時事問題

2009.12.07

リスクを取らない日本企業

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

リーマンショックから1年以上たち世界経済は回復の兆しを見せています。しかし日本は欧米諸国と比べダメージが少なかったものの、相変わらず出口が見えない状況にあります。為替レートも円は一時14年ぶりに84円に高騰。景気回復から脱出しつつある輸出型企業に深刻な影響を与えています。

戦後の廃墟から立ち直った日本企業は、松下幸之助、本田宗一郎、川上源一、井深大・盛田昭夫などさまざまな名経営者を輩出してきましたが、最近これら先駆者と並び称される卓越した有能な経営者が見られないのは寂しい限りです。どうしてこのような状態になってしまったのでしょうか。

一番風呂に入らない日本企業

先日ある外資系IT会社の米国人社長から、日本企業のマネージメントが機能していないことについて、こんな話を聞きました。「近頃の日本企業は、リスクをとらない」そしてその理由として、「外から持ち込まれた案件を決定するのに時間がかかりすぎ、相手が嫌気をさして、ほかの企業に話を切り替えざるをえなくさせている」。ほかの企業とは、「日本企業を指すのではなく、多くの場合中国企業」と残念がっていました。

また、海外進出にしても、「日本企業は単独行動をとりたがるが、そのために社内決定に時間がかかりタイミングを逸することも多くなる」。海外の新市場、とくに中国市場の場合は歴史的な経緯もあり、「一社で進出するより、自社で弱い部分は他社(欧米など)とダイナミックに提携し、積極的な市場参入を考えるべき。さもないと出遅れてしまう」と最近の日本企業がスピードに欠き縮み志向にあることを心配しています。彼の奥さんは日本人で、「他人事ではない」と真剣に話をしていました。

このような日本企業や社会の縮み現象に対して、12月4日付けの日経MJは大手広告代理店J・W・トンプソンの2009年調査を引き合いにし、「日本人は世界一『不安』?」とする見出しで、不安を抱えている人の割合は、日本が世界の主要10カ国のなかで一番高い数値(90%)を示していることを明らかにしています。ちなみに、ロシア(84%)、米国(76%)インド(74%)の順で、一番低いのは中国の35%。

新しいビジネスや市場に参入するときリスクはつきものです。戦後日本企業は、廃墟から事業をスタートさせ、80年代初頭には経済超大国に導いた原動力としてもてはやされました。日本企業のこのような性向について外国の経営者に説明するとき、私は「多くの日本企業は一番風呂に入らない」と表現することがあります。つまり、誰かが先にマーケットに入って、成功するのを見極め、そのあとから次々と参入するといったいまの日本企業の特殊性について言及します。試行錯誤のなかで自らの創意工夫とリーダーシップによってサクセスストーリーを築いた冒頭の経営者が懐かしく感じられます。

イノベーションが育つ環境を

OECDの発表によると、加盟30カ国の一人当たり国民総生産(名目GDP)の順位は1993年の第2位($35,008)から2007年には18位($34,252)に転げ落ちています。また、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の発表では、1993年に世界第1位であった我が国の国際競争力は、その集計方法には年度で差異があるものの、2007年(平成19年)の最新ランキングでは第24位にまで転落、そして中国が上位に入れ変わりアジア3位で、シンガポール・香港に続いています。まさに奈落の底を転げ落ちるような状況。
興味深いことに、現在世界で活躍している大企業は、トヨタ、日産などの自動車、三菱重工、日立、東芝などの重電、機械では小松製作所や荏原製作所などのメーカーや大手商社など。これらはいずれも大半が戦前に創設された企業。一方、インテルやアップル、ヒューレット・パッカード、マイクロソフトなど、世界企業ランキングで上位を占める米国企業の多くは戦後誕生した企業です。

つまり日本では相変わらず、歴史や伝統のある会社が日本経済を牽引していることになります。ITの進展で、めまぐるしく世界が変わり、かっての日本の役割を中国や他の新興国が果たすようになったいま、日本には抜本的な企業環境を変えることが求められています。

日本経済は厳しい景気後退局面にありますが、このような時期こそ思いきった改革のチャンス。日本経済がこの難局を打開し、持続的成長経路 をたどるためには何が必要か。就職を希望する学生のマインドセットも変え、「寄らば大樹の陰」ではなく、「起業により、日本社会を変える」といった気概すら求められているのです。変革期だからこそチャンスはあります。
一国の首相がめまぐるしく変わる戦略のない日本。政治の在り方について抜本的な見直しが迫られる新政権には、そうした新興企業がイノベーションを武器に、伸び伸びと成長できる環境を国家の長期的成長戦略の中に具体的に組み込むことが求められています。

日本経済の二番底が危惧されています。大型経済対策が期待されますが、このような時期だからこそ成長性の高い領域への思い切った対応が必要とされています。とりわけ環境および新エネルギーなど日本が他国をリードする、強い分野への戦略的な取り組みと集中的なバックアップが強く求められています。これらへの投資は、現在の国家予算の枠組みを超えても実行すべきもの。リターンが期待できる意味で、将来の豊かな日本を担保する投資となるはずです。

社会を変革させる場合には強力なパブリック・リレーションズ(PR)が求められます。私たちに残された時間はあまりないのです。

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