趣味

2007.04.20

私の心に残る本 その5 ジャン・ジオノの『木を植えた男』

地球規模の自然環境破壊による深刻な問題が噴出するいま、私たちにとって環境保全の重要性は容易に理解できます。しかし今から半世紀も前に、自然の大切さを理解し、中でも人間の営みで不可欠な森林をテーマとした作品があります。

それはジャン・ジオノの『木を植えた男』。1987年、アカデミー映画賞でカナダの著名な映像作家フレデリック・バックがてがけたアニメーション映画『木を植えた男』が短編映画賞を獲得。その映像のすばらしさで話題になりました。私はつい先日、その書籍版に出会いました。

今回は、わたしの心に残る本 その5として『木を植えた男』の書籍版(1992、フレデリック・バック絵 寺岡 襄訳、あすなろ書房)をご紹介します。

■ たった一人で世界を変える

舞台はフランスの山岳地帯。たった一人で強風吹き荒れる土地で黙々とどんぐりを植え続け、香り豊かな風そよぐ森林を甦らせた男がいました。これは、30年間にわたり、荒地に木を植え続けた男に出会ったある若者の目を通して、その男の軌跡と森が再生していく姿を美しく繊細に描いた物語です。

この作品の著者ジャン・ジオノ(Jean Giono,1895-1970)は、1895年フランスのプロヴァンス地方、マノスクに生まれました。16歳で国立割引銀行マノスク支店に就職。1914年、第一次世界大戦に出征した後、29年に発表した処女小説『丘』がアンドレ・ジイドに認められたのを機に作家活動を開始。代表作には『世界の歌』『喜びは永遠に残る』などがあります。

この作品「木を植えた男」は、はじめに53年、「リーダーズ・ダイジェスト」誌から「これまでに出会った最も偉大な人物」の執筆依頼を受けて書かれましたが、フィクションであったことから同誌には掲載されませんでした。しかし翌年米ヴォーグ誌が英語版「木を植えた男」を掲載。ジオノの斬新な考えはたちまち世界を魅了しました。今では少なくとも12ヶ国語に翻訳されています。

彼が生涯を過ごしたプロヴァンス地方は、アルプス山脈から冷たい北風が吹きおろす、厳しい気候の土地。 自然の中で育ったジオノは、若い頃から自然とのふれあい、樹木の重要性を理解していました。本作品は、彼が幼少のころ父親と一緒にどんぐりの木を植えた体験をもとに書かれたと言われています。

強い信念、深い理解そして勇気

たった一人で偉大な変化をもたれせた要因は3つ。強い信念と行動。土地と樹木に対する深い理解。絶望に立ち向かう勇気。

妻と子供を失った孤独なブフィエが抱いた強い思い。それは荒涼とした不毛の土地に樹木という伴侶を育てたいという思いでした。土地と樹木を知り尽くしていた彼は、人生という限られた時間の中で、彼の思いを成就させるためにこの地に生命という種を植え付けることを決心します。

1年かけて植えた楓(かえで)の木が全滅したとき、ブフィエは絶望の淵に立ちながらも夢を捨てませんでした。彼はそれでも毎日丁寧に種を植え続け、30年という年月を通して不毛の地を幸いの地へと再生させていったのです。

地球規模の自然環境破壊による深刻な問題が噴出するいま、この作品が放つメッセージは私たちの心に強く訴えかけます。
ジオノは、その生涯に30冊以上の小説、エッセイ、映画シナリオ等を手がけました。彼は、自然の大切さ、心の豊かさをテーマにする作品を多く残し、1970年、マノスクでこの世を去りました。

この本を読むうちに私のなかにあることが想起されました。殆んど知られていない話ですが、何年か前、フジモリ元ペルー大統領が東京滞在中に私に語ってくれたことがありました。農業の専門家であった彼が大統領在任中、ペルー全土に100万本の植樹を行なった話です。かっての農業工学者としての熱い情熱と信念が、テロや経済恐慌と戦っていた最中でも途切れることなく生きつづけていたことに感動したときのことでした。

この本と別に、同じあすなろ書房から絵本としても出版されています。またパイオニアLDCから『「木を植えた男」他/フレデリック・バック作品集』DVD版が発売されています。本書と合わせてご覧になってみてはいかがでしょうか。

この本は、一人の男が起こした奇跡を目の当たりにして、人間の信念と崇高さに深い感動を与えるとともに、自分の夢に向かって一歩踏み出す勇気をも与えてくれます。

私は常日頃、一人の人間の持つ力と影響力の大きさについて考え、パブリック・リレーションズに携わるPRパーソンに求められる個の強化を訴えています。この本は、ひとりの人間の不屈の精神と魂の偉大さを私たちに語りかけています。

「たった一人の男が、その肉体と精神をぎりぎりに切りつめ、荒れ果てた地を、カナンの地(幸いの地)としてよみがえらせたことを思うとき、わたしはやはり、人間のすばらしさをたたえずにはいられない」

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