時事問題

2010.01.04

新年号 情報発信を通して世界のリーダーに 〜パブリック・リレーションズの使命

新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

昨年は政治と国民が融合した年であったように思います。1月の米国オバマ大統領の就任に始まり、8月の政権交代による日本の鳩山首相の誕生から新政権の施策に至るまでのプロセスは、私たちに政治をこれまでになく身近に感じさせてくれました。今年はどのような年になるのでしょうか?

「日本はデフレ・スパイラルに陥った」、「日本経済の2番底がくる」、「日米関係はどうなるのか?」、「少子化問題をどうするのか?」などなど、日本にとって問題は山積しています。

相互理解と情報共有化が鍵に

21世紀になって10年が経とうとしています。20世紀は、多くの国家を巻き込んだ2つの大戦をはさみ、多数の人命を犠牲にして歴史を刻んだ世紀といえますが、21世紀は初頭においてさまざまな問題がグローバル化しています。国家間の戦争は局地的なものになってきてはいるものの、宗教や文化的な違いによる民族間の衝突が世界的混乱に拡大する危惧さえ持たれています。

これらの混乱の多くは相互不信からきていることが分かります。相互不信は一般的に、情報が互いにシェアされていないことから起き、相互理解の欠如の結果としてもたらされる場合が多いといえます。世界の紛争の歴史は情報が共有されない相互不信の歴史でもありました。IT・ネット時代の今日、人類が同じ過ちを繰り返さないためにも、対称性を持った情報が共有されなければならないのです。

情報が共有されることにより、複数の国家を政治、経済の面で統合させることも可能なことは欧州連合(EU)を見ていてもわかります。欧州何千年の歴史の中で初めて20を超える国家が統合されたことはもっと評価されていいのではないでしょうか?

2009年11月に、欧州連合(EU、加盟27カ国)で共通の大統領が選ばれました。新基本条約「リスボン条約」で新設される欧州理事会常任議長(俗称:EU大統領)にベルギーのファン・ロンパウ首相が就任し今月から正式にスタートしました。一方、EU外務・安全保障政策上級代表(俗称:EU外相)には、英国のキャサリン・アシュトン欧州委員(通商担当)が就任します。約5億人の大欧州を代表する「EUの顔」が出来上がったことになります。

私は90年代に、国際PR協会(IPRA:ロンドン)の本部役員をしていたときに、欧州人が情報共有に如何に秀でているかを思い知らされたことがあります。彼らはどのような些細なことでも議論し、相手の理解を得る努力をします。その根底に流れるのは相互尊重です。面白いことに、彼らは時として米国のメンバーと意見衝突することもありましたが、そのようなときは、概してシンプルでおうような米国人と、複数の言語を駆使し、物事をより多面的に捉える繊細なヨーロッパ人との情報共有に対する姿勢の違いがあったように思います。

情報共有のためには、常に自分たちの考えを国民や国際社会に伝えていかなければなりません。伝えることで相手からのフィードバックがあり、情報共有ができるからです。ある意味で政策実行を行う側は、国民や納税者に対して「説明責任」を持つことになります。自著「『説明責任』とは何か」(PHP研究所、2009)には説明責任を果たすためには、政策プログラムの作成および実行の段階で、それぞれ3つのフェーズ(段階)があることを記しました。

1)計画段階  2)実施段階  3)報告段階 の3つで、明確な目標設定とそれぞれの段階での進捗状況を知らせることで説明責任を果たすことになります。これはまさに対象となるターゲットとの関係で、情報を共有することにほかなりません。

何を日本の切り札にするのか

毎日新聞が元旦の社説「2010 再建の年 発信力で未来に希望を」で面白い記事を書いていました。日本再建のためのヒントとして、大きな危機を克服して国の再建を果たしたとされる奈良時代の施策を紹介した後、日本文化の発信の必要性について次のように記しています。

「最後に強調したいのは文化の発信力だ。奈良時代、先進文明の吸収に励んだ人々は同時に独自の文化も創造していた。万葉集は天皇、皇族から防人、東国の民に至る幅広い作品を集め、今も愛唱されている。伝来の漢字を用いた『万葉仮名』は後のカタカナ、ひらがなにつながった。」と当時の外から貪欲に吸収しながらも独自文化を築いていたことに触れています。

また、「私たちは豊かな伝統文化を持っている。新しい文化と共鳴し、新たな創造に結びつくという優れた環境もある。例えば万葉以来受け継がれている和歌の世界では今も次々と新感覚の作品が生まれている。村上春樹氏の作品が世界的な支持を受け、映画やアニメ、日本食などが国際的に高い評価を得ているように、文化は日本が持つ重要資源である。

日本の発信力を高めることが日本の再建にもつながる。人々が未来に希望を持てる国にしよう。」。まさにソフト・パワーを使うことの必要性を説いているわけですが、この社説に私は強い共感を得ました。

ひるがえって、いま世界は歴史上はじめてグローバル社会の中で、それぞれの国や民族がどのように共生すべきかを真剣に考えるようになったといえます。CO2問題は、海抜の低い島国であるツバル共和国を海底に沈めることになるでしょうし、南極や北極の氷を溶解させることによって世界の生態系や気象に異常をもたらし、地球の存続すら危うくする世界共通の問題として認識されています。

地球が生存するためには、抜本的な対策が必要なことは昨年12月のCOP15が明示しています。これらの問題でソリューションを持っている国は、限られた先進国、突き詰めると日本と米国の2国になるといっても過言ではありません。とくに省エネ、公害技術で日本は世界の最先端を走っているからです。

今こそ日本はその持てる力を十二分に発揮してコペルニクス的な産業構造の大転換を行う時が来ていると考えます。つまり、エネルギー源として石油・石炭を一切使用しないところから全てを組み立てていくことを考えることです。

2020年までに、日本のCO2を90年実績の25%減という数字は極めて困難と経済界は異論を唱えています。しかしながら3-4年で行うということではなく10年かけて行うことで、国家が真剣に、戦略的に目標意識をしっかり持って実行すれば、不可能なことではないと思うのです。これらには、既存の国家予算の中で行うのではなく、将来大きくリターンが見込める投資として、惜しげもなく資金を投下すべきであると考えます。これらは国民を勇気づけるだけではなく、強力な経済刺激策にもなるはずです。

こうして見ると情報の共有化にせよ、日本がそのプレゼンスを内外に示すことにおいても、手法としてのパブリック・リレーションズ(PR)が強く求められることが容易に理解できます。どんなにいい技術でも、知られなければ広く社会の役に立つことはできません。日本の持つ最先端の環境技術を世界に伝え知らせることで、人類が生存する上での共通テーマである地球環境問題で確実に世界のリーダーとなることが可能だからです。

今年がこれらのチャンスを具体化する年であることを願っています。

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