アカデミック活動

2026.03.12

今こそ求められる国民目線の「国家経営」
〜失われた30年を繰り返さないためにも

皆さんこんにちは井之上喬です。

2026年も早いもので弥生です。3月3日の桃の節句も終わり、一気に春らしい天候になって来ましたね。
大雪にご苦労された雪国の皆さんにも、待ちに待った春の到来です。

その目前に世界を震撼させたのは、アメリカとイスラエルのイラン攻撃です。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師が攻撃によって死亡し、その後継者に国内の保守派や革命防衛隊との関係が深いとされる次男のモジタバ氏が選ばれました。
イラン、そしてイスラエル双方で住民が死亡し、イランは周辺国を巻き込んだ反撃を展開するなど、一つ間違えると世界大戦に発展しかねない状況にあります。

さらにこの一帯には石油が埋蔵され、原油を積んだタンカーはイランの目の前のホルムズ海峡を通過しなければならないなど、状況によっては世界のエネルギー供給が大きな影響を受けます。日米欧などが石油備蓄の強調放出を発表するなど、日本の政治・経済への影響は必至で中東情勢から目を離せません。

「高市人気」による自民党歴史的大勝の先に待つのは?

そんな世界情勢ですが、日本に目をやれば1カ月前の2月8日に衆議院選挙が行われました。投票日は東京でも雪が積もるような寒空でしたが、結果は皆さんご存じの通り、自民党の歴史的な大勝利となりました。

自民党は総定数465のうち追加公認を含め何と316議席を獲得。今回は特に小選挙区で圧勝し、全体の約86%にあたる249の選挙区で勝利しました。単に保守地盤の地方だけでなく、東京の30選挙区や神奈川の20選挙区、そして野党が一定の勢力を維持してきた沖縄の4選挙区まで、全国31の都県で小選挙区を独占しました。

この結果自民党は、小選挙区・比例代表並立制が導入された1996年以降で、最多となる小選挙区の議席を獲得しました。一方、選挙の直前に結成された中道改革連合は、小選挙区の獲得議席は7議席のみと惨敗。かつては不動と思われたベテラン議員も敗退し、代表交代による世代の交代も進んだように思います。

任期1年足らずの石破政権から代わり、昨年10月21日にスタートしたばかりの高市政権は、我が国初めての女性首相による政権となりました。若い世代を含む幅広い世代の有権者からの期待もあいまっての高い支持、いわゆる「高市人気」の風を受けて、就任して半年もたたないタイミングでの解散・衆議院選挙が今回です。その結果は本人たちの期待をも上回るものでしたが、結果オーライ、としてよいものでしょうか。

米大統領にもない、日本の首相が持つ解散権の問題

私は国家経営の観点から、以前から日本の首相の解散権について疑問符を投げかけてきました。
同様の主張を展開するオックスフォード大政治国際問題学部客員研究フェロー藤田幸久氏(元財務副大臣)が、衆議院選挙直前の2月5日付け「週刊NY生活」に寄稿した記事「大統領権限に勝る首相解散権」を紹介したいと思います。

記事の中で藤田氏はまず、「60年ぶりの通常国会冒頭での解散、1年3か月ぶりの解散、国民生活に必要な予算後回しの解散など、異例尽くしである」と指摘。さらに、日本の首相の解散権について「世界最強と言える。国民に選ばれた国会議員の地位を、首相の都合で突如奪えるからだ」と説明します。

そうです、国会議員は私たち国民が選んでいるにもかかわらず、首相によって勝手に議員を解任されてしまうのです。再選されればまだしも、突然の解散の後に落選してしまうと、4日以内に議員会館事務所や議員宿舎を去らねばなりません。そんな非常識な決まりに翻弄される議員(政治家)に、どうして国民のための国家経営ができるでしょうか?まさにマズローの「欲求の5段階」の下から2番目の「安全欲求」つまり、先ずは「自分の身の安全から」にとどまった状態にあるのが、日本の中央政治の実態といえます。

藤田氏は続けて海外の事情を紹介し、「『英国の首相は自由な解散権を持つ』という学説は妥当でない。英国首相の解散権にはさまざまな制約がある。英国やカナダなど議会制民主主義国の大多数が任期満了に近い選挙である」と解説します。そして日本で首相解散権が強い最大の理由について、「国会の権限が弱いからである」と分析します。つまり日本の議会は「英国議会よりもはるかに弱く、国民主権の軽視と言える」と断じています。

また、米国の政治システムについては「米国議会は予算編成、法案提出、閣僚や大使の人事や条約の承認権を持ち、GAO(行政監察院)や議会予算局などの独立組織も含めて強大な権限を持つ。その議会以上の権限を誇示しているのがトランプ大統領である」と紹介します。

皆さんもご存じのように第2期就任依来、トランプ大統領は大統領令を多発しています。その数は「230件以上。関税威圧外交、ベネズエラ介入、グリーンランド奪取宣言、政府高官の解任、デモ鎮圧のための軍や警察派遣、メディア検閲など」と、広く強い指揮権を発揮しています。

しかしながら議会の解散権については、「その大統領でも議会の解散権はなく、議員は2年と4年の任期を全うする」と藤田氏は指摘した上で、日本の首相に戻り「米国大統領の強大な権限に勝る権限を日本の首相が持つ。この解散権が首相の平均在任期間を世界最短クラスの約2年としている(*組閣による内閣の寿命は1年半)。これでは各国首脳からの深い信頼は得られない」と、国際的な負の影響も指摘します。

つまり、「比類ない自由な解散権が国益に反することが今回明確になったと言える」と厳しく日本首相の解散権の不備を指摘しています。

ちなみに英国の首相の平均在任期間は4.7年、米国は6.4年、ドイツは7.8年です。在任2年という日本の状態は、民間企業であればとっくに倒産です。加えて選挙のたびに与野党が大盤振る舞いをして、気がついたら国際残高が一千百兆円を超えて世界一の借金大国となっているのです。

こういった政治体制が「外交・安保に限らず、経済、社会保障などの国家戦略立案や危機管理を担う体制の不在が「失われた30年」の原因でもある」と藤田氏は続け、事態の改善に向けて「大統領権限に勝る首相解散権を改革し、長期的な国家のかじ取り体制を整える時である。これは日本の存亡に関わることであり、憲法改正ではなく超党派による国会法などの改正で早期実現をはかる時である」と危機感を伴った結論を出しています。
私自身は、首相に解散権が与えられている日本国憲法7条の変更が必須、と考えています。

また、立命館大学法学部教授の小堀眞裕氏も同様の主張をしています。
日本パブリックリレーションズ学会の「失われた30年検証研究会」がまとめた提言書「日本再生へのチャレンジ-国家経営の不在」のなかで小堀氏は、『英国では党利党略的な議会解散は歴史上なかった』と題し、実は英国と日本は同じように自由に国会を解散できると言われているが、「自由な解散」ができるのは日本だけであると主張しています。

その中で野党の役割に小堀氏は目を向け、「英国が党利党略的な解散をしてこなかったのは野党が強いからだった」とまず指摘、その理由は「政権交代をしてやろうというやる気満々の野党がいると与党は下手なことはできないわけだ」と説明します。翻って日本ですが、「しかし、日本の場合は大抵そうではない。野党が過半数以下の議席獲得を目標に掲げている状況では絶対政権交代はできない」と厳しく分析します。

結論として「だから解散権を使わせない有効な方法が日本にあるとしたら、野党が強くなるということだ。」と主張しています。

次の世代のために国家経営の視点を

米国大統領権限に勝る日本首相の解散権は、結果として短期間での政権交代を繰り返すこととなり、国民主体の「国家経営」が日本で出来ない状況が続いているのは自明の理です。強調されるべき主張は「国民ファースト」の国家経営だと思うのです。

世界的な政治、経済の混迷の度合いが増すなか、日本は少子高齢化、人口減少、労働力不足などさまざまな社会課題を抱えています。若い世代が将来に希望、夢を持てない状況がますます深刻になっており、それは地方に行くと痛いほど判ります。

今回の選挙結果をみて確信したのは、現在はこれまでにない政治体制、市場最高値の株価に象徴される経済状況など、大きな転換点だといえること、そしてその今こそ、国民目線の長期的視点に基づいた「国家経営」が不可欠であるということです。

「失われた30年」のヒアリングメンバーの元東京大学総長の佐々木毅氏の「政治家は100年の時間軸でものを考えよ」の言葉が耳に残ります。

この原稿は、ロンドンのオクスフォード大学やポルトガルのリスボン大学などでの「日本の失われた30年」をテーマにした講演会の合間に、聴衆の皆さんからの熱い視線を感じながら執筆しています。

複雑な要素が入り組んだ問題の解決にはパブリックリレーションズの力が必要です。
「目標や目的を達成するために、さまざまなステークホルダーとの良好な関係構築活動(マルチステークホルダー・リレーションシップ・マネージメント)であるパブリックリレーションズ(PR)」の視点からの考察と行動が求められています。

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