こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。
「日本を民主国家にしたい」、35年間の政治人生を歩んだ北川正恭さん(前三重県知事)が1月20日、 次期衆院選に向け真の改革を推進する組織「地域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合」(略称:せんたく)を発足させました。記者会見の模様は様々なメディアで報じられ、各方面からの期待も大きいようです。
一昨年、昨年に引き続き今年も、北川正恭早稲田大学大学院公共経営研究科教授を「パブリック・リレーションズ概論」に講師としてお迎えし、真のサスティナビリティ(持続的発展)とパブリック・リレーションズについてお話頂きました。
マニフェストはPRそのもの
昨年は2007年の漢字「偽」が表すとおり、老舗を含め多くの偽装が発覚した年。三重県知事時代に徹底的な県政改革を実現させた北川さんは、倫理観のない行動は、持続的な発展を妨げ危機的状況を招くと明言。利益追求型の経営を戒め、倫理観に基づく経営の重要性を挙げました。
そして北川さんは近江商人の商売哲学「三方良しの理論:売り方良し、買い方良し、世間良し」(Win?Win)を紹介。環境汚染が進み、地球の存続自体が危ぶまれる時代にあって、サスティナビリティ(持続的発展)を実現するには、リスクマネジメントとしてコンプライアンス(法令順守)や環境への積極的な配慮など、CSRの発想で経営に取り組むことが不可欠であるとしました。
そしてその手法が倫理観、双方向のコミュニケーションに基づいたパブリック・リレーションズであるとして、企業の真のサスティナビリティには戦略性をもっているパブリック・リレーションズが重要であると語りました。
また選出された政治家が「市民や国民との契約を履行することでより良い世の中を築く」とされるマニフェストは、「パブリック(一般社会)との良好な関係を醸成・維持し、より良い社会を創り出すパブリック・リレーションズそのもの」と明言。また「パブリック・リレーションズは日本の民間企業のみならず、パブリック・セクターへも大きく影響力を発揮することができる手法である」と、そのダイナミズムに期待を寄せました。
「日本を真の民主国家にしたい」
授業の中では個人のサスティナビリティにも触れました。高い志を掲げてそれを実現することで、個人や各人が生んだ思想のサスティナビリティが達成できるとして、早稲田大学の創始者、大隈重信を例に挙げました。
幕末の鍋島藩(現佐賀県)に生まれた重信は、藩校弘道館を経て、1856年から長崎の出島で蘭学や商学を学びました。この頃長崎にいた宣教師フルベッキを通して、米国独立宣言を起草した第3代大統領トーマス・ジェファーソンの独立宣言の一文に触れたといいます。
「すべての人間は平等に創られている( All men are created equal.)」
大隈は、このとき芽生えた民主主義社会の実現という志により、後に政界入り。爆弾襲撃による右足切断にも挫けず、日本初の政党内閣の総理大臣に就任。またジェファーソンがバージニア大学を創設したように、大隈は後世の教育充実のため1882年、東京専門学校(早稲田大学の前身)を創設しました。
「すべての人間は平等に創られている」とする思想は、今でも存在感を放つ輝かしいメッセージ。北川教授は大隈重信の人生を輝けるものにしたのもこの思想であったと語り、高い志は、個人のサスティナビリティに必要な要素であることを強調しました。(ちなみにアメリカ独立宣言にふれた福沢諭吉は、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず...」のもとに慶応義塾を創設)
北川さんは、高い志を具現化する手法がパブリック・リレーションズであるとして、その手法を自分のものにすることで個人のサスティナビリティが実現できるとしました。
また自身の志にも触れ、「日本が現在抱える800兆円の借金は、今までの世代が政治における課題を先送りした結果。この反省を元に私は、日本を人が平等につくられたことを実感する真の民主国家にしたい」と、自ら発起人代表として発足させたばかりの「せんたく」の理念を語りました。
早稲田大学内にマニフェスト研究所を持つ北川教授は、東北地方で2006年総選挙と2007年参院選における投票理由に関する調査結果にふれ、両選挙で「マニフェストの内容」が投票理由の第一位であった事実を明らかにし、国民の考え方が変化しつつあることを示しました。
講義後の質問では、昨年の参院選で子供用マニフェストが実現しなかった事についてコメントを求められ、「マニフェスト配布もまだ完全とは言えず、法的にも現在インターネット配信が許されていない。現代に対応できるシステムを構築し、より多くの皆さんの手に届く選挙を実現し、マニフェストを通して日本を変えていきたい」と述べました。
「自己の人生を切り開き、地域を切り開き、良い環境を作るという、人々の連綿とした努力がサスティナビリティのある社会を可能にします。私たちが道を作ります。しかし道を歩くのは皆さんです。高い志を掲げて困難にも挫けず道を歩んで行くことを、皆さんにお願いします」。最後に北川さんは、次の世代を担う若者にこのように語り掛けました。
北川さんの情熱が学生の皆さんにも伝わり、教室内は熱気と興奮に包まれました。日本が成熟した民主国家に成長していくためには、個を強化し、私たち一人ひとりに与えられた使命感と役割りを自覚し、行動することの大切さを教えてくれたのです。
北川さん、ありがとうございました。