アカデミック活動

2026.04.14

欧州訪問で感じた日本の可能性と課題
〜パブリックリレーションズを通し、平和で希望のある社会づくりをめざしましょう

皆さんこんにちは井之上喬です。
満開の桜のなかの新年度も始まり、新しい生活をスタートされた皆さんには幸多かれとお祈ります。

パブリックリレーションズのつながりで実り多き欧州訪問に

3月6日から10日間にわたって、英国およびポルトガルの学術・研究機関に招かれ、国際セミナーや会議で講演をしてきました。内容は、日本の「失われた30年」を多角的に検証し、再生に向けた「国家経営(Statecraft)」のあり方についての論考で、日欧の有識者らと深く議論を行いました 。

その中で、再生に向けた核心的提言として、前回のこのブログでも触れた、政治・行政における「解散権行使の制限」と、戦略的基盤としての「パブリックリレーションズ(PR)」による国家経営の正常化を強く訴えました。

ロンドンには、1990年から2000年初頭にかけて頻繁に訪問しました。当地に本部があった国際PR協会(IPRA)の役員を務めていたためですが、久しぶりに訪れて、街の雰囲気が変わったことに驚きました。

市内を歩いても、外国人の数が飛躍的に増えているのがわかります。見た目で3割程度でしょうか。インド系に加え広いアジアの国々、アフリカ、東欧などから移ってきた人たちが圧倒的に増えています。アメリカではトランプ政権になり移民に対する目が厳しくなっていますが、英国でも移民問題は大きな社会的課題です。翻って日本も、人口急減により外国人労働者が急増しています。言葉の障壁もあり、対応には困難が待ち受けていることが容易に想像できます。

今回のロンドン、オックスフォード大学での講演は、日本パブリックリレーションズ学会が主導した研究会「失われた30年検証プロジェクト」のシニアリサーチャーを務めた藤田幸久氏(元財務副大臣)が、現在オックスフォード大学で客員研究活動を行っていることから実現したものです。

日本からの参加者は藤田氏と私に加え、同研究会のチーフリサーチャーを務めた関口和一MM総研理事長( 元日本経済新聞論説員)が、そして英国側の代表として、元英国産業連盟(CBI:日本の経団連に相当)会長のポール・ドレクスラー氏が登壇しました。

ロンドンで開催されたセミナーは、Daiwa Anglo-Japanese Foundation(大和日英基金)の主催でした。
詳細は省きますが、私の論旨は以下の通りです。日本企業が長期停滞に陥った根源的な要因の一つには、首相が「衆議院の解散権」を持っているために、歴代政権は政権維持といった自身の都合を優先し、「安全の欲求(現状維持)」というマズローの欲求の5段階の下から2つめに止まっていることがある。このため、政治家は本来の使命である、国民の幸せ、自己実現を考えるという上位段階に行きつかないという構造上の問題を抱えている。つまるところ、日本の中央政治は国家を経営する環境にないこと、を指摘しました。

これに対し、日本の経団連に相当する英国最大の経済団体である英国産業連盟の元会長のポール・ドレクスラー氏は、政府の行動力と経済発展の相関について、日英の比較分析を披露しました。また、MM総研理事長の関口和一氏は、ソフトウェア投資の遅れによる「IT赤字」の現状を詳述 。そして、藤田幸久氏は、説明責任の欠如が招く「Statecraft」の不在について警鐘を鳴らし、多角的な視点からの解決策の必要性を語りました。

翌日は、ロンドンから90キロ離れたオックスフォードに入りました。12世紀に創立され、39のカレッジを擁するオックスフォード大学には当時からの建物も残り、町全体が学園都市の雰囲気をたたえています。教会もある、重厚な雰囲気に包まれたキャンパスは壮観でした。

オックスフォード大学政治国際関係学部(DPIR)で開催されたセミナーには、現地在住の英日研究者やジャーナリスト、国際NGOの専門家、在校生などが集まり、専門性の高い議論が展開されました 。

オックスフォード大学評議委員会副会長(元JPモルガン副会長)のチャールズ・ハーマン氏は、かつて世界の最先端を走っていた日本経済について触れ、日本再生への期待を寄せました。一方私は、再生の核心として「首相の恣意的な解散権行使」の制限を改めて提言しました 。
現在の政治構造が説明責任の欠如を招いている現状に触れ、日本国憲法7条にある解散権を制限し、安定した政権基盤を確立することこそが戦略的な国家経営の第一歩である、と訴えました。

英国の後は、3つ目の講演地、ポルトガルのリスボンへと移りました。国立リスポン大学で、米国ノースカロライナ大学コミニュケーション学部のシャノン・ボウエン教授が中心になって創設した学術組織GSCCの年次研究発表会に、キーノートスピーカー(基調講演者)として招かれたのです。

ボウエン教授とは20年以上前に、メリーランド大学院で、ジェームス・グルーニツグ先生(同大名誉教授)の声がかりで特別講義をした時に、担当教授として知り合って以来のお付き合いです。世界規模でコミュニケーション研究を行っているこのアカデミアの集まりでは、私の持論であるマルチステークホルダー・リレーションシップ・マネージメントについて、「日本の失われた30年」を題材に話しました。

アメリカや他の国々におけるパブリックリレーションズは、コミュニケーション・マネジメントをベースとしています。私は、複雑化し混迷する社会では、多様なステークホルダーとのリレーションシップ・マネージメントがより重要になる、との論旨で講演しました。

私にとっては初めてのリスボン訪問でしたが、ポルトガルは日本が出会った最初の西洋の国、親日国でもあり、快適で刺激に満ちた滞在でした。かつてヴァスコ・ダ・ガマやマゼランが世界探検のため出航した港や、世界最古の書店、毎年2千万本のワインを出荷するというワイナリー、そして郊外にあるファチマを訪問するなど、身も心も癒された3日間でした。

今回、欧州を回って気がついたのは、日本と比べ物価が非常に高いことでした。日本円の凋落も大きな要因ですが、タクシーやレストラン、ホテルなどの料金は、日本のほぼ倍かそれ以上です。

国家ブランド指数の第1位は日本!

日本に関しては、どちらかといえばネガティブな論調の報道が多いと感じる昨今ですが、ポジティブな側面も認められています。例えばアンホルト-イプソスの年次調査「アンホルト-イプソス国家ブランド指数 (NBI: Anholt-Ipsos Nation Brands Index)2023」では、日本がドイツを抜き、国家ブランド指数で60カ国中1位となり、アジア太平洋地域から初めてトップに立ちました。

イプソスのグローバルCEOであるベン・ペイジ氏は「ここ数年の日本の世界的な人気の高まりと、その結果最も印象的な国となったことには目を見張るものがある」とコメントしています。

日本の順位は軒並み向上し、6つの指数すべてでトップ10入りしました。特に「輸出」の指標は引き続き強さを発揮し、さらに科学技術への貢献、クリエイティブな場所であること、製品の魅力という3つの属性すべてで1位を獲得しています。また、「人材」と「観光」でも日本は高い評価を得ており、「雇用可能性」と「活気ある都市」でも高いランクに位置します。

「日本が地球上で最も称賛される国になったのは、ドイツと米国以外では初めてであり、世界のソフトパワーバランスが目の前で変化していることを裏付けている。新しい秩序の時代の始まりであり、アジア世紀が幕を開けた最初の紛れもないサインをNBIは示している」と、NBIの創設者サイモン・アンホルト氏は述べています。

私たち当事者からの目と、外から日本を見る目の乖離の大きさが気になるところですが、日本に対する世界的な評価は決してネガティブではありません。このように、世界からの期待が日本に向けられている今こそ、多様なステークホルダーとのリレーションシップマネジメントであるパブリックリレーションズを、社会や国家の健全な運営を支える「戦略的なガバナンス構築の基盤」として捉え直すべきであると強く感じています。

あらためて井之上パブリックリレーションズのミッションである「パブリックリレーションズを通し、平和で希望のある社会づくりをめざします。」を心に刻み、行動してまいりたいと思っています。

最後に、今回の欧州訪問でお世話になった関係者の皆さまには、この場をお借りして心より感謝を申し上げます。

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