趣味
2007.06.22
私の心に残る本 7 晴佐久昌英の「恵みのとき 病気になったら」
こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。
私は、先週から今週にかけての1週間を病院のベッドの上で過ごしました。
検査入院のつもりが、過労のため体調不良を起こしているとわかり、安静を確保するための30年ぶりの入院となりました。
6月17日の日曜日は父の日。息子が私を見舞いに訪れ、一冊の本をプレゼントしてくれました。
本のタイトルは『恵みのとき 病気になったら』(2005年、サンマーク出版)。
この本には、大腿骨腫瘍切除という大きな病を経験した著者の晴佐久昌英さんが一晩で書き上げた一編の詩「病気になったら」とその詩作の背景を語った「泣いてもいいよ」が収められています。今回は「私の心に残る本 7」に、この晴佐久昌英さんの本をご紹介します。
プレゼントの包みをほどくと、その表紙には、白い雲が浮かび小鳥が舞う緑の丘の上を歩く少年の姿が描かれていました。80ページほどの小さな本ですが、カラフルでふんわりとした絵が印象的で、さっそく本を開いてみました。
■ありのままの自分を受け入れる
最初に目に飛び込んできた言葉は、
「病気になったらどんどん泣こう…….
またとないチャンスをもらったのだ
じぶんの弱さをそのまま受け入れるチャンスを」
そこには、ありのままの自分を受け入れれば、自分の中から愛や喜びが自然に溢れ始めるという作者からの強いメッセージがありました。
作者の晴佐久昌英さんは1957年、東京に生まれました。その後上智大学を卒業し、87年、司祭に叙階。 現在、カトリック高円寺教会の司祭を務めています。
彼がこの詩を書くきっかけとなったのは、大腿骨の腫瘍切除という自ら患った病でした。入院していた時に感じた様々な想いを一篇の詩に託したのです。この詩が、ある機関誌に掲載されたのを契機に「病を肯定的に捉えることで心が癒され、安らぎを取り戻した」と各方面から大きな反響を呼びました。やがて、病と闘う人、患者を看病する人、医師や看護士といった病院関係者など、人から人へと伝えられ、全国に広がっていきました。
2003年、彼はこの詩も収録された自身の詩集『だいじょうぶだよ』(女子パウロ会)を出版。それが編集者の目に留まり、この詩だけを載せた本の出版企画が持ち上がり、この本が誕生したのです。
挿絵を描いたのは、森雅之さん。1957年、北海道に生まれ、76年、雑誌「漫波」のなかの『写真物語』でデビュー。96年には『ペッパーミント物語』で第25回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞しています。
その特徴は、柔らかなタッチと豊かな色づかい。少年と少女のキャラクターを使った彼の絵は、まるで晴佐久さんのシンプルな言葉を軽やかなメロディーで包み込むようにぴったりとマッチし、読者の心に深く染み込んできます。
「病のときは恵みのとき」
「病気になったら 心ゆくまで感動しよう………
忘れていた感謝のこころを取り戻し
この瞬間自分が存在している神秘
見過ごしていた当たり前のことに感動しよう」
これは、この星に生まれた喜びをできるだけ多くの人と分かち合いたいと強く願う著者が、喜びの源は感謝や感動にあると語りかける言葉です。
人はひとりで生きてはいけません。この世に存在する万物との関わりの中で生きています。個人、そして組織体はそれを取り巻く環境(パブリック)との絶え間ないリレーションズ(関係構築)の上に成り立っているのです。全てを受け入れ、自分を取り巻くあらゆる関わりに思いを馳せ、素直に感謝し感動する。この気持ちを大切にして人とつながれば、その人たちとの関係性は必ずや良好なものになるはずです。
作者は最後にこんな言葉を読者に送っています。
「病気は闇の体験ではなく、光の体験だと。涙は敗北ではなく勝利なのだと。どんなにつらい病気になったとしても、人は生まれてきてよかったのだと。『病のときは恵みのとき』」
先日、無事退院しました。ひとりの空間で過ごした時間はとても貴重でした。
ステキな父の日のプレゼント、ありがとう。