趣味
2008.08.09
私の心に残る本 18白銀竜吉法師の『1000人になった人類』
こんにちは井之上喬です。
北京オリンピックがいよいよ開幕。 皆さんいかがお過ごしですか?
8月は毎年、広島(8月6日)、長崎(8月9日)の原爆の日に続き、15日の終戦記念日とお盆休み。「戦争と平和」そして「生と死」がテーマの月です。戦争で犠牲になった死者に思いをはせながらひと夏を過ごすことも、私たちにとって「命」や「人生」を考える上で大切なことのように思えます。
今回は、白銀竜吉法師著『1000人になった人類』(さんが出版:2005年)をご紹介します。愛・地球博「アースデイ」第1回環境大賞受賞作品で、人類の愚かさで引き起こした核戦争によって、わずかに生き残った人々のお話です。
「人類はたった1000人になっていました。あんなにたくさんいた人類が、わずか1000人になってしまいました...」で始まる同書は、大きめの活字でレイアウトされ、半分が著者自身の挿絵で構成された絵本のようなショートストーリー。3年前の出版当時とくらべ地球環境がさらに悪化し、核戦争の脅威が増すいまこそ読むのにふさわしい本といえます。皆さんにより深く味わっていただくために、今回は解説を加えず、本文を抜粋したものをそのままご紹介します。
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人類はたった1000人になってしまいました。 あんなにたくさんいた人類が、わずか1000人になってしまいました。
100万年かけて70億人にまで増えた人類が、たった1年で 1000人になってしまいました。
人類は核戦争でほとんど死んでしまいました。 お金持ちも貧しい人も、ほとんど死んでしまいました。
人間は核爆弾が良くないことを知っていたのに行きがかりじょう仕方なく使ってしまいました。
人類は最初2000人だけ生き残りました。
地球のほとんどの地域は放射能で住めません。 2000人のうち1000人が放射能による白血病で死にました。
人類はたった1000人になっていました。 残った1000人は放射能の少ない小さな島に移住しました。
生き残った1000人のうち、本当に健康な人はいませんでした。 顔をやけどした人がいました。 顔だけでなく全身にちかいくらい、やけどをした人がいました。 全身の痛みで、体の震えが止まらない人がたくさんいました。 ほとんどの人の心が病んでいました。 ほとんどの人の心の中は絶望と憎しみでいっぱいでした。
みんな空気も水もほとんど汚染されている気がしました。 水を飲むこと空気を吸うことも怖い、生き残った人類でした。
全員が死に向かっている人類は、本当の幸せとは何かを真剣に考えました。
一年の月日がたつと島では毎月子供が生まれました。 地球が汚染されているのに子供は生まれます。 身体に障害を持った子供たちをケアする医療設備はありません。 身体に障害を持った子供たちは死んでゆきます。 みんな思いました。 なぜ地球が破壊される前に、医療設備がなくて困っていた人々を 助けなかったのだろう! みんな後悔で苦しみました。
みんなで話し合って安全な場所を探しました。 残された人々は苦難に立ち向かうために、 みんなが一つになろうとしていました。
みんな森の中で安心して暮らすことができるようになると 毎晩、議論するようになりました。 みんな、なぜ世界が核戦争になってしまったのか話し合いました。
人類は石油を奪い合うために戦争をしました。 何度もしました。 石油が出る国はいろいろな理由をつけられて、 順番に戦争に巻き込まれてゆきました。
お金持ちは、お金持ちでいるために石油を奪い続ける必要がありました。 石油が欲しいために戦争を起こし 石油を支配するために石油が出る国を占領し 反発する人々を殺し続けました。
何も悪いことをしていないのに、巻き添えでたくさんの人々が死にました。 家族を殺された人々は殺した人を憎み続けます。 人は人を憎み続けると不健康になります。 憎まれる人のほうは恐怖を感じます。 こうした憎しみと恐怖が、世界大戦争を起こしました。 そうして地球のいたるところで核爆弾が使われました。
絶望している老人が最後に言いました。「戦争の最大の原因は、人間が生きてゆくうえでの 恐怖なんじゃよ!恐怖が争いをつくるんじゃよ!」 経験豊かな老人たちは口をそろえていいました。 「今というときを助け合うことじゃよ!困っている人がいたらみんなで力を合わせて助け てあげることがみんなから恐怖をなくすことになるんじゃ!」
子供たちは経験豊かな老人たちの話を聞いて、一つのことに気がつきました。 そして、子供たちは素晴らしい行動を始めました。 子供たちみんなが始めました。 ちいさな子供たちも始めました。
子供たちに感動して、大人も始めるようになりました。 大人たちもみんな始めました。 何かが変わり始めました。
人類が島に来てから5年の月日がたちました。 男たちは一生懸命畑仕事をしていました。 突然、若い青年が叫びました。 「みんなこれを見てくれ!」 彼らが見つけたものはたくさんのミミズでした。 「おお?っ!これはすごいぞ!ミミズがこんなにいれば土をもっと豊かにしてくれるぞ!」
それから5年の月日がたちました。 その島の岩場がいつの間にか草原になっていました。 草原にはいろいろな動物がいました。
大人たちはそれぞれ自分の得意なことを一生懸命みんなのためにやりました。 大人たちは他人の話をよく聞くようになっていました。 みんながひとの悩みをわがことのようにおもうようになりました。 大人たちはみんな一つの素晴らしい考え方に気がついていたのでした。
それは常に「与えることを優先する」という考えでした。 みんな、人が喜ぶことをいつも考えるようになっていました。
島の中で何かが確かに変わり始めたのです。
人間がこの「新しい考え方」に気づいたときから 何かとてつもない大きな変化が始まり出したのでした。 与えることを優先する考え方が、生き残った全人類の考え方になりました。 与えることを優先すれば、すべての人類が豊かに暮らせる! すべての人類がそう思えた瞬間! 人類の意識が進化したのでした。
それは自分を優先するのではなく 自分だけを守ることを考えるのではなく 他の人に対して、まず与えることを考える生き方でした。 そして、それがみんなに「思えば叶う!」ということを 強く信じさせてくれるようになりました。
みんな思えば叶うと本当に思い始めていました。 思えば叶うとみんなが本当に信じるようになりました。 すべての人類が祈りました。
「すべての人類が幸せになりますように!」
それが朝になった瞬間! ほとんど波のない穏やかな、放射能で汚染されたはずの海に 奇跡がおこっている瞬間でした。 そこには信じられない光景が神によって描かれているようでした。 それはイルカでした。
「海が回復しだしているぞ?!」 若い男が大声で叫びました。
大人たちの声に振り返った子供たちが言いました。 子供たちのみんなが静かにしみじみ言いました。 「わぁ?!なんて奇麗なんだろう!」 子供たちはみんなその美しさに見惚れて立ちすくんでいました。
森が光っていました。 島の森が大きくなっていました。 森の木々の一本一本が輝いていました。
朝日を吸収している森の姿は、まるで一つの生命のようでした。 それはまるで森全体が虹のかたまりのように七色に輝いていました。
それは新しく生まれ変わった人類の希望の虹のようでした。 それは地球が自らの偉大な浄化と蘇生の力を、人類に教えてくれた瞬間でした。