趣味

2008.03.07

私の心に残る本 14 『頭にちょっと風穴を』

頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために こんにちは、井之上喬です。3月、端午の節句も終り一段と春らしい陽気となりました。
皆さん、いかがお過ごしですか。

「大きなときの流れの中で自分はどのあたりを歩いているのか」。混沌を極めたこの世界で、自分の立ち位置が見えている人は数少ないのではないかと思います。

そのヒントをくれるのが国際ジャーナリストである廣淵升彦さんの『頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために』(2008年、新潮社)という本です。

「カダフィが拭った汗」

廣淵升彦さんは、テレビ朝日ニューヨーク、ロンドン両支局の初代支局長、ニュースキャスター、報道制作部長、国際局国際セミナー専任局長等を歴任した後、現在は私大の教授などを務める傍ら、精力的に執筆活動を行なっています。

「日常と世界を結び、世界を日常の中に運び込んでくる」ことを心がけて仕事をしてきたという廣淵さん。その彼が本書の中で「世界のタテ・ヨコ」を多くの実例を交えながらユーモアいっぱいに語っています。

印象に残ったのは「カダフィが拭った汗」。1981年4月廣淵さんはリビアの宰相、カダフィ大佐とのインタビューを実現。廣淵さんは実際に会う前のカダフィのイメージを、「弱冠27歳で腐敗した国王を放逐して政権を握って以来、冷酷非情に数々の粛清を行い、暗殺を逃れてきたカリスマ」と表現しています。

しかし廣淵さんが彼に実際にインタビューしたとき、カダフィの思いがけない立ち振る舞いを見たといいます。それは、彼の通訳を務めていた現地の老教授が、遠慮のない廣淵さんの質問に対して狼狽し額に大汗をかいていた有様をみて、老教授の汗を、さりげなく自然に拭ったのを目撃。廣淵さんはこの瞬間、カダフィを単なる「狂犬」ではなく「非常に慎重で繊細な人」だと思ったといいます。

2003年、実際にカダフィは西欧諸国との和平の道を選び、核兵器、生物化学兵器の開発を全面的に中止。国際査察を無条件に受け入れました。カダフィの平和路線への転換を暗示するような廣淵さんの深い洞察力。この本にはこのような彼の深い洞察が随所に見られます。

世界の「ツボ」を心得よ

深く共感したのは、「エリートと中産階級についての思い違い」というくだり。ここで廣淵さんは、日本にエリートはいないと断言。日本でエリートといわれるのは一流と呼ばれる学歴やキャリアをもつ秀才のことであって、真のエリートではないというのです。

そして廣淵さんは、真のエリートとは、何が正義かを知り自分の人生を犠牲にして国のために奉仕することを喜びとする、気高い勇者のことをさすと語っています。廣淵さんは、その支柱がノブレス・オブリージュの精神であるとして、日本にはこの精神を持つ人材があまりにも不足していることを嘆いています。

日本にもかつて高い志を持ったエリートはいたはずです。私も、混沌とする日本の変革のためにも、今の若者のなかに次世代のリーダーとして必要な正しいエリート意識を育てることが重要だと考えています。

また廣淵さんは、今の日本人に欠けているのは洗練された知識。 つまり人々の間に世界情勢を把握する「知的装備・精神的部品」が欠落しているといいます。

世界の成り立ちを知るヒントとなるのは国際情勢の「ツボ」。廣淵さんはこの「ツボ」を押さえておけば、その詳細を知らなくとも、世界を大きく見誤ることないといいます。 ただ、現代の日本人は国際情勢のツボを押さえるどころか、ほとんど無関心であるのが現状。

それでも廣淵さんは 「日本がいまや直面している困難の多くは、『教養があれば解決できる類いのもの….. 』、それも『国際的な教養』があればなおいい』と読者にはっぱをかけます。この本は読者の好奇心をくすぐるように、メディアではほとんど語られない情報を網羅し、世界の大きな流れを日常に引き寄せて語っています。

国際情勢のツボを押さえながら国際舞台で確固たる判断基準を持って立ち振る舞う。そういう日本人が増えてくれば、日本の将来に希望の光が差し込むことは間違いないでしょう。世界を舞台に活躍するPRパーソンには必読の書かもしれません。是非、ご一読することをお勧めします。

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