パブリック・リレーションズ
2008.08.02
『体系パブリック・リレーションズ』出版まぢか〜Effective Public Relations日本語版
こんにちは井之上喬です。
夏休みもいよいよ佳境に入ってきました。
皆さんいかがお過ごしですか?
昨年2月、井之上ブログの100回記念として、パブリック・リレーションズ登場・発展の地、米国で、最も多くの人に読まれているパブリック・リレーションズの名著 Effective Public Relations (以下EPR: Prentice Hall Business Publishing)を紹介しました。
EPRは1952年の初版刊行以来、半世紀以上にわたり愛読され毎年、数万部もの売上げを記録する大ロングセラー。2006年には第9版(大判全486頁)が刊行。日本では30年以上前に、第4版が『PRハンドブック』の題名で日刊工業新聞社から出版(松尾光晏・訳:1974年)されています。
いよいよ、そのEPR日本語版が来月(9月)上旬に全国の大手書店に並ぶ運びとなりました。邦題は『体系パブリック・リレーションズ』(日本広報学会・監修、ピアソン・エデュケーション)です。今回はEPR日本語版の発刊を前に、出版にいたる経緯や同書の構成、そして私が訳者として担当した第3章:組織体構築と第7章:理論的基盤・調整と適応、第16章:政府とパブリック・アフェアーズについてその内容をほんの少しご紹介します。
パブリック・リレーションズの「バイブル」
EPRの日本語版発刊を提唱し、監修した日本広報学会(会長:張富士夫、トヨタ自動車代表取締役会長/理事長:境忠宏、淑徳大学教授・学長特別補)は、「経営体の広報・コミュニケーション活動全般について、学術的かつ実践的研究を行うこと」、そして「社会に開かれた経営体のあるべき姿を 洞察し、必要とされる施策の内容を検討し、展開の方法および技法の開発に努める」ことを趣旨として 1995 年に設立されました(日本広報学会HPより抜粋)。
このプロジェクトは、同学会設立10周年を迎えた2006年、記念事業の一環としてパブリック・リレーションズ(PR)に関する世界的な文献を翻訳・出版するために立ち上げられました。その第一弾として選定されたのが、ERP。
スコット・カトリップ、アラン・センター、グレンブルームの3名の共著によるEPRは、米国の300以上の大学で教科書として採用され、中国やイタリア、韓国、ラトビア、ロシア、スペインなどでも翻訳・出版され、世界でパブリック・リレーションズを学ぶ標準的な教科書として高い評価を得ています。また豊富な情報を満載しパブリック・リレーションズを多角的に捉えた同書は、学生だけでなく、パブリック・リレーションズの実務家や企業経営者、研究者など幅広い人々に愛読されています。
2000年に他界した、S・カトリップのために捧げられたEPR第9版は、著者の一人であるグレン・ブルーム(Glen Broom,1940? )が序文で識者の言葉を引用して「パブリック・リレーションズに関する基礎的教科書のすべてがこの本の基準に照らして評価される」と述べています。まさにパブリック・リレーションズのバイブルといえます。
起源から最先端までを網羅
『体系パブリック・リレーションズ』は全体を4部17章で構成。どの章もパブリック・リレーションズに関わる私たちにとって、PR戦略を新たに構築するうえで、またPR戦略を見直すうえで極めて示唆に富む内容となっています。第1部ではパブリック・リレーションズの起源とその変遷を発展段階にわけて概観。それぞれの時代に活躍した実務家や研究者のストーリーを交えながら説明。第2部では倫理やコミュニケーションなど、PRの理論を支える基盤や原則を解説。さらに第3、4部ではその理論に基づいて、企業や政府におけるパブリック・リレーションズの実際や実践に役立つプロセスや最新の手法を紹介しています。
第1部 概念・実務家・コンンテクスト・起源
1章:現代パブリック・リレーションズの概念
2章:パブリック・リレーションズの実務家
3章:組織体構築
4章:パブリック・リレーションズの歴史的発展
第2部 基本要件
5章:倫理とプロフェッショナリズム
6章:法的考察
7章:理論的基盤・調整と適応
8章:コミュニケーションと世論
9章:インターナル・リレーションズとエンプロイー・コミュニケーション
10章:メディアとメディア・リレーションズ
第3部 マネジメント・プロセス
11章:ステップ1パブリック・リレーションズの問題点の明確化
12章:ステップ2計画立案とプログラム作成
13章:ステップ3実施とコミュニケーション活動
14章:ステップ4プログラムの評価
第4部 実践
15章:事業および企業におけるパブリック・リレーションズ
16章:政府とパブリック・アフェアーズ
17章:非営利団体(NPO)、業界団体、非政府団体(NGO)
『体系パブリック・リレーションズ』は、広報学会のメンバー6名により翻訳されています。私が担当した第3章の組織体構築では、さまざまな組織体におけるパブリック・リレーションズの導入経緯とその重要性、そして経営トップの影響力などについて言及されています。また、多くの組織体ではPRがなぜスタッフ職務なのか、組織体におけるPRへのニーズを果たすうえで、組織内部門とPR会社を利用する場合を比較し、その長所と短所を説明しています。さらには、クライアントに対するPR会社のサービス料金についても触れています。
第7章の理論的基盤・調整と適応では、パブリック・リレーションズの理論モデルを提示し、その論理的基盤として調整と適応について論じていています。システムを定義し、パブリック・リレーションズにとって調整と適応が如何に重要であるかを説明し、システム理論がどのように役に立つかを探っています。オープンシステムとクローズドシステムの違い、対応型、積極型パブリック・リレーションズの概念も説明しており、理論研究の上で興味深い内容になっています。
そして第16章の政府とパブリック・アフェアーズでは、歴史的な経緯にもふれながら、パブリック・アフェアーズ・プログラムの主要な7項目のゴール(目的)をリストアップして解説を加えています。また、政府の効果的はパブリック・リレーションズに立ちふさがる3項目の障害にも触れています。そして、米国ならではの、軍事におけるパブリック・リレーションズの役割にも言及されていて興味を引く内容となっています。
いずれの章も、充実した内容となっていますが、個人的には「自己修正」を研究テーマにしている私にとっては7章に最も関心が高く、できるかぎり平易な翻訳につとめました。
これまで日本で、PRや広報の実務書は数多く出版されていますが、理論を体系化した書籍はほとんどありません。この翻訳プロジェクトを通して、パブリック・リレーションズ(PR)の幅広さと奥行きの深さが改めて認識できました。皆さん9月上旬の発刊をぜひ楽しみにしてください。
日々本業で多忙を極める中、莫大な時間を費やし翻訳にあたった他の5名の先生方そして、3名のワーキング・グループの方々、本当におつかれさまでした。