アカデミック活動

2006.02.03

世界最大級のリスク・コンサルティング会社、エーオン・ジャパンの会長、ランディ・和田さんを講師に迎えて〜「成功するも失敗するもPR次第」

先週、早稲田大学の「パブリック・リレーションズ 概論」の授業に、米エーオン社(Aon Corporation)の日本法人会長のランディ和田さんをお招きしました。そして「ビジネスの成功に不可欠なパブリック・リレーションズの重要性」についてお話しいただきました。

シカゴに本拠地を置くエーオン社は、保険・再保険仲介、リスクマネジメント・コンサルティング、人事コンサルティング、保険引受などの分野でソリューションを提供するグローバル企業です。その売上高は約1兆円。世界に4万7千人余りの従業員を擁し、120カ国の500を超える拠点をネットワークし、主にB to B(企業間取引)向けビジネスを展開しています。

特にリスク・マネジメント分野ではリーディング・カンパニーで、世界中にスタッフ7,000人を擁しています。一般企業へのリスク管理支援や、ロンドンのオフィスでは政・財界の要人の誘拐事件に対応するため、世界中どの地域にも即座に専門家を派遣できるシステムを整えるなど、ユニークで専門性の高いサービスを提供しています。

ランディ和田さんは米国カルフォルニア出身の日系3世で、1973年、学生時代に交換留学生として早稲田大学で一年間学んだ経験のある方です。ですから33年ぶりに訪れた早稲田の杜はランディさんにとってノスタルジックだったようで、キャンパスを歩きながら往時の校舎や、オイルショック時の暖房のきかない寒い教室で震えながら授業を受けたことなどを懐かしそうに想い起していました。

講義の中でランディさんは、企業経営、特に外資系企業が日本市場に進出する際に、パブリック・リレーションズが如何に有効であったかを自身の体験をとおして語られました。

日本でのビジネスは1999年、エーオンリスクサービス・ジャパン社長として派遣されたことに始まります。社長就任後のランディさんは、日本でのエーオンのビジネスの実情を知って愕然としたそうです。当時の日本法人のスタッフは50人あまりでしたが、顧客の8割は外資系企業。そして新規顧客の全てがエーオン・グループの紹介。日本の顧客が殆んどなく、実質的なビジネスが展開されていない現実を突きつけられたのです。

現状打破のために日本企業を新規顧客として獲得するためにはどのようなアクションをとるべきかを考えました。当時日本では無名であったエーオン・ジャパンを「リスクマネジメント・コンサルティングのエーオン」として法人担当者に認知してもらうには、最優先の課題として、費用がかかっても外部PR専門家のアドバイスが必要と考え、PR会社からコンサルティング・サービスを受けることを決断したそうです。

はじめの作業は、明確なゴール(最終目標)やビジョンを明らかにし、その実現のための戦略を構築することでした。そして「B to Bマーケットでの認知度向上」をゴールに掲げ、メディア・リレーションズ、つまりメディアとの関係構築を積極的におこなうことを戦略の中心とするプログラムを立案し実行しました。

メディアの中でさえ社名はもとより、リスク・マネジメントについての認知がない状況で、エーオンがどんな企業なのか、リスク・マネジメントとはどのようなものなのか、理解を深めてもらうためにプレス・ブリーフィングやプレス・リリースの配信のほかにメディア(プレス)・ランチョンやワークショップを積極的に催しました。そしてメディアでの認知度が高まった頃から、メディアからリスク・マネジメントについてのコメントやインタビューを逆に求められるようになり、双方向のコミュニケーションが機能するようになったといいます。

また当時、フィーを払ってリスク管理する習慣のない日本企業に対して、「外部専門家からのアドバイスを受けることが経営資源の保全には必定」との概念を定着させるための啓発活動なども行いました。こうして専門家として質の高いサービスが提供できる企業であることをアピールしていきました。

これらの活動の結果、メディアに一度も掲載されなかった2001年と比べ、2002年9月から約16ヶ月間の活動で新聞やネット上での露出頻度が格段に高まり、当初ゴールとして掲げていた「B to Bでの認知度の向上」を達成することができました。メディアへの露出で得られた認知度の向上は、日本国内でのビジネス拡大に大きく貢献しました。その後関係省庁とのガバメント・リレーションズやアソシエーション・リレーションズなど活動領域を広げていきました。

5年間で売上高は11倍を記録。顧客の中で日本企業の占める割合も2割から8割へと飛躍的に拡大し、スタッフも50人から400人に増員されました。パブリック・リレーションズのゴール達成がこの数字に大いに寄与したことをことは言うまでもありません。エーオンが契約したPR会社は井之上パブリックリレーションズでした。

米国のエーオン本社でもパブリック・リレーションズの重要性を認識しており、独自の定義を掲げているそうです。ちなみにその定義は「パブリック・リレーションズとは、企業とパブリック(一般社会)とが互いに利益ある関係を確立させるための管理機能であり、成功するも失敗するもPR次第である」となっています。

以前も述べたとおり、パブリック・リレーションズの定義は何百とあり、これはその中のひとつです。そしてこの例から、アメリカでは企業が独自のPR定義を持つほどパブリック・リレーションズが経営戦略の主軸に位置づけられていることが確認できます。

ランディ和田さんは講義終了後、受講生の質問に答えて「パブリック・リレーションズにはコストがかかり、一見、売上げに直結しているようにはみえにくい。しかし、パブリック・リレーションズが事業のみならず企業全体のブランド・イメージや評価に与える影響は大きく、やるだけの価値は大いにある。そして、継続的に行うことが肝要である。継続性をもたせることで常に変化する企業内外の環境に対応できるようになる」とコメントしてくれました。

この授業で、パブリック・リレーションズを導入することにより日本での事業を成功させた実例を披露して頂いたことは、パブリック・リレーションズを学ぶ学生諸君にとっては説得性があり、学ぶところが多かったのではないかと思います。

ランディさんは去年4月、エーオンの日本の事業を統合するエーオン・ジャパンの会長に就任されました。多くのリスク要因を抱える日本企業のサポートのためにエーオン・グループのトップとしてますますご活躍されることをお祈りしています。ランディ和田さん、ありがとうございました。

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