏には継続する力があるからだと説いています。
「今の自分の仕事に、もっと前向きに、できれば無我夢中になるまで打ち込んでみてください。そうすれば必ず、苦難や挫折を克服することができるばかりか、想像もしなかったような新しい未来が開けてくるはずです」。
目標を掲げることや、継続する力を持つことは、PRパーソンにとっても極めて大切なことだと思います。パブリック・リレーションズ(PR)の手法を会社や組織に導入しようとするとき、今までにない目標を掲げ、成果を得られるまで忍耐強く継続的に活動することが求められるからです。
平易に記された本書には、稲盛さんの知恵や次世代を担う若い人たちへの温かいメッセージが沢山詰まっています。200ページほどの読みやすい本。ゴールデンウィークに読んでみてはいかがでしょうか?