趣味

2009.02.14

私の心に残る本23 『アメリカモデルの終焉』 〜こんな世界に誰がした?

『アメリカモデルの終焉』 冷泉 彰彦英著 こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。

日本のビジネス界は、グローバル競争に勝つためには、アメリカ・モデルを取り入れなければダメだという幻想に取りつかれた結果、私たちは、未曾有の大不況に直面しています。そこで今回は、この問題に鋭い切り口で分析している『アメリカモデルの終焉』(冷泉彰彦著、2009、東洋経済新報社)をご紹介します。

本書は、長らくアメリカに在住し、村上龍氏が編集長を務める経済メールマガジンJMMに寄稿してきた著者が、アメリカ・モデルに盲目的に追従した結果、日本にもたらせられた弊害や問題を指摘し、今後への指針を示した本です。私たちビジネス・パーソンが過去を反省しながら、その原因究明をおこなえる本ともいえます。

社会を構成する「人」を無視したツケ

全5章で構成される本書では、第1章から第4章にかけて米国と日本両国の人事制度、組織構造、労働環境を比較し、文化や習慣の違いからくる問題点を検証しています。90年代に多くの日本企業で導入が進められた「成果主義」にも言及し、従業員に四半期ごとに成績表を突き付け、マイナス成長を認めない「短期業績評価システム」やタテ組織偏重におけるMBAエリートの暴走が世界中へのリスク拡散を許したとしています。

冷泉さんは、日本に持ち込まれた成果主義については、組織における3つの座標軸である「ヨコ」「タテ」「時間」に対する欧米と日本の捉え方の違いが失敗を生んだと主張。欧米型は、この3要素を分離して考え、短期的な評価システムを構築しているが、日本では、組織の「タテ」の関係と「ヨコ」の関係が交錯しながら長期的に行なわれる(「時間」)プロジェクトが多いことから、3要素を複雑に組み合わせた柔軟性のある評価方法が必要だと述べています。

また著者は、グローバリズムの脅威による過度なコスト削減について、スティール・パートナーズによるブルドック買収劇(結果はスティール・パートナーズが最高裁判決で敗訴)を例にとり解説しています。彼は、スティール社が主張するような過度な株主重視と短期的な利益追求の優先は、人が本当に喜ぶサービスやホスピタリティの破壊をもたらす危険性があると語っています。

冷泉さんは、米国教育で最重要視されているプレゼンテーション文化についても触れ、「変わりやすく単純化して雄弁に」プレゼンできた者だけが横行する社会の脆弱性を指摘。危機的状況の異常事態には、苦悩がにじみ出る本音のコミュニケーションや今までの前提を全て疑い現場に足を運んで解決策をつかむ地道なスタイルも必要なのではないかと論じています。

他にも、ホワイトカラー・エクゼンプションや 自由裁量労働など、長く米国に住む彼ならではの独自な視点で日米双方を細部にわたって比較し、わかりやすく解説しています。

人材力が日本を救う?

終章では、モデルを失った日本が手にしているのは、困惑ではなく変革の好機であるとして、再生への提言をまとめています。

著者の冷泉さんは、日本らしい人材観と雇用観を生かした人材育成と人材活用が再生の鍵になるとしています。その上で彼は、優秀な人材として個人が力を発揮するためには「自分自身の生き方については、自分の自由に」なる社会が必要と考え、国民皆専門職化を提案。

具体的には、大学を高度な職業訓練の場にすることや卒業後のキャリアパス構築、成果主義の見直しなどについて斬新な切り口でさまざまな提言をしています。その上で著者は「生産技術の頂点を維持し、環境やバイオに新技術を加えていけば、日本の将来は決して暗くない」と語っています。

サブプライム問題に端を発した金融恐慌の責任の多くは米国に帰するとしても、ゼロ金利で海外の金融機関へ無尽蔵に資金を貸し付けた日本や世界最大の米国債保有国として米国債を買い続けた中国などに責任がなかったとはいえません。最近日米双方をフラットに見て露呈した問題の背景を検証する本が出版され始めたことは喜ばしいことです。本書は日米両国の考え方や働き方についての違いが詳説されている良書。著者の視点も鋭く、是非一読をオススメしたい本です。

大きな転換と変革が求められる世界にあって、私は、倫理観と対称性の双方向性コミュニケーションと自己修正を抱合した「自己修正モデル」を21世紀型、WIN-WIN型のパブリック・リレーションズ(PR)のモデルとして提唱しました。強い個を育てるこのモデルは、新しい世界秩序構築のプロセスで機能し、社会を繁栄に導くために必要とされる新システムに適用できうるものと考えています。

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