時事問題

2008.02.09

21世紀の公務員誕生のために

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

グローバル化の波が押し寄せる昨今、民間は血のにじむような努力により日々革新を図っています。それに比べ行政は、改革が叫ばれるなか政治不在もあり、官僚組織のシステム改革が大幅に後れを取っているのが現状。各省縦割りの硬直化したシステムが天下り体質や政官癒着を生み、結果的には巨大な国費の乱費をもたらす構造的な問題を抱えた状況が続いています。

動き出した公務員制度改革

1月31日、国家公務員制度の抜本改革に向けた福田首相の私的懇談会「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」による最終報告書が、首相へ提出されました。

東芝の岡村正会長を座長とする同懇談会の報告書は、堺屋太一元経済企画庁長官を中心にまとめられ、現状の縦割り行政からの脱却を促すと共に、政官癒着の防止を求めています。

具体的には、「内閣人事庁」創設とキャリアの半数を公募で充当するなどのキャリア制度の抜本的な見直し。管理職以上の人事権を内閣人事庁に一元化させるシステムの導入。首相による一般公募の次官級の専門職「国家戦略スタッフ」の任用などです。

国家公務員の採用・配置や官民交流を一元管理することは、省庁や官民の枠組みを超えた人材配置を促し、人材の流動性を活発化させます。また採用時から幹部候補を決める制度の廃止は、より多くの職員に幹部になる機会を付与できることから、職員のモチベーション向上につながると期待されています。

また、めまぐるしく移り変わる世界にあって、グローバルな視野を持った民間人の積極的な登用は多様性のある思考の共存を可能とし、現状に対応できる柔軟な発想で組織運営が実現できます。加えて国民に発する情報が統合されることで、国家の政策が国民へわかりやすく伝わり、国民に密着した行政の実現につながります。

私は、1980年代の日米通信・半導体摩擦、90年代の日米自動車部品問題に米国サイドのPRコンサルタントとして関わりました。例えばクリントン政権時代に起きた自動車部品問題では、車輌の保安基準などを定めた道路運送車輌法による規制(当時の運輸省管轄)と重量税に関する問題(当時の大蔵省管轄)が複雑に絡み合い国産メーカーを保護し、外国製品を阻害する仕組みがみごとに出来上がっていたのです。国民や消費者の利益を全く無視した、縦割り行政が省庁間の調整を困難なものにしていました。

今回の改革案は、通気性の良い柔軟で無駄のない組織の実現への大きな一歩となるものですが、具現化するには越えなければいけないハードルが多々あるように見受けます。

特に人事評価の問題。設置や運営においては人事のプロフェッショナルを積極的に採用することはもちろんですが、暗黙知のない第三者に公務員の業務評価は多難です。形式化させないためにも、行政がどれだけオープンに情報開示して官民協働を実現させていくかが重要となります。

また、国家戦略スタッフの導入も政が官を主導するシステム構築という意味合いがあるものの、逆に政治の力量が問われる場面にもなってきます。どのような基準でどんな人材を揃えるのかが重要な鍵を握ります。

ターゲットを常に意識する

民間にとってターゲットとは、顧客やマーケットなどを意味しますが、国家にとってのターゲットは国民であり納税者。つまり政府や行政は、国民のために何がベストかを常に考え、短期的、長期的な戦略立案を行ない実施することが求められます。
しかし、現在の行政と国民との間にはサービスを提供するための礎となる相互理解や相互理解のインフラとなる双方向性コミュニケーションの環境が実現しているとはいい難い状況です。

相互理解は、情報開示や国民の声を聞くことに積極的でオープンな環境が整ってはじめて得られます。21世紀の公務員にとって、決め細やかなサービスの実現にはオープン性と創造性が要求されます。こうした新しい公務員としての意識は、パブリック・リレーションズの意識そのものといえます。

私たちPRパーソンは、様々な形で行政と仕事をすることがあります。行政から制約が課せられるケースも多く、ともすれば役所のほうを向いて仕事をしがちになってしまうこともあります。

しかし、憲法が「国民を幸せにする」国家運営のための最高法規だとすれば、その思想を支える形で、公務員は公僕(シビル・サーバント)として国民納税者への利益に貢献すべく行動しなければなりません。それは、行政と協働するPRパーソンにも当てはまること。国民の視点に立って行動することが求められているのです。

公務員改革が叫ばれて実に長い年月が経っています。いまや制度改革は国民にとっても喫急の問題。政府は報告書に基づいて今国会に基本法案を提出し、5年以内に改革を実現していく予定ですが、今回の公務員制度改革が、公務員の意識変革に寄与し、近い将来、国民の手に届く行政が実現することを願っています。

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