パブリック・リレーションズ

2007.08.10

進化する3D仮想空間「セカンドライフ」〜井之上PRが米リンデンラボ社と包括的PR契約を締結

こんにちは井之上喬です。
猛暑のなかいかがお過ごしですか?

新しい3D仮想世界の大きなうねり

セカンドライフ(Second Life)」は、米国サンフランシスコに拠点を構えるリンデンラボ社が運営する3次元の巨大CG仮想世界です。ユーザーは自分の化身、「アバター」を自由に操って動き回ったり、好みのアバターに身を替えて他のアバターに挨拶したり、会話を楽しみながら3D空間を自由に闊歩できます。また望めばSIMといわれる土地を購入しそこで自由に建物や施設、家具、衣料品、装飾品などを建設・デザインすることができる創造的空間です。

ユーザー自身の創作物はユーザー間で自由に売買できます。仮想通貨である「リンデンドル(LD)」(1ドルは約270LD)で売買でき、さらにリンデンドルを米ドルに換金できるようになっています。また、誰でも自由に建物や施設等を開発・構築できるオープンソースになっていて、スピーディかつ有機的な技術革新を実現しています。

ここ1年間で会員の数が激増。8月10日現在の全世界の住人総数は860万人を超えています。ネット上の新しい3D仮想空間であるこのセカンドライフにはさまざまな試みが行われています。みずほコーポレート銀行による仮想世界経済圏の08年の市場予測は、1兆2500億円。また、セカンドライフ人口は2億5千万人に達するとしています。

私が初めてセカンドライフに出会ったのは、まだユーザーが100万人に満たなかった昨年の秋、そのコンセプトとサービス内容に衝撃を受けました。それは70年代終わりに、それまで専門家にしか操作できないとされていたコンピュータの概念を打ち破り、初めて世界に発表した、アップル社の個人用小型コンピュータ、「アップルII」と出会った時の衝撃と同じものでした。セカンドライフは、近い将来日常生活の中に組み込まれ、さまざまな社会現象を生み出すことが想像されます。この大きな波の到来の予感は、私が70年代後半から80年代前半にかけて関わったインテル社やアップル社のときとよく似ています。

この8月から、私の経営するPR会社、井之上パブリックリレーションズは、リンデンラボ社と正式にPR(戦略広報)契約を結びました。
日本人ユーザーを拡大するため、業務はメディア・リレーションズからガバメント・リレーションズ、危機管理に至る広範なものです。

担当チームは、セカンドライフの持つ幅の広さと奥行きの深さを考慮し編成されました。メンバーは、アップル、インテルの日本進出時のPRを手がけた皆見剛(常務取締役)のスーパーバイズのもとに、NHKで記者をつとめ今年の4月にPRのもつ可能性にかけて入社した尾上玲円奈(アカウント・エグゼクティブ)、ITや金融分野で国際的に豊富な経験をもつステュアート・ベーカー(シニアVP)を中心に構成されています。

セカンドライフをインターネットの視点から捉えた場合、セカンドライフはweb.2.0を代表するソーシャルネットワーキングサービス、ブログなどの機能を持つ総合的なプラットフォームであると言えます。自分のアバターをとうして全てを体験するので、感情移入が可能となり、非常にリアルな感覚を味わうことができる3D仮想世界です。

リンデンラボ社の創業者・CEOはフィリップ・ローズデール。17歳でデータベース会社を設立した後、大学に進学。95年にはネット上のビデオ会議システム「フリービュー」を開発。そして99年、小さい頃から夢見ていた「現実のようなデジタル空間」を提供する企業、リンデンラボ社を設立しました。リンデンラボ社の株主には、アマゾンドットコムの創業者ジェフ・ベソス氏やロータス社の創設者ミッチ・ケーパー氏、イーベイの創業者兼会長ピエール・オミディア氏も名を連ねています。

セカンドライフには実に多くの企業や組織が進出しています。IBM、デル、インテル、コカコーラ、ロイター通信、ハーバード大学をはじめ、トヨタ、日産、ソニーそして最近ではフジテレビ、サントリー、慶応大学などが話題になっています。

企業や組織が現在注目しているのは、レピュテーションの向上やマーケティング活動、社内研修の場としてのセカンドライフのようです。そこではアバターをとうすことで、企業と消費者、従業員との関係がフラットになり、より本音が聞こえてくる空間があります。

セカンドライフで自らの環境を創る

パブリック・リレーションズの視点から見たセカンドライフの特徴は、全てリアルタイムでおこなわれる双方向性コミュニケーション。セカンドライフではアバターをとうして世界中のさまざまな属性を持ったユーザーが同じ空間を共有することで、これまで実現し得なかったリアルタイムでの新しい関係性を持つことが可能となるでしょう。

それゆえリアルタイム・コミュニケーションをどうマネージしていくべきかがこれからのPR専門家の戦略的課題となると考えています。

個人のレベルでいえば、外には働きに出かけられない人が在宅の仕事を得たり、お年寄りや身体の不自由な人が、自由にセカンドライフの街中をあるいたり、クラブで踊ったり、好きな場所への空中散歩やテレポートで自分のアバターを移動させることもできます。機能も日々進化していて、最近では3D音声チャット機能が導入されました。ユーザーにとって、音の発信源や距離感なども把握できる臨場感あふれる環境が実現しつつあります。

また、セカンドライフでは、ユーザーが快適に居住し中での生活を楽しめるように、人種や宗教、性別への差別や暴力行為などを禁止した基本的ルール、ビッグシックス(Big Six)が設けられています。ビックシックスの度重なる違反に対しては利用停止になることもうたっています。先月末には、セカンドライフのよりよい社会の実現のために、ギャンブルが禁止されたばかりです。

先日、リンデンラボ社の日本担当マネージャーで、セカンドライフ普及に努めてこられた土居純さんから面白いお話を伺いました。ある土曜日の早朝、電話の声の感じでは70歳ぐらいと思える男性からセカンドライフについて質問を受けたそうです。そのお年寄りは電話口で土居さんに、登録方法などについて立て続けに質問した後、最後に「私のように体がだめな人でもハワイのような所に行けますか?」と質問しました。土居さんが、「あ、行けますよ!」と答えると、そのお年寄りは「そう。ありがとう」と息を弾ませ電話を切ったそうです。電話が切れた音を聞きながら、土居さんは、このお年寄りとの素朴なやりとりに感動し、心が温かく包まれたそうです。

そう、誰もが今までやってみたかったことを実現させる空間。そしてさまざまな夢が有機的に結びつき、自ら新しいものを生み出していく空間。それこそがセカンドライフなのです。

これからどんな進化を遂げていくのか、面白くなりそうです。

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