アカデミック活動

2012.07.09

グローバルビジネス学会特別講演会 霍見芳浩教授を迎えて〜日本に警鐘を鳴らし続けてきた稀有の学者

こんにちは井之上 喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

先日、アメリカからニューヨーク市立大学大学院教授の霍見(つるみ)芳浩さんが来日しました。この機会を利用し、グローバルビジネス学会のアドバイザリーでもある霍見教授に、同学会主催の特別講演でお話しいただきました。

ハーバード大学で、日本人初のDBA(経営博士号)を取得したことでも知られている霍見さんの講演テーマは「21世紀の第三次産業革命と企業の国際戦略の新局面」。
講演が7月の開催ということを考え、会場は気分転換にホテルオータニにあるレストラン「トレーダーヴィックス」で行われました。

多くの日米問題をNYから発信

霍見さんとの初めての出会いは20年以上前の日米経済摩擦が佳境の時でした。当時は日本の経済力も強く、両国の経済摩擦激化の渦中NYにいながら両国関係を冷徹な目で観察・分析し日米双方に警鐘を鳴らしていました。

特に日本に対して、ある時は厳しい忠告、ある時は日本政府や企業へのアドバイスなど、さまざまな分野でコメントを発してきました。

霍見さんがハーバードビジネススクール時代に前米国大統領ジョージ・ブッシュJr.を教えたことは広く知られていますが、ブッシュJr.の大統領就任時には大統領としての適性に対して早くから危惧するなど、オープンでストレートな発言は常に聞くものに緊張感を与えたものです。

1990年代半ばに米国コダック社が富士フィルムを提訴した際には敢然と米国の理不尽な対応に対し批判し、富士フイルムに適切な助言を与え、同社を1998年のWTO勝訴に導きました。この時期、日米半導体問題や自動車部品問題などに関わっていた私は、霍見教授の来日のたびにお会いし意見交換を行ったものでした。

そんな霍見教授が講演の中でいまの日本の抱える問題についていくつかの助言を与えてくれました。

新しい人材育成と歴史に学ぶことの重要性

霍見教授は、グローバル化とは、資金・情報・技術がインターネットを通じて世界中で回っていく事であり、それを支える経営システムが、次の時代に不可欠になると指摘しています。

そして日本はもっと変わるべきとし、日本のシステムを平たく言うと、20世紀の第2次産業革命に完全適応するマネジメント機構であり、21世紀になった今でもそれを引きずっていて、このまま第3次産業革命に突入するのは無理があると語っています。

これからの日本にはグローバル化を支える経営システムが必要とし、メーカーの企業経営には生産技術だけではなく、経営力つまりソフト力が求められるとしています。

規模の経済がもう通じない中で、「経営力」=「国際政治力」、「国際的人材」の投与がエッセンシャルであるとし、以下の3つを挙げています。

まず最初に、経営トップは進出先の大統領と会ったときに話せるか?それと同時に向こうも話したいと思っているか?

次に、日本の自動車に代表されるメーカーは、いかに米国社会に貢献つまり土着化(雇用創出)しているかを広く伝えているか?在米日系企業は米国での現地生産により、今や100万人の雇用を維持していることを強調すべきと話しています。

3つ目は、「生え抜きにこだわらない人事制度」や女性を登用しているか? 本社で実践していないことを世界で実践することなどできないと断言。

ある米国の日系自動車メーカーの有能な米国人マーケティングのスターが米国の競合会社からの途中入社で17年間も会社に貢献してきたにもかかわらず優遇されず、愛想を尽かして元の競合会社に戻った話しを聞かせてくれました。

霍見教授は米国の産業政策に影響を与えたビジネススクールの教え方に批判的で、その講義内容を見ていると、かつては製造業に戻ることを前提にプログラムが組まれていたが、今やその流れは消えてなくなり、Labour Economicsなどの労働関連の講義が完全に講義からなくなってしまった。

その結果、ビジネス自体が金融など、マネーゲームであるかのように教えられ今日の流れになっていると指摘しています。

同氏は、「今までその事を指摘し続けてきたが、最近やっとアメリカ内で注目されてきた。その結果、本社が中国などから人を呼び戻している。」とし、米国経済が製造業への回帰を図っていると語っています。このところオバマ大統領が米国の製造業復権に力を入れているのもうなずける話です。

特に根幹に関わる事業は自前で生産し、市場からのクイック・レスポンスをフィードバックさせ製造業を再生するとした手法は、日本企業が米国へ進出し、試行錯誤により独自のシステムを作り上げていくプロトタイプになっているとし、サプライヤーと協調して事業を行うクラスタリングの雛型になっているとしています。

イメージ商品であればある程、社会にいかに貢献しているのか?が重要になって来ると語っています。

霍見さんは日本企業について、80年代の日本企業ではない、新しい企業のあり方についてもう一度本格的に勉強し直さなければならないと強調しています。

また今の日本は「坂の上の雲」に代表される幕末から明治への転換期を学ぶ事が絶対不可欠であることを強調。当時は、教育制度、精神的武士道(=公的奉公)という土台があったとしています。

また教育問題についても触れ、現在の偏差値、指定校制は不要とし、英語教育を含めた教育の見直しの必要性を強調。今の日本には型破りの人材が必要で、面接に参加する人間に何を勉強したのかをひたすら聞くようにすべきだとアドバイス。

とくに日本人はディベートがあまりにも下手で、感情が表立ちすぎる。一方で、アメリカは小中高大、全てで勉強する。またまとめる作業もあるのでここで力がつくとしています。

英語の重要性は高まっているものの、いまだに日本は北朝鮮と同等レベルとし、日本は散々英語教育を受け、海外にも自由に出られるにもかかわらず、英字新聞1つ読めない。それを恥とも思っていない事実が恐ろしいと、英語教育を手厳しく批判しています。

日本から来る留学生を見ていると、女性は実に優れている人が多い。一方で、日本で優秀と言われている男性は、海外で落ちこぼれになる可能性が高い。教師として、彼らは要注意な人間であるとし、個人で勝負するグローバル社会で、彼らは一度挫折を味わうことになるが、そこから立ち直った人間は伸びるとしています。

そして日本企業の採用方針が変われば、日本の教育も変わるとし、日本企業の方針転換を促しています。

霍見教授の話の中には、経営トップのコミュニケーション力やさまざまなステークホルダーとの関わりなど、パブリック・リレーションズ(PR)が多く関わってくることがわかります。

まさにグローバルビジネス学会の第一回の特別講演にふさわしい内容でした。

書籍

注目のキーワード
                 
カテゴリ
最新記事
アーカイブ
Links

ページ上部へ