時事問題

2007.09.21

次期首相に願うこと

突然の安倍晋三首相の辞意表明。これを受け9月23日、次期首相を選ぶ自民党総裁選が行われます。

安倍内閣は、教育基本法改正、国民投票法、米軍再編法、国家公務員法改正など重要な法案をいくつも通しながら、発足直後から社会保険庁の不祥事や政治とカネ問題、閣僚のスキャンダルや失言などが相次いで発覚。長期政権とも目された安倍政権は、今の日本政治を象徴するような問題に翻弄されるかのように1年足らずで幕を閉じようとしています。

具体的メッセージの欠如

任期中、表面化した社保庁問題や相次ぐ大臣辞任など、不運に見舞われたこともありますが、政策面における最大の敗因は、内閣として国の将来像を具体的に示せなかったことにあったのではないかと考えています。内閣には、国民の利益に資する政策を国民に分かりやすく説明し実施する責務があります。しかし安倍内閣は昨年9月の発足以来「美しい国づくり」という大儀を掲げながら、その具体的な方策については明示できませんでした。

美しい国とはどのような国を指すのか? 国民にとって、家族にとって、地域にとって、そして若者やお年寄りにとって、どのような国が美しい国なのか、それぞれの視点で具体的に語られることはありませんでした。

加えて、理解が困難な「戦後レジームからの脱却」の提唱によって、公共の精神、伝統や文化の尊重など観念的なメッセージばかり上滑りし、多くの国民は安倍政権の目指す具体的な国づくりのイメージを抱くことも共有することもできませんでした。

国民へ明確なイメージを伝え、それらを具体的な政策に反映させる。広報担当補佐官が新任されたにもかかわらずパブリック・リレーションズが機能しなかったことは残念としか言いようがありません。

また危機管理体制の不備により、不祥事がダメージを拡大させたことも大きな痛手となりました。閣僚の不祥事発覚時、首相は即座にこれら関係閣僚を辞任させ心機一転を図るといった、素早い対応をとりませんでした。相次ぐ閣僚辞任でこれ以上の辞任者を出したくないとする思惑があったかもしれませんが、国民が安倍内閣にどんな政治を求めているのかを理解していれば、即断実行しか選択肢はなかったはずです。民間企業であれば、相次ぐ役員の不祥事への対応の遅れは、即座に不買運動、株価暴落につながり企業崩壊は明白。ここでもパブリック・リレーションズが機能していませんでした。

年金問題で国中がゆれる中、与党自民党は7月の参院選で、「国民の生活が第一」を掲げた民主党に大敗しました。

国民を幸せにする政治を

9月15日に出揃った自民党総裁候補は福田康夫元官房長官と麻生太郎幹事長。福田氏は「自立と共生の社会」を掲げ、「若い人が希望を持ち、お年寄りが安心できる社会」にしたいと強調しました。一方麻生氏は、「活力ある高齢化社会」を真っ先に挙げました。
誰が次期首相に選出されるにせよ、一国のリーダーにはどのような場合においても、「国民を幸せにする」という国民の視点に立った政治が求められています。

その上で、経済的には、国際競争力のある国力を強化するための技術力育成や企業の直接投資、優秀な人材の確保など、市場における競争力を重視した経済政策を推進。外交的には、環境問題や持続可能な世界経済の実現など国際的な役割を積極的に果たし、日本の存在感を示す。それらを実現するために、教育面においても、強い個を発揮できる思考力のある有能な人材育成のため、初等教育から高等教育まで教育内容の抜本的な見直しも考えなくてはなりません。

選出される次のリーダーには、これら全ての要素を統合して鳥瞰し、細部に注意を払いながらも、時には大胆な決断をし「国民を幸せにする政治」を推し進めていかなければなりません。日本社会はいまきわめて不安定な状態にあるといえます。

そのためには、常に多様な国民の視点を持つこと。そして様々な分野において具体的なメッセージや方策について自らの言葉ではっきりと国民に説明する努力をすること。そして、対称性の双方向性コミュニケーションで国民との対話を深め、良好な関係を構築・維持していかなければなりません。国家運営においてもパブリック・リレーションズ的なアプローチと実践が求められているといえます。

データ上では「景気回復」とこれまでの改革の成果が強調されていますが、地方ではその実感は乏しく、地方経済は一層疲弊しているように見えます。経済格差の拡大や社会の高齢化を受け、病気になっても治療を受けられないお年寄りなど弱者の救済をどうするのか、問題は山積しています。

日本が抱える深刻な問題。そして急速に進展するグローバル化に対応し日本再生を図るには、改革の手綱を緩めるわけにはいきません。
国民、そして世界にどのようなメッセージを発信し具現化していくのか。この不安定な時代にあって、国家運営の最高責任者は、浮ついたポピュリズムに陥ることなく日本の国益に利する政策を明確に打ち出し実施していく、強力なリーダーシップが熱望されています。

大正・昭和にかけて「憲政の神様」と呼ばれ、真の民主政治と世界平和の実現にその一生を捧げた清廉潔白な政治家尾崎行雄は、議会の本質を示すものとして以下のような言葉を残しています。

「一般人民から選ばれた代表が一堂に会して会議を開くのは、何のためであるか。いうまでもなく、それらの代表が、どうすることが最大多数の最大幸福であるか、どうすれば国家の安全と繁栄が期せられるかという立場にたって、思う存分に意見をたたかわし、これを緊張した各代表が、何者にも縛られない完全に自由な良心を持って、議案の是非善悪を判断した結果、多数の賛成を得た意見を取り上げて、民意を政治に反映させるためである。」

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