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2010年02月18日

ワシントンのNPBに出席して その2
 ~大雪のトラブルで触れた日本人の心づかい

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

前回、ワシントンDCでのオバマ大統領出席のNational Prayer Breakfast(NPB:大統領朝食会)へ出席したお話はしましたが、降り続く雪でワシントンの首都機能はマヒ。スノーマゲドン(雪最終戦争)といわれる今回の大雪は最終的に111年ぶりとなったようです。


ワシントンポストなど現地の報道によると、この冬の累積積雪量は140センチに迫ると報じられ、豪雪の影響で5万世帯、19万人が停電の影響を受けたとされています。また連邦政府は連続4日間の業務停止。現地友人のオフィスも月曜日から木曜日までクローズし、12日の金曜日からようやく再開したとのこと。

私は大雪の初日に無事ワシントンを脱出し帰国できましたが、米国での緊急時体験は私にいろいろなことを考える機会を与えてくれました。

■コンピュータ化がもたらす人間疎外
今回のような緊急性の高い状況に身を置いたことで、コンピュータ社会の欠陥を強く感じました。米国は、ホテルの予約、空港への問い合わせ、電車予約など大型のコンシューマー・サービス分野では日本以上にコンピュータ化されています。

つまり顧客から電話を入れると、コンピュータの指示で顧客の要望に答え解決するシステムです。しかし、突発的な事故や問題が発生したとき窓口には人間の応対が必要となります。特に交通機関がマヒした際には、フライト・スケジュールなどのキャンセルや変更は必須。

そのようなときには、通常オペレータが対応することになっていますが、なかなか出てきません。ホテルのコンセルジェに相談しても「相手が出てくるまで待つしかない」と返事が返ってくるばかり。ようやく待って相手を捕まえても、多くの場合その対応は親切なものとはいえません。とくに英語が不自由な外国からの旅行者にとっては不安と心細さを増長させるばかり。

■トラブルの中で触れた日本人の心づかい
今回の大雪では、普段体験することで当たり前に思っていたことのありがたさを改めて感じさせてくれました。それは日本人のきめ細かな心づかいです。

天気予報で予告されていたとおり、雪は、大統領朝食会の翌日2月5日の午後から降りはじめました。その日、午前中のビジネス・ミーティングの後に、「ダレス空港が閉鎖されるかもしれない」と聞かされホテルに戻ってみると、翌日土曜日の私のフライトがキャンセルされ8日(月曜日)に変更になっていることを知ります。

慌てて800番(日本の料金無料0120番)で航空会社を呼び出しても、オペレータにうまくつながりません。コンピュータでしか返事が戻ってきません。部屋の窓の外を見ると雪がだんだん強く降ってきています。何度試みても人間が電話に出てこないのです。「予定の飛行機で帰国できないと、週明け早々から始まる政府系の重要な仕事に出席できなくなる。どうしょう」。そんなことを考えるとだんだんパニック状態に陥ってきます。

そんな中、ワシントン在住で大学の先輩でもある神田幹雄さん(日米文化センター理事長)が心配して電話をかけてきて、日本人が対応してくれる別のトールフリー800の番号を教えてくれました。こちらもコンピュータ対応なのですが、すぐ電話口に日本人女性職員が出てきました。たまたま日本人客からの問い合わせが少なかったからなのでしょうか、何度かけても、日本人オペレータがすぐ電話口に出てくれます。

外資系航空会社ではたらく、日本人職員の親切で、きめ細かく、てきぱきとした対応で問題が処理されていったのです。ニューヨーク行の列車やバスの利用方法や連絡先など、相手の立場を考えながらの対応は素晴らしいものでした。

翌日のニューヨークのJFK空港でも、日本人職員のきめ細かい心づかいには助けられました。緊急時で自動チェックインができず困っていた時に、日本人職員が複雑な切り替えをてきぱきと行なってくれました。北上する雪が、次第に強まっていくケネディ空港で、彼女たちの仕事ぶりは際立ってみえました。平時の時には気がつかないことでも、パニック的な状況のときにそのサービスの違いを見せつけられた感じがします。

今回の旅行で、彼女たち日本人のもつ心づかいや国民性に触れることができました。日本人の接客能力を再認識することになりました。そこで感じたことは、「サービス業先進国の米国は、システムは良いが人間教育がうまくいっていない。お客に接するということがどういうことか分かっていない」ということです。移民国家米国の弱点が見えた思いがします。

パブリック・リレーションズ(PR)は人間力を強化します。海外でたくましく仕事に従事する日本人の力強さを感じました。こうした人たちがパブリック・リレーションズを身につけると日本は強力になるにちがいないと考えながら米国を後にしたのでした。

投稿者 Inoue : 17:00 | トラックバック

2010年02月11日

ワシントンのNPBに出席して
 ~オバマ大統領のモチベーション

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

先週出張で、ニューヨークとワシントンDCを訪問しました。訪問の主目的は、ワシントンDCでのNational Prayer Breakfast(NPB:大統領朝食会)への出席。昨年1月ワシントンで行なわれた、オバマ大統領就任式でテレビから伝わってきた寒さは厳しいものでしたが、現地ワシントンでは88年ぶりの豪雪の直前。東京では体験できない厳しい寒さでした。


NPBは毎年米国大統領出席のもとで行なわれるもので、世界平和を祈る目的で毎年2月に開かれています。今年はオバマ大統領、ミシェル夫人に続き、バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン国務長官、マレン統合参謀本部議長など米国政府の要人や上下両院議員、海外からはスペインやフィージーの首相や政府要人、議会関係者、宗教指導者など約140カ国から3000名を越える人が招かれました。

■覚醒するリーダーに触れて
NPBは1953年、アイゼンハワー大統領の時代に、上下両院議員を中心に党派を超えて始められたもので、当時のPresidential Prayer Breakfastの名称は現在の名称に変更。発足時は議会関係者が中心で、党派を超えた連邦議員の個人的な交友を深める目的で始められたようですが、やがて世界各国に広がり、宗教や民族、政治体制を越えた個人のつながりを深めるための朝食会として定着しています。
毎年2月第1週に行なわれるこの行事への出席は私にとって今回が3度目。大統領朝食会の前後にはさまざまな食事会があります。NPBでは着席するテーブルが毎回異なる関係もあり、新しい友人に出会えるのも楽しみのひとつです。
オバマ大統領は席上、「人にしてもらいたいことを、人にしてあげる」ことの必要性を説きました。また「米国は礼節を取り戻す必要がある。祈りは私たちを高慢から守り、我々の心を謙遜にしてくれる」と語り、「成功した時にこそ謙遜になり祈ることが必要」と祈ることの大切さを説いていました。

また「(私の)政策を問題にしてもいいが、動機(motivation)を問題にしないでほしい」。たとえ政策が異なっていてもMotivationが同じであれば相手を受け入ることができるはず、と訴えました。物事を成し遂げるためには目標達成のためのモチベーションが重要となります。国内で医療年金や雇用問題、増税問題など多くの問題を抱えるオバマ大統領が苦悩の中で目標に向かって突き進んでいこうとする強い信念を感じ取ることができました。

また「我々を隔てているのをみるのではなく、互いの共通点を見つけよう」。そしてYou see face of God in enemiesと敵の中にこそ神を見ることができると説いたアブラハム・リンカーン(1809-1865).の言葉を引用。双方が共存できる方法を考えることを訴えました。9/11事件しても、テロの非人道性を叫ぶと同時に、「彼らがなぜ攻撃したのかを考えなければならない」とも語ったのです。相手の視点に立つことの重要性が伝わってきます。

オバマ大統領は最近起こっている数々の問題に対して、「我々は貧困や諸問題に直面しても、日常化したものに無神経になりやすい。自分の快適な空間(comfort zone)から飛び出し、求められているものに答える必要があるのではないか」と、自分の中に閉じこもらず外に目を向け行動することを促しました。

■リーダーが持つべき謙遜さ
オバマ大統領のスピーチに先立ってヒラリー・クリントン国務長官のスピーチがありました。ヒラリーは1993年から出席しているようで、「1953年のアイゼンハワー大統領が出席した最初の朝食会は、わずか200名ですべて男性。それが今では世界百数十カ国から多くの女性も出席する会になった」と喜びを表わしました。

そして出席者全員に向かって、「これまでこのNPBには大統領夫人として、また知事として、上院議員そして国務長官として出席してきたが、私たちはそれぞれ政策や理念が異なっていても、ビジョンや許しや愛に対する思いは同じはず」と語りかけました。またリーダーの果たすべき責任について、最近起きた「ハイチ地震では多くのグローバル・リーダーが試されている。私たちリーダーには問題解決の責任がある」と訴えかけました。

最後に、94年にマザー・テレサがNPBに出席した時のことを話してくれました。サンダル履きの小柄なマザー・テレサはそのスピーチの中で、当時出席していたクリントン大統領に向かい、「世界平和を祈るために私たちは集っているのに、人工堕胎を認めるあなた(大統領)には平和を語る資格はない」と夫クリントン大統領を叱責したエピソードを紹介。

マザーはスピーチのあとヒラリー夫人に呼びかけ、ワシントンに「子供の家」を一緒に建設することを提案したそうです。ヒラリーはこれを受け入れ、翌年の95年6月に孤児院「マザーテレサ・ホーム」がワシントンにオープン。ヒラリーによると、その間マザーはベトナム、カンボジアなど、マザーの出向く先どこからでも矢継ぎ早の電話をかけてきて進捗状況を聞いてきたそうです。マザー・テレサの偉大さを感じさせる話でした。

この話は朝食会の後に話題となりました。偶然に94年の朝食会に出席していた人が、マザー・テレサのあとのクリントン大統領のスピーチの一部を話してくれました。大統領はこのマザーの強い叱責で、「誰かがバスケットの試合で見事にシュートしたあとに、自分が隅でドリブルしているみたいだ」と、自分の存在がいかに小さなものであるのか、その気持ちを出席者の前で素直に明かしたといいます。自分の非を認めることができるリーダー像をみる思いがします。

大統領朝食会のあと5日の昼から強い雪が降り始めました。ワシントンの空港のフライトが全てキャンセルされたことを知り、一日予定を早め、大急ぎで荷造りをしてホテルをチェックアウト。ワシントンのユニオン・ステーションで、間一髪で電車に飛び乗り無事ニューヨークに到着し、銀世界のJFK空港を後に帰国の途に着くことができました。

パブリック・リレーションズ(PR)は個人や組織体と社会の間のインターメディエータ(仲介者)。複雑化する世界をしっかりつなぎ、目的達成のために良好な関係構築を行う手法です。世界平和のための道具として使われるよう祈りたいと思います。

投稿者 Inoue : 15:50 | トラックバック

2010年01月04日

新年号 情報発信を通して世界のリーダーに
 ~パブリック・リレーションズの使命

新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

昨年は政治と国民が融合した年であったように思います。1月の米国オバマ大統領の就任に始まり、8月の政権交代による日本の鳩山首相の誕生から新政権の施策に至るまでのプロセスは、私たちに政治をこれまでになく身近に感じさせてくれました。今年はどのような年になるのでしょうか?

「日本はデフレ・スパイラルに陥った」、「日本経済の2番底がくる」、「日米関係はどうなるのか?」、「少子化問題をどうするのか?」などなど、日本にとって問題は山積しています。

■相互理解と情報共有化が鍵に
21世紀になって10年が経とうとしています。20世紀は、多くの国家を巻き込んだ2つの大戦をはさみ、多数の人命を犠牲にして歴史を刻んだ世紀といえますが、21世紀は初頭においてさまざまな問題がグローバル化しています。国家間の戦争は局地的なものになってきてはいるものの、宗教や文化的な違いによる民族間の衝突が世界的混乱に拡大する危惧さえ持たれています。

これらの混乱の多くは相互不信からきていることが分かります。相互不信は一般的に、情報が互いにシェアされていないことから起き、相互理解の欠如の結果としてもたらされる場合が多いといえます。世界の紛争の歴史は情報が共有されない相互不信の歴史でもありました。IT・ネット時代の今日、人類が同じ過ちを繰り返さないためにも、対称性を持った情報が共有されなければならないのです。

情報が共有されることにより、複数の国家を政治、経済の面で統合させることも可能なことは欧州連合(EU)を見ていてもわかります。欧州何千年の歴史の中で初めて20を超える国家が統合されたことはもっと評価されていいのではないでしょうか?

2009年11月に、欧州連合(EU、加盟27カ国)で共通の大統領が選ばれました。新基本条約「リスボン条約」で新設される欧州理事会常任議長(俗称:EU大統領)にベルギーのファン・ロンパウ首相が就任し今月から正式にスタートしました。一方、EU外務・安全保障政策上級代表(俗称:EU外相)には、英国のキャサリン・アシュトン欧州委員(通商担当)が就任します。約5億人の大欧州を代表する「EUの顔」が出来上がったことになります。

私は90年代に、国際PR協会(IPRA:ロンドン)の本部役員をしていたときに、欧州人が情報共有に如何に秀でているかを思い知らされたことがあります。彼らはどのような些細なことでも議論し、相手の理解を得る努力をします。その根底に流れるのは相互尊重です。面白いことに、彼らは時として米国のメンバーと意見衝突することもありましたが、そのようなときは、概してシンプルでおうような米国人と、複数の言語を駆使し、物事をより多面的に捉える繊細なヨーロッパ人との情報共有に対する姿勢の違いがあったように思います。

情報共有のためには、常に自分たちの考えを国民や国際社会に伝えていかなければなりません。伝えることで相手からのフィードバックがあり、情報共有ができるからです。ある意味で政策実行を行う側は、国民や納税者に対して「説明責任」を持つことになります。自著「『説明責任』とは何か」(PHP研究所、2009)には説明責任を果たすためには、政策プログラムの作成および実行の段階で、それぞれ3つのフェーズ(段階)があることを記しました。

1)計画段階  2)実施段階  3)報告段階 の3つで、明確な目標設定とそれぞれの段階での進捗状況を知らせることで説明責任を果たすことになります。これはまさに対象となるターゲットとの関係で、情報を共有することにほかなりません。

■何を日本の切り札にするのか
毎日新聞が元旦の社説「2010 再建の年 発信力で未来に希望を」で面白い記事を書いていました。日本再建のためのヒントとして、大きな危機を克服して国の再建を果たしたとされる奈良時代の施策を紹介した後、日本文化の発信の必要性について次のように記しています。

「最後に強調したいのは文化の発信力だ。奈良時代、先進文明の吸収に励んだ人々は同時に独自の文化も創造していた。万葉集は天皇、皇族から防人、東国の民に至る幅広い作品を集め、今も愛唱されている。伝来の漢字を用いた『万葉仮名』は後のカタカナ、ひらがなにつながった。」と当時の外から貪欲に吸収しながらも独自文化を築いていたことに触れています。

また、「私たちは豊かな伝統文化を持っている。新しい文化と共鳴し、新たな創造に結びつくという優れた環境もある。例えば万葉以来受け継がれている和歌の世界では今も次々と新感覚の作品が生まれている。村上春樹氏の作品が世界的な支持を受け、映画やアニメ、日本食などが国際的に高い評価を得ているように、文化は日本が持つ重要資源である。
 日本の発信力を高めることが日本の再建にもつながる。人々が未来に希望を持てる国にしよう。」。まさにソフト・パワーを使うことの必要性を説いているわけですが、この社説に私は強い共感を得ました。

ひるがえって、いま世界は歴史上はじめてグローバル社会の中で、それぞれの国や民族がどのように共生すべきかを真剣に考えるようになったといえます。CO2問題は、海抜の低い島国であるツバル共和国を海底に沈めることになるでしょうし、南極や北極の氷を溶解させることによって世界の生態系や気象に異常をもたらし、地球の存続すら危うくする世界共通の問題として認識されています。

地球が生存するためには、抜本的な対策が必要なことは昨年12月のCOP15が明示しています。これらの問題でソリューションを持っている国は、限られた先進国、突き詰めると日本と米国の2国になるといっても過言ではありません。とくに省エネ、公害技術で日本は世界の最先端を走っているからです。

今こそ日本はその持てる力を十二分に発揮してコペルニクス的な産業構造の大転換を行う時が来ていると考えます。つまり、エネルギー源として石油・石炭を一切使用しないところから全てを組み立てていくことを考えることです。

2020年までに、日本のCO2を90年実績の25%減という数字は極めて困難と経済界は異論を唱えています。しかしながら3-4年で行うということではなく10年かけて行うことで、国家が真剣に、戦略的に目標意識をしっかり持って実行すれば、不可能なことではないと思うのです。これらには、既存の国家予算の中で行うのではなく、将来大きくリターンが見込める投資として、惜しげもなく資金を投下すべきであると考えます。これらは国民を勇気づけるだけではなく、強力な経済刺激策にもなるはずです。

こうして見ると情報の共有化にせよ、日本がそのプレゼンスを内外に示すことにおいても、手法としてのパブリック・リレーションズ(PR)が強く求められることが容易に理解できます。どんなにいい技術でも、知られなければ広く社会の役に立つことはできません。日本の持つ最先端の環境技術を世界に伝え知らせることで、人類が生存する上での共通テーマである地球環境問題で確実に世界のリーダーとなることが可能だからです。

今年がこれらのチャンスを具体化する年であることを願っています。

投稿者 Inoue : 09:55 | トラックバック

2009年12月28日

2009年の10大ニュース
 ~読売新聞が選ぶ国内/海外ニュースから

こんにちは、井之上 喬です。
早いもので今年も残すところ数日、新年を前に皆さんいかがお過ごしですか?

読売新聞社は毎年、読者投票によって国内/海外の10大ニュースを選んできました。今年も2009年の「日本10大ニュース」は12月19日、「海外10大ニュース」は翌20日の紙面で紹介。

1947年(国内ニュース)から継続されているこのイベントには、今年は内外から国内/海外の10大ニュースにそれぞれ、1万207通、6467通の応募があったようです。こうした応募を集計した結果は、それぞれ次のようになりました。

■国内、1位以外はあまり印象に残らず
「日本10大ニュース」を紹介する読売の紙面では、「2001年の日本は、1位の歴史的政権交代が圧倒的で、他の出来事はあまり印象が残らなかった感じもする。(後略)」と弘兼憲史さん(漫画家)のコメントが掲載されています。

同様に「海外10大ニュース」ではピーター・フランクルさん(数学者・大道芸人)が、「オバマ米大統領の就任は、間違いなく世界にとって大きなニュースだった。(中略)ただ、ノーベル平和賞受賞は、世界で一番好戦的な国と言われる米国の大統領だけに最初は驚きだった。(後略)」とそのコメントを紹介しています。
皆さんは、10大ニュースに接してどのような感慨を持ったでしょうか。

《国内》
第1位 衆院選で民主308議席の圧勝、歴史的政権交代で鳩山内閣発足
第2位 日本でも新型インフルエンザ流行
第3位 「裁判員制度」スタート
第4位 日本がWBC連覇
第5位 酒井法子容疑者、覚せい剤所持で逮捕
第6位 天皇陛下即位20年
第7位 高速道「上限1000円」スタート
第8位 イチロー選手が大リーグ史上初の9年連続200安打
第9位 巨人が7年ぶり21度目日本一
第10位 「足利事件」の菅家さん釈放 DNA鑑定に誤り

《海外》
第1位 新型インフルエンザ大流行、世界で死者相次ぐ
第2位 オバマ米大統領が就任
第3位 マイケル・ジャクソンさん急死
第4位 米GM、クライスラーが相次ぎ経営破綻
第5位 ノーベル平和賞にオバマ大統領
第6位 北朝鮮が弾道ミサイル発射
第7位 韓国で射撃場火災、日本人客10人死亡
第8位 中国新疆ウイグル自治区で暴動、197人死亡
第9位 南太平洋、スマトラで大地震相次ぐ
第10位 世界陸上、ボルト選手が3冠

■鳩山イニシアティブと揺らぐ司法
私にとって国内ニュース第1位の「歴史的政権交代」に次いで、印象深かったのは、番外になりますが世界90カ国以上の首脳が出席し9月22日に国連で開催された、気候変動首脳会合での鳩山由紀夫首相のスピーチとその内容です。鳩山さんは温室効果ガスの中期削減目標について、「1990年比で2020年までに25%削減を目指す」と表明し、全世界の注目を集めました。

これまで、日本の首相が国際舞台で脚光を浴び、あれだけの喝采を受けたシーンを目にしたことはありませんでした。いまや人類の最大のテーマともいえる地球環境問題で、鳩山さんの演説が評価されるべきは、「25%達成」が思い切った産業政策の転換を意味するからです。

それだけではなく演説で首相は、わが国だけが高い目標を掲げても気候変動を止めることはできないとして、「世界のすべての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みの構築が不可欠だ」と述べ、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)での合意に向け、主要ガス排出国である米国や中国などの前向きな対応を促したことです。

さらに、途上国支援に関する「鳩山イニシアティブ」を掲げ、地球が抱える最大の問題である温室効果ガスの削減について、見事なリーダーシップを発揮したのです。

今年もうひとつの印象的な出来事。それは、「司法の揺らぎ」ともいうべきなのでしょうか。それらは前述の2009年「日本10大ニュース」にランク入りした「第3位:裁判員制度スタート」と「第10位:足利事件の菅家さん釈放、DNA鑑定に誤り」に感じられることです。

人が人を裁く法廷は、これまで社会人経験のあまりない司法試験に合格した専門家により構成されてきました。そこに一般市民が参加して判決(刑事裁判)を決める制度が、この5月、日本でもスタートしました。陪審制度(米国、カナダ、英国、ロシアなど)、あるいは参審制度(フランス、ドイツ、イタリアなど)と国によって呼称は異なりますが、世界各国ではすでに導入され定着しているものの、わが国の裁判制度においては歴史的な出来事といえます。

足利事件では再審開始決定前の受刑者に、検察当局が無罪を見込んで釈放を認めた初めてのケースとなりました。DNA鑑定の誤りが その大きな要因となっていますが、刑の確定後に再審請求が通ることすら珍しいのに、再審開始決定前の釈放という結果には本当に驚かされました。

この2つのニュースからは、これまでお上の専任事項であったものが、一般市民や良識といったところへの歩み寄りが認められます。公権力でも間違いがあれば正す、つまり「自己修正」が機能したものと見ることができます。「司法の揺らぎ」は、この意味で歓迎すべき事象といえます。

さて、来年はどのような10大ニュースが選ばれるのでしょうか。できれば、明るい話題が多く選ばれることを祈りたいと思います。

今年も井之上ブログをご愛読いただきありがとうございました。混沌とする世界にあって、私達一人ひとりには「人間力」が求められています。来年も、「個」を強化するパブリック・リレーションズ(PR)を皆さんと共有してまいりたいと思います。

それでは良い年をお迎えくださいますよう。

投稿者 Inoue : 10:05 | トラックバック

2009年12月07日

リスクを取らない日本企業

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

リーマンショックから1年以上たち世界経済は回復の兆しを見せています。しかし日本は欧米諸国と比べダメージが少なかったものの、相変わらず出口が見えない状況にあります。為替レートも円は一時14年ぶりに84円に高騰。景気回復から脱出しつつある輸出型企業に深刻な影響を与えています。

戦後の廃墟から立ち直った日本企業は、松下幸之助、本田宗一郎、川上源一、井深大・盛田昭夫などさまざまな名経営者を輩出してきましたが、最近これら先駆者と並び称される卓越した有能な経営者が見られないのは寂しい限りです。どうしてこのような状態になってしまったのでしょうか。

■一番風呂に入らない日本企業
先日ある外資系IT会社の米国人社長から、日本企業のマネージメントが機能していないことについて、こんな話を聞きました。「近頃の日本企業は、リスクをとらない」そしてその理由として、「外から持ち込まれた案件を決定するのに時間がかかりすぎ、相手が嫌気をさして、ほかの企業に話を切り替えざるをえなくさせている」。ほかの企業とは、「日本企業を指すのではなく、多くの場合中国企業」と残念がっていました。

また、海外進出にしても、「日本企業は単独行動をとりたがるが、そのために社内決定に時間がかかりタイミングを逸することも多くなる」。海外の新市場、とくに中国市場の場合は歴史的な経緯もあり、「一社で進出するより、自社で弱い部分は他社(欧米など)とダイナミックに提携し、積極的な市場参入を考えるべき。さもないと出遅れてしまう」と最近の日本企業がスピードに欠き縮み志向にあることを心配しています。彼の奥さんは日本人で、「他人事ではない」と真剣に話をしていました。

このような日本企業や社会の縮み現象に対して、12月4日付けの日経MJは大手広告代理店J・W・トンプソンの2009年調査を引き合いにし、「日本人は世界一『不安』?」とする見出しで、不安を抱えている人の割合は、日本が世界の主要10カ国のなかで一番高い数値(90%)を示していることを明らかにしています。ちなみに、ロシア(84%)、米国(76%)インド(74%)の順で、一番低いのは中国の35%。

新しいビジネスや市場に参入するときリスクはつきものです。戦後日本企業は、廃墟から事業をスタートさせ、80年代初頭には経済超大国に導いた原動力としてもてはやされました。日本企業のこのような性向について外国の経営者に説明するとき、私は「多くの日本企業は一番風呂に入らない」と表現することがあります。つまり、誰かが先にマーケットに入って、成功するのを見極め、そのあとから次々と参入するといったいまの日本企業の特殊性について言及します。試行錯誤のなかで自らの創意工夫とリーダーシップによってサクセスストーリーを築いた冒頭の経営者が懐かしく感じられます。

■イノベーションが育つ環境を
OECDの発表によると、加盟30カ国の一人当たり国民総生産(名目GDP)の順位は1993年の第2位($35,008)から2007年には18位($34,252)に転げ落ちています。また、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の発表では、1993年に世界第1位であった我が国の国際競争力は、その集計方法には年度で差異があるものの、2007年(平成19年)の最新ランキングでは第24位にまで転落、そして中国が上位に入れ変わりアジア3位で、シンガポール・香港に続いています。まさに奈落の底を転げ落ちるような状況。

興味深いことに、現在世界で活躍している大企業は、トヨタ、日産などの自動車、三菱重工、日立、東芝などの重電、機械では小松製作所や荏原製作所などのメーカーや大手商社など。これらはいずれも大半が戦前に創設された企業。一方、インテルやアップル、ヒューレット・パッカード、マイクロソフトなど、世界企業ランキングで上位を占める米国企業の多くは戦後誕生した企業です。

つまり日本では相変わらず、歴史や伝統のある会社が日本経済を牽引していることになります。ITの進展で、めまぐるしく世界が変わり、かっての日本の役割を中国や他の新興国が果たすようになったいま、日本には抜本的な企業環境を変えることが求められています。

日本経済は厳しい景気後退局面にありますが、このような時期こそ思いきった改革のチャンス。日本経済がこの難局を打開し、持続的成長経路 をたどるためには何が必要か。就職を希望する学生のマインドセットも変え、「寄らば大樹の陰」ではなく、「起業により、日本社会を変える」といった気概すら求められているのです。変革期だからこそチャンスはあります。

一国の首相がめまぐるしく変わる戦略のない日本。政治の在り方について抜本的な見直しが迫られる新政権には、そうした新興企業がイノベーションを武器に、伸び伸びと成長できる環境を国家の長期的成長戦略の中に具体的に組み込むことが求められています。

日本経済の二番底が危惧されています。大型経済対策が期待されますが、このような時期だからこそ成長性の高い領域への思い切った対応が必要とされています。とりわけ環境および新エネルギーなど日本が他国をリードする、強い分野への戦略的な取り組みと集中的なバックアップが強く求められています。これらへの投資は、現在の国家予算の枠組みを超えても実行すべきもの。リターンが期待できる意味で、将来の豊かな日本を担保する投資となるはずです。

社会を変革させる場合には強力なパブリック・リレーションズ(PR)が求められます。私たちに残された時間はあまりないのです。

投稿者 Inoue : 09:30 | トラックバック

2009年11月30日

全9日間、「事業仕分け」が終了
 ~政府行政刷新会議

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?


8月30日の衆議院総選挙で民主党が大勝し、政権交代が実現して今日で3カ月経ちました。11月11日に「事業仕分け」をスタートさせた、民主党行政刷新会議の一連の作業は27日に終了しました。目標は、過去最大規模の来年度予算概算要求額95兆円から3兆円削減すること。

447事業に対して、必要性に応じて「廃止」「予算削減」を求めた結果、概算要求から約7500億円が削減可能とされ、国庫返納などで捻出できる財源を加えると、その削減額は1兆9500億円に達した(朝日11/28朝刊)模様です。仕分け作業は一般公開で行われ、インターネットでも同時中継されるなど新政権による積極的な情報公開を印象付けたといえます。また仕分け人の判定基準が「あいまい」とする批判も出ましたが、総じて大多数の国民が今回の事業仕分けを歓迎しています。

■求められるプレゼン能力
仕分け人メンバーは、その人選に紆余曲折があったものの、民主党を中心とした国会議員と民間人により構成。TVを通して、今回の「事業仕分け」から見えてくるものは、質問される側に立つ各省庁代表の官僚の返答や説明が不明瞭であったり、その内容が明確性を欠いたものでした。

初めての経験とはいえ、相手に対する説明能力に欠けていたのは明白。民間では、顧客に売り込みをかけたり説明を行う場合、必要とされるのはプレゼンテーション能力です。説明する側に立つ官僚はこれまで、シビル・サーバントとして納税者へ対しどのようなプレゼンテーションを行ってきたのでしょうか?

相手を説得する気迫もさることながら、プレゼンテーション技術に長けていないと相手を理解させることは困難です。「なぜ」、「何の目的で」この事業を行っているのか、事業を通して国民(社会)に「どのような恩恵をもたらすのか」、その「ユニーク性」や(施設の場合)その利用頻度など、「数字に裏付けされた説明」が求められます。多くの天下りを受け入れ、受け入れが目的化している機関では、こうした説明は苦手ということなのでしょうか。

11月28日の主要各紙の朝刊は、トップで事業仕分けが当初の目標の3兆円に及ばなかったことを報じていますが、今回の数値目標に違和感を持っている人は私だけではありません。これまで野党で、行政の細部にわたってアクセスできなかった民主党が、数か月で完全な予算編成ができるはずはありません。まず新予算を組み、1年間走らせ、現場の実態を把握してから、埋蔵金の発掘や無駄な予算を削ってもいいのではないでしょうか。「一度組んだ予算は使い切る」これまでのやり方は、現在の財政状態では通用しないはずです。

■科学技術は日本の生命線
事業仕分けのなかでスーパー・コンピュータ研究など、科学技術予算の大幅削減提案が引き金となり、9つの大学の学長が24日、東京都内で緊急記者会見を行いました。日本の学術や大学の在り方に立って、これらの削減は世界の潮流に逆行する行為であると批判。将来の日本の科学技術への懸念を表しました。翌日のTV番組で、ノーベル賞学者の益川敏英さんが「科学技術分野でNO.2はNO.30を意味する」と語り、科学技術研究の重要性について強く訴えていたのが真に迫っていました。

いま日本から有為な人材が流出しつつあります。その流れ出る先は、これまでのような米国の研究機関ではなく、猛烈な人材引き抜きを国家戦略として行うアジアの新興国です。そうした国の政府からひとりの科学者(研究者)やチームが、数十億円の研究費で迎えられようとするケースが顕在化しています。その意味するところは、迎え入れられた研究者の成果が、相手国のものになってしまうということです。定年退職を迎える科学者は格好の標的になっています。

中国のGDPは今年中にも日本を上回るといわれています。中国をはじめ、多くの人口を抱えるインドなどの新興国が急速なスピードで追い上げをはかっています。これらの国に価格競争で勝てるはずはありません。日本が勝負できるのは、高付加価値製品ということになります。その基礎となるのが科学技術。

予算の問題とは別に、日本には助成金の利用法にも問題があるようです。とくに科学技術分野での問題は、有能なプロジェクト・マネージャーがいないといわれています。これまで日本では国の助成金で研究を行う際、報告書など超大な資料作成が要求されていました。研究者は時として本来の研究より、その作成に神経と時間を取られていることも耳にします。プロジェクト全体を管理できる人材養成も必要とされるところです。

鳩山内閣の予算編成作業はこれから本格化しますが、どのような結果になるのか関心が高まっています。国民への理解と協力を得るために、パブリック・リレーションズ(PR)はなくてはならないものといえます。

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2009年11月16日

オバマ大統領初来日
 ~パブリック・リレーションズの視点

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

オバマ米国大統領が11月13日、大統領就任後初のアジア歴訪の最初の国として日本を訪問しました。テキサス陸軍基地での銃乱射事件の追悼式出席で来日が遅れたことにより、14日から始まるシンガポールで開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)初日の首脳会議を欠席しての来日。日程は一週間で、日本の後はシンガポール、中国、韓国を訪問する予定です。

13日は鳩山首相との首脳会談。翌日の14日はサントリーホールで約1500名の出席者を前にアジア外交の基本政策について演説を行いました。世界で成長著しいアジア地域で中国の国際的影響力が増大する中、影響力低下がみられる米国は、オバマ大統領のアジア訪問の最初の地東京で「米国はアジア太平洋諸国の一つ」であることを内外に強く示しました。

■アジア外交の中核:日米関係
鳩山首相とオバマ大統領の会談は今回で2回目。9月に国連総会出席のために訪れたニューヨーク以来。予定より長い、約一時間半にわたった会談で両首脳は共同記者会見を行ないました。

この中で首相は日米同盟について、「日本外交にとってすべての礎。世界環境の変化によって、深化させ、建設的で未来志向の日米同盟を作りたい」と述べています。一方大統領は、「日米同盟は、アジア太平洋地域の安定と繁栄のための基軸。日米は対等なパートナー」であることを強調。民主主義を共有する両国の関係維持こそが地域の安定・繁栄にとって不可欠であることを宣言しています。

共同会見では主に次のことが確認されました。まず、2010年の日米安全保障条約改定50年に向け、同盟深化のための新たな協議を開始。また、米軍普天間飛行場移転問題では、鳩山首相は早期解決を表明。閣僚級作業部会を設け協議に入る。次に両首脳は「核兵器のない世界」を長期的視野にたって目指すことで一致。大統領は、広島、長崎両市への訪問について、将来訪問できたら「非常に名誉なことだ」と語っています。そして温室効果ガス問題については、2050年までに80%削減することで合意。

戦後60年以上経た日米関係。米ソ冷戦時代に締結された日米安保が、新しい21世紀のグローバル・ビレッジにふさわしい、世界平和に根差した地域の安全保障に変わることが期待されています。日米安保条約の見直しの必要性については、とくに政権交代後の米国でも論じられてきていること。

鳩山首相は就任後繰り返し、「対等な日米関係」を強調しています。日本の国益保持にとどまらず、世界平和と繁栄のためにどのような指導力を日本は発揮するのか、日米関係は時代の変化に合った同盟を強化する方向で一致しているものの、今後双方の新政権によるたゆまない対話と努力が求められるところです。

民主主義国家では、政権交代は重要な意味を持ちます。国民の支持を得た新政権が、新しい政策を打ち出すことに相手方は異論をはさむことはできません。それが民主主義のルールだと思うのです。民主主義は米国が世界に誇るもの。同じ民主主義を共有する、英国やフランス、ドイツは米国にどのように対応しているでしょうか。日本の政府には、惑わされることなく、自らの政策を明確に打ち出すことが求められています。

■東京でアジア政策演説
オバマ来日に先立つ9日(ワシントン時間)、アジア歴訪の最初の訪問国に日本を選んだオバマ大統領はAPEC初日を欠席し、東京でアジア政策演説を行うことを報じています(NIKKEI NET:11/12 23:45)。
来日翌14日、サントリーホールでの演説には、各方面から招待されたさまざまな顔が見られました。11月14日の朝日新聞夕刊には、これら招待客の一部が紹介されていましたが、被爆地長崎市長や沖縄宣野湾市長、福井県小浜市長、拉致被害者家族、俳優、学者そして学生や子供などその顔ぶれは多彩。多くの招待者がそのスピーチに感銘を受けたことを報じています。

大統領就任演説もそうであったように、パブリック・リレーションズ(PR)の視点でオバマ大統領のスピーチを分析すると、実に多くのパブリックに対してメッセージを送っていることが改めてわかります。そしてその後の報道内容を分析することで、双方向性を担保していることです。彼のスピーチに共通するものは、どのような民族や文化そして政治環境にあっても人間の尊厳を常に重視していることです。

オバマ大統領が日本との関係で触れたことの中で、とりわけ私に強いインパクトを与えたのは、環境問題解決のために、環境技術で世界の最先端を走る日本との協働を真剣に呼び掛けていたことです。日本はこの分野を成長戦略の主柱に据え、政府、産業界、国民が一丸となって、一日も早く戦略的な取り組みを行うことが明日の日本の確実な繁栄を保証するものであると私は考えています。今世界は技術開発に向かって一斉に走り出しています。時間的な猶予はないのです。

米国の力が相対的に弱体化する中で、一つ対応を間違えると世界は危険な方向へ進みかねません。その中でキーワードは「民主主義」であるといえます。双方向性を持つパブリック・リレーションズは民主主義社会の中でしか生きていけません。絶対主義のなかではプロパガンダになるからです。

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2009年10月19日

鳩山政権発足一カ月
 ~変革への試練

こんにちは、井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

国民の圧倒的多数で総選挙に勝利し、9月16日に誕生した鳩山政権が今月16日で一カ月を迎えました。60-70%の高い支持率を維持しながら国民の期待を背負う、鳩山政権の概観が見えてきました。新政権が早急に手をつけるべき課題は何かが見えてきた一カ月でもありました。

それにしても今回の政権交代が、明治維新以来の「革命」や戦後のGHQによる制度改革に匹敵するとも言われるゆえんは、バブル崩壊後の長引く不況と未曽有の経済危機で、自民党一党独裁に対する国民の意識が大転換したことによるものとされています。

■試行錯誤
鳩山由紀夫首相は就任早々、国会での所信表明をまたず、国連演説で「温室効果ガスを2020年までに90年比で25%削減する」とする方針表明を行いました。加えて核廃絶・非核三原則堅持などの発言は、国際社会から熱い拍手で歓迎されました。

新政権が世界に存在感を示したのは主に外交面。国連演説やピッツバーグでの20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)に出席。早々と中、米、韓、露などの首脳と会談を行い、一定の成果を上げています。岡田外相とのコンビネーションにより、これまでの官僚主導に頼らない外交を進めようとしている点も評価されているようです。

一方、国内では、就任した閣僚がそれぞれ個性的な動きを見せています。前原国土交通相は、八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設中止表明や民間人を登用したJAL再生タスクフォースの設置。また日本の成長戦略を支えるであろう、羽田空港の国際ハブ化表明。原口総務大臣は地域主権や番組内容への不当介入防止のためのFCC(米連邦通信委員会)的な組織(通信・放送委員会)の設置検討など、矢継ぎ早の政策を発表しています。

しかし地元民や県知事からの反対や来年度の予算案概算要求などの折衝で、担当大臣関の齟齬が見られるなど試行錯誤を繰り返しています。また最近、鳩山首相が指導力を発揮する場面が少ないせいなのか、改めて懸念させられるのは首相直属で総合調整をはかるはずだった「国家戦略局」の姿がいまだに明確になっていないことです。

現実には菅直人副総理兼国家戦略相が担当する戦略局は一体何をするのか不明の状態が続いています。菅副総理の仕事は企業でいえば「経営企画室」で、企業の中枢で戦略構築を行う重要な役割を担う部署。

国家戦略室をめぐっては、まず権限をより強化し、各省庁への指揮命令を直接行うことを可能にするための国家戦略「局」への格上げが目的とされています。「国家戦略局」設置法案は、来春の通常国会で提出される見通しとなっていますが、そこで具体的に何を行うのか国民の関心は高まっています。

■赤字国債増発か公約の修正か?
10月17日朝刊の朝日新聞社説では、10年度の「概算要求の総額を今年度当初予算の88.5兆円以下に抑えるよう指示していたものが、ふたを開ければ95兆円にものぼった」と政権公約実現のために各省庁が盛り込んだ数字が過去最大としています。翌18日、仙谷由人行政刷新相は、10年度予算概算要求が09年度当初予算(約88兆5000億円)に比べ、約6兆5000億円上回ったことに対して、現在の95兆強の概算要求額を92兆程度に圧縮することを表明しています。

経済危機で歳入も当初見込まれた46兆円から40兆円を割り込むことも予想される中、マニフェスト(選挙公約)に掲げられた項目すべてを実施することに無理が生じています。赤字国債増発への舵切りを行ってでも100%成功させようと考えるのか、将来の負担を和らげるために公約の修正を行うのか、いま新政権は難しい判断を迫られています。

そんな中の16日、米政府が2009年会計年度(08年10月~09年9月)の財政赤字が1兆4170億ドル(約129兆円)で史上初めて1兆ドルの大台に乗ったと発表。その赤字幅は対前年度比で約3倍強に膨らみ、国内総生産(GDP)の10%にも及んでいます。

米国の巨大赤字は、昨年9月のリーマン・ショックに端を発した未曽有の金融危機や戦後最長の景気後退に対処するために導入した金融安定化策や景気対策に伴った大規模な経済対策の実施に加え、 所得・法人税減少で歳入が縮小したことによるとされています。

日本に限らず、舵とりが極めて難しい中での改革には時間と痛みが伴います。弱者を保護しつつ成長戦略を描くことで国民に希望を持たせることは政治の役割であるといえます。

いま国民やメディアには忍耐が求められているのかもしれません。国家予算を新しく政権を担った側(これまで野党として政府に十分なアクセスできなかった)が、わずか一カ月でパーフェクトに現状把握し組み立てることが簡単ではないことは明白です。

大切なことは、パブリック・リレーションズ(PR)の手法を駆使し、プロセスを明らかにし、きめ細かなフィードバックで状況把握を行い、さまざまなパブリックに情報を発信することです。そういえば、選挙戦であれほど叫ばれていた霞が関の「埋蔵金」は見つかったのでしょうか?

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2009年09月21日

鳩山新政権発足
 ~民主党マニフェスト実行

8月30日の総選挙で歴史的な大勝利を収めた民主党。半月後の9月16日、国会での首班指名の後、鳩山由紀夫代表は、第93代日本国首相に就任し、社民党、国民新党との3党による連立政権がスタートしました。

■安定感のある新閣僚
連立政権発足直後の鳩山内閣の支持率は、毎日新聞の調査で77%、読売新聞が75%、共同通信社72%と、小泉内閣に次ぐ高い数字で同政権に対する国民の期待は高まっています。

鳩山新首相が初めて取り組んだ閣僚人事は「脱官僚」に主眼を置いたのが特徴。代表経験者である菅直人(副総理、経済財政担当相兼国家戦略局担当相)、岡田克也(外相)、前原誠司(国交相)の3氏を始めとし、知名度の高い論客を「脱官僚」の最前線に配置したことです。18日には辻元清美国交副大臣を始めとする22人の副大臣を決定し、陣容固めを急いでいます。

大臣就任後初の深夜の記者会見では、これまでのように官僚が準備した原稿を読み上げる光景は見られず、一人ひとり自分の言葉で語っていたことが強く印象に残っています。長い野党時代を経験したからでしょうか、息せき切ったような新閣僚から発せられる就任スピーチの内容と姿勢は、これまでの就任会見と比べて際立っていたといえます。

新政府人事は、民主党内のグループ間のバランスや来夏の参院選挙への布陣も考えた、小沢一郎幹事長への配慮も窺わせ、「挙党態勢」を重視したものとなっています。また新政権には、首相官邸をサポートする組織や具体的な政策決定システムの構築が急がれており、鳩山新政権は試行錯誤を繰り返しながらのスタートとなるものと見られています。

■早速、マニフェスト実行
翌17日、新大臣から次々に新機軸が打ち出されます。前原誠司国土交通相は川辺川ダム(熊本県)や八ツ場ダム(群馬県)の建設中止を表明。長妻昭厚生労働相は、後期高齢者医療制度の廃止や生活保護の「母子加算」復活を表明。原口一博総務相は、国から地方へのひも付き補助金を廃止し、一括交付金として交付。並びに、国の直轄事業における地方の負担金制度の廃止を表明。亀井静香郵政改革・金融相は日本郵政社長に対する辞任の促しと中小企業への金融支援の表明などなど。

政府の戦略的要となる国家戦略室長には古川元久(内閣府副大臣兼任)さんが就任。弱冠43歳の古川さんは東京大学在学中、20歳で司法試験にパスし、28歳で大蔵省を退職、その後浪人経験をしながら政治家を目指してきた人です。頭脳明晰で、ハートもあり大所高所でさまざまな視点が求められるこのポストには最適な人事といえます。

しかしこれらの中には担当大臣間の政策やその守備範囲についての微妙な食い違いも見られます。長年膠着化した組織を全面的に変える場合、多少の齟齬は走りながら調整をするということなのでしょうか。関係者の間で論議が沸き起こっています。

PR実務家にとって興味深い話題がありました。それは岡田克也外相が就任後間もない18日の記者会見で、「外務省での記者会見を原則としてすべてのメディアに開放する」と述べていることです。これまで外務省の霞クラブに所属する報道機関に限定していた会見に、それ以外のメディアに対しても参加を広げる方針を明らかにしたもので、同外相によると、対象媒体は、「日本新聞協会」「日本民間放送連盟」「日本雑誌協会」「日本インターネット報道協会」「日本外国特派員協会」の各会員と、「外国記者登録証保持者」。また、条件付でフリーランス記者も認めるとしています。

岡田外相は何度も「国民の理解が得られなければ、外交はなりたたない」と発していますが、まさに国民の理解を得るために思い切った記者クラブ改革を打ち出したものと考えることができます。日米政府間の「核密約」問題で省内に徹底的な調査を命じていることからも、外務省の透明性が飛躍的に高まっていくことが期待されます。

マニフェストを掲げて国民の支持を取り付けた新政権にとって、数々の難題が山積しています。さまざまなステーク・ホルダー(パブリック)との関係構築を行なうパブリック・リレーションズ(PR)がどのように機能するのか今後が楽しみです。

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2009年08月31日

民主党 歴史的勝利
 ~政権交代、衆議院選挙

今日は井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

8月30日、第45回衆議院議員選挙の投開票が行われました。107年振りの真夏の選挙、その結果は480議席のうち、民主党が308議席、自由民主党が119議席と民主党の圧勝に終わりました。自民党は、1955年の結党以来選挙に大敗し、政権第一党の座を降り、15年ぶりに野党に転落することになります。

他党の議席数では、公明党は21、共産党9、社民党7、国民新党3。日本新党1、大地1、その他6、また公示直前に新しく旗揚げした、みんなの党は5名と善戦。政権与党の自民・公明は共に、太田代表、北側幹事長をはじめ多くの現職閣僚や党幹部、派閥の長が小選挙区で議席を失いました。今回の政権交代の嵐は想像を絶する勢いだったことが証明されました。

■有権者が立ち上がった
300を超える民主党の議席獲得は、一党が占める議席としては戦後最大といわれていますが、自民党敗北の原因はいろいろ考えられます。

開票後に麻生総理が、「自民党への積年の不満と不信が敗因」と敗戦の弁を語っていますが、1955年以来、細川・羽田政権(1993-1994)の一時期を除いて、半世紀以上にわたり国家経営を主導してきた同党への有権者の不満が爆発した結果と見ることができます。

また自民党が日本や世界を取り巻く環境の変化を読み切れず、政官財のもたれあいの構図から抜け出せなかったことなどもあげられます。加えて安倍、福田両首相(総裁)の突然の辞任。「自民党総裁が毎年変わったのも敗因の一つ」と麻生総理がテレビのインタビューに答えたように、国民の自民党離れに拍車をかけたといえます。

さらに昨秋のサブプライム問題は自民党にとって避けがたい逆風となりました。国民の不満は自民党に一気に集中。これまで、「政治には期待しない」と言っていた人たちが、投票行動が自らの生活に直結していることを知らされ、本気になって投票場に足を運び、地殻変動を起こしたのでした。

台風11号の影響にもめげず今回の投票率では、TBSの報道(31日午前1時現在)によると69.29%と、前回2005年(67.5%)より2ポイントほど上回っているようです。また、期日前投票は全国で1398万人。2005年衆院選の1.56倍と過去最高を記録。

■成熟する民主主義
英国週刊誌『エコノミスト』のシンクタンクである、Economist Intelligence Unit(EIU)が発表した民主主義の成熟度のランキング Democracy Index2008 をみると、上位には一位のスウェーデンを始め北欧諸国が占めていますが、日本は前年度の20位から17位に上がっています。評価項目は、1)選挙プロセスとプルーラリズム(複数の民族・宗教等の共存状態) 2)政府の機能 3)(市民の)政治参加度 4)政治風土 5)市民の自由度以下の5項目。

戦後、日本の民主主義は少しずつ成長してはいるものの、「欧米型先進国」のなかで、日本のような国家は、他には存在しません。これまで日本人の多数は、戦後長きにわたって所属する組織で組織票を形成してきました。産業界であれば所属する自動車労連、金属労連などの労働組合やパブリック・セクターでは、官公労(官公庁にある労働組合)などに所属し、これらが政党に対して選挙の集票マシーン役を担ってきたといえます。

企業の政治献金も盛んで、土建関連企業は、公共事業の受注と引き換えに、政治資金の提供から、選挙活動で社員を供出するなど特定の政治家と深い関係を築いてきました。つい最近まで、企業が政治家の事務所や秘書の給与を肩代わりするなどはごく当たり前のこと。個人票は、浮動票といわれ大政党に大事にされてきませんでした。したがって政権与党からは浮動票の投票は歓迎されず、投票率が低いと組織票を持つ政党が優位に立っていたわけです。

いまこの流れが大きく変わろうとしています。小沢一郎代表(当時)の公設秘書問題をきっかけに民主党はいち早く、企業・団体からの全面的政治献金廃止をマニフェストに掲げました。また公務員の制度改革を訴え他の野党も追従するなど、政・財・官のもたれあいを断ち切ろうとしています。

今回の総選挙は、初めて多くの日本人が、組織を離れ、自分の意思によって各党のマニフェストを投票基準とし、自分の望む政策を実現してくれる候補者や政党に一票を投じた選挙といえます。マニフェストによる政権交代が当たり前になって初めて、真の民主主義国家になるのではないでしょうか。

今後の組閣人事が楽しみですが、内政、外交など問題は山積しています。しかし、しばらくは温かい目で見守る度量を、有権者はもとより、敗北した自民党やマスメディアに期待したいものです。

30日深夜の鳩山代表の「勝利会見」で、鳩山さんは3つの交代の必要性について話しました。一つ目は「政権交代」。二つ目は「古い政治から新しい政治への交代」。三つ目は「官僚主導から国民主導への交代」。そして最後に「数におごることのない政治を行いたい」と抑制のある言葉で語っています。

民主党が国民の痛みや叫びを聞きとり、血の通ったきめの細かい政治を行ってもらいたいと願うのは私だけではありません。パブリック・リレーションズ(PR)がどのように機能するか楽しみです。

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『「説明責任」とは何か』 井之上喬著 <お知らせ>

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いまや日本中で連日連夜、謝罪が繰り広げられている。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見。「説明責任は果たせたと思う」と大臣をかばう総理のコメント。

だが国民はけっして納得していない。いまなぜ、どのように《説明責任》を果たすことが求められているのか? パブリック・リレーションズ(PR)の第一人者が、「倫理」「双方向」「自己修正」の三つの原則から、日本における《説明責任》の実態を解説し、問題点を指摘する。情報開示に不可欠なリスク管理にポイントをおいた待望の書き下ろし。


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2009年08月10日

本格的マニフェスト選挙
 ~各党から出揃う

いよいよ選挙が面白くなってきました。これまでの3バン(地盤・看板・鞄)だけでは選挙が戦えなくなる。新しい政治手法である「マニフェスト(政権公約)」は、7月27日、民主党が発表し、続いて、自民党が7月31日に発表しました。ほぼ全ての主要政党がマニュフェストを掲げた選挙戦に突入しました。

今回のマニフェストは未曽有の不況を反映し、国民生活(社会保障、医療、教育)関連、地方分権・公務員制度改革など各党共通するテーマが多く見られます。早稲田大学大学院教授の北川正恭さんが英国のマニフェストを参考に日本へ導入してから6年、ようやく開花しました。マニフェストは健全な民主主義が根づくベースとなるべきものといえます。

■政権政党に欠如する過去の総括
日本は戦後長きにわたって、自民党の一党支配が続きました。戦後の廃墟の中から立ち上がった日本の成功はミラクルと言われています。経済政策で日本を繁栄に導いてきたのはまぎれもなく自民党です。

しかし新しく掲げられるも具体性が乏しいといわれている、自民党のマニフェストには、何よりも過去の総括がありません。政権与党にとって、これまでとられた政策に対する自己評価なしに新しいマニフェストを掲げても国民は戸惑うばかり。

少なくともこれまで掲げた選挙民への公約がどのような結果をもたらしたのか、主要な政策についてだけでも明確に示されなければ、新しい公約をどのように信じ、政権を委託すればいいのか判断できないことになります。

長期政権が続くと、あちこちでひずみやきしみが起きるのは世の常。最近の世論調査の数字は自民党にとって極めて分の悪い数字です。いま国民の多くが、長期政権を担った自民党が一度政権を明け渡し、次のチャンスに備えることを望んでいるように見えます。まさに健全な二大政党の実現が期待されているのです。

■閉そく状態の社会システムを変えるか
環境問題、農業問題、社会保障・医療問題、教育問題など、これらのどれをとっても政治の介在なしに解決を見ることは困難。国民の多くが、これまでにない政治への期待感を募らせているのは、閉そく状態の社会システムを変えるのに、一人の努力ではどうすることもできないことに気がついたからではないでしょうか。政治による政策決定と実行力が今ほど強く求められているときはありません。

これまで経団連とは疎遠な関係にあった民主党は8月4日、経団連へのマニフェスト説明会に招かれ意見交換会を行っています。国民の生活を守るための政策を掲げる民主党に対し、経済成長を追求する産業界との論戦は、地球温暖化による環境問題や雇用対策を巡って厳しいものがみられたものの、双方が直接意見を言い合う格好の機会であったといえます。

マニフェストが掲げられる前の選挙では、どうしても前述の3バン的な環境で投票行為に走っていましたが、マニフェストが導入されることで各党の主張と、裏付けとなる予算や工程表が明確になります。そして、それらを比較することで投票決定ができる合理性のある選挙が実現します。

政権公約は国民との契約。契約が実行されたかどうかは4年後の選挙で評価されます。これまでのような空手形を切るわけにはいきません。マニフェストを行う上でパブリック・リレーションズ(PR)は車の両輪。その準備段階から最後の評価に至るまで、機能しなければならないのです。

そんな中の8月8日、都内のホテルで渡辺喜美元行政改革担当相が新党の立ち上げを発表しました。党名は「みんなの党(英語名:Your Party)」。15名を擁立し、新しい第三極と政界再編を目指し船出をしました。党名には、何となく渡辺さんの人柄が表れているように感じます。


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いまや日本中で連日連夜、謝罪が繰り広げられている。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見。「説明責任は果たせたと思う」と大臣をかばう総理のコメント。

だが国民はけっして納得していない。いまなぜ、どのように《説明責任》を果たすことが求められているのか? パブリック・リレーションズ(PR)の第一人者が、「倫理」「双方向」「自己修正」の三つの原則から、日本における《説明責任》の実態を解説し、問題点を指摘する。情報開示に不可欠なリスク管理にポイントをおいた待望の書き下ろし。


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2009年07月27日

衆議院解散
 ~混乱する自民党

今日は井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?


7月21日、ついに衆議院が解散しました。2008年9月25日、麻生政権が誕生してから10カ月後の解散。安倍政権を継いだ福田政権が崩壊し新たに誕生した麻生政権は、「選挙管理内閣」ともいわれた政権。就任後、前政権から引きずる社保庁問題や未贈有の世界同時不況にみまわれるなど、さながら暴風雨の中を漂う小舟のように操縦不能の状態が続いていました。

この日は自民党の中川秀直元幹事長らが要求した両院議員総会を開催することなく、代わりに両院議員参加の「懇談会」を開催。続いて衆院本会議では解散宣言がおこなわれ、政府はその後の臨時閣議で「8月18日公示、30日投開票」の衆院選日程を決定しました。8月投票は明治以来107年ぶりのこと。

■タイミングを外した自民党
多くの識者は今の状況を、「自民党は、1955年の結党以来選挙に大敗し、政権第一党の座を降りるのは避けられない」とみています。

解散前の自民党の議席は303。絶対安定多数(269議席)を占め、公明党の31議席を加えた与党の議席は、衆院で法案の再議決が可能な3分の2(320議席)を上回っていました。しかしこのままでは200議席はおろか100議席の前半がいいところという厳しい見方も出ています。

7月5日の静岡県知事選に敗北、続く12日の都議会議員選挙での大敗は自民党から民主党へ軸足を移そうとする選挙民の意思の表れと見ることができます。そんな中、自民党内の不満を抑え込んだ21日の解散宣言はあまりにもリスクが高いと言わざるをえません。

これまで、自民党には何度か解散のチャンスがありました。とりわけ3月12日 に 民主党小沢代表(当時)の公設第一秘書が逮捕された西松建設の違法献金事件は、民主党を厳しい状態に追い込みました。このときこそ自民党が選挙に勝つ絶好のタイミングだったと見ることができます。にもかかわらず自民党は解散を決断しませんでした。

自民党にとっては、まさに勝利の分水嶺だったはずです。3月末の千葉県知事選、4月上旬の秋田知事選における自民の勝利はそれらを裏づけているといえます。あるいは麻生総理は、7月のイタリアでのG8サミット(8日―10日)への出席まで、解散することを考えていなかったのでしょうか。

■潔さが大切
今回の与党自民党の解散劇は、国民の前にさまざまな内部崩壊の過程をみせつけ、国民の自民党からの離反を決定づけたといえます。一度下がったベクトルを上向かせることは至難のわざです。

雇用、年金・医療などの社会保障、教育、日常生活など大多数の国民の生活環境は悪化の一途をたどっています。長引く不況の中で民間企業は、給与カットや血のにじむようなリストラを行っています。その影響を受ける人々の生活。このような中で政治の空白は許されるはずはありません。

自民党への不満は、そうした社会の苦しみを皮膚感覚で理解していないことに対する国民の怒りにも見えます。元来保守的な日本人が今回の変革を支持するとしたら、それだけでも大変なことです。我慢づよい国民性は戦後も一貫して安定を望んできました。その日本人が、将来の安定のために政権交代を望んでいるのが今回の選挙の特質とみることができます。

世の中が混迷しているときには政治家に強い志が求められます。青い考えかもしれませんが、与党であれ野党であれ、世の混乱を鎮め、新しい国家目標を掲げる覚醒された政治家集団であって欲しいと思うのです。

また、元来民主主義国家で一つの党が何十年も与党であり続けること自体が異常といえます。ほどよい政権交代により政治が執り行われ、健全な2大政党に育っていくことで、国民は民主主義社会の繁栄を享受できるようになると思うのです。だから選挙に勝っても負けても潔さが求められます。負ければ次に備えて力を蓄え、勝てば全力投球で国民や世界のために働く。

国家を運営する人たちには、時代の流れを見ることが強く求められています。インターネットや携帯電話、車や新幹線・飛行機など社会のインフラが大きく変わっている今の時代に、自転車も珍しかった明治時代から変わらない制度が戦後長きに渡って通用していたこと自体が奇跡と言わざるを得ません。行政機構はもとより、この国の再構築が必要なのは誰の目で見ても明らかなはずです。

今日本には真の意味での政治力が試されています。政治力を高めるには、パブリック・リレーションズ(PR)が欠かせません。


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いまや日本中で連日連夜、謝罪が繰り広げられている。「説明責任を果たしていない」と詰め寄られる企業不祥事の記者会見。「説明責任は果たせたと思う」と大臣をかばう総理のコメント。

だが国民はけっして納得していない。いまなぜ、どのように《説明責任》を果たすことが求められているのか? パブリック・リレーションズ(PR)の第一人者が、「倫理」「双方向」「自己修正」の三つの原則から、日本における《説明責任》の実態を解説し、問題点を指摘する。情報開示に不可欠なリスク管理にポイントをおいた待望の書き下ろし。


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2009年05月25日

本格化するマニュフェスト選挙
 ~自民・民主の「四つ相撲」

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

5月16日、民主党は両院議員総会を開き、前幹事長の鳩山由紀夫さんを新代表に選出しました。鳩山由紀夫新代表は17日夜、新執行部の人事を発表。岡田克也副代表を幹事長に起用。小沢一郎前代表は筆頭代表代行に就任し、来るべき選挙に向けて指揮を執ることになりました。

民主党への支持率も各報道機関が18日に発表した世論調査では上昇、政党支持率でそのすべてに民主党が自民党を逆転。来るべき自民、民主による衆議院選挙は、まさに日本の将来を決定づける、がっぷり四つに組んだ力相撲の様相を呈しています。

■マニュフェストを見て投票
先日久しぶりに大学で早稲田大学大学院教授の北川正恭さんとお会いしました。北川さんはこれまで、私の担当する授業で何度か講義をしてくださっており、マニュフェストとパブリック・リレーションズ(PR)との関係性をよく理解されている方です。

北川さんは日ごろ選挙にマニュフェストを導入することの重要性を説いていますが、最近行われたある調査結果で、面白い社会の変化について話をしてくれました。それは、一般の選挙民が、候補者を選ぶ時に何に対して投票するのかといった問いに対して、答えの一番に上がったのは「マニュフェストを見て投票する」だったそうです。

これまで、政治家に必要なもので、選挙に当選するためには、「地盤、看板、鞄」つまり、 地盤=後援会・支持者、看板=知名度・肩書き、鞄=資金、とされていました。これら「3バン」から繋がる「しがらみ」の中で政治活動を行いがちでした。

しかし、この結果を見る限りでは、選挙の風向きが大きく変わってきたといえます。とくに最近の選挙で大多数を占める、サイレント・マジョリティには、候補者選びにマニュフェストを重視する傾向が高まっていることが考えられます。

■ネット選挙運動へ
北川さんはまた、選挙期間中のインターネットによる候補者の政見放送(動画)の実現に向けて奔走しています。候補者全員がそれぞれ与えられた時間で、自分の政策や信条などを訴えることができれば画期的なことです。

現在大きな選挙では、NHKが政見放送を行っていますが、視聴者が録画をしない限り繰り返して見ることはできません。しかしネット上の政権公約は、有権者が必要であれば何度でも見ることができます。他の候補者との比較も可能になり、国民がより手軽に政治にアクセスでき、有権者にとって自らの一票をより有効なものとすることができます。

特に、選挙ポスターやチラシ、はがき、看板、広告出稿、そして運動員の手当てなど、選挙に勝利するには莫大な資金が必要とされます。現在の選挙環境では、お金のない、若い有為な人材が政治の舞台に上がることは至難の業。

先の米国大統領選で、インターネットは大活躍しました。ネットを利用した個人の小口献金による巨額な献金活動の成功もさることながら、テレビ、新聞などの既存メディアから、新しいYouTubeなどの動画共有サイトも利用され、さまざまな政策提言が行われました。

日本の現行の公職選挙法の基準には、あいまいなところが見られます。政治家への企業献金廃止が叫ばれる中、真に能力のある政治家の国政参加を促すためにも、社会の技術革新に合ったブロードバンド時代の法整備と選挙システムの構築が急がれるところです。

パブリック・リレーションズ(PR)とマニュフェストの精神は同一であるといえます。そこに共通するのは、民主主義社会におけるステーク・ホルダーへの説明責任の伴った「公正さ」と「透明性」です。双方向のパブリック・リレーションズによって、さまざまな有権者を把握した、循環型のより良いマニュフェストが実現可能となるはずです。


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2009年04月06日

迷走する政治 2
 ~外国メディアの日本批判

こんにちは、井之上喬です。
やっと桜の満開を迎えた関東地方ですが、みなさん、いかがお過ごしですか?

いま日本の政治にこれまでにない赤信号がともっています。
先日ある閣僚経験者と夕食を共にしました。話題は現在の日本の政治の迷走。日本が直面している政治の危機的状態をどうすれば脱却できるのかといったことでした。今の日本には、麻生さんや小沢さんを比較しその優劣を論じる悠長な状況はありません。

日本の政治は、奈良・平安時代の律令政治から鎌倉時代、武家政治に移行し江戸末期まで続きますが、明治維新以降長きにわたって官僚主導政治が続いています。このパラダイムは第二次大戦後も大きく変わっていません。今回は、迷走する政治の現状についてさまざまな視点から見ていきたいと思います。

■外国メディアもあきれる日本
日本の政治の迷走ぶりをみて、海外メディアが日本の政治家に対し手厳しい批判記事を掲載しています。米国政治のオピニオンリーダー紙、ワシントンポスト(2009年2月2日付)はショッキングな記事を書いています。ある日本人学者のコメントを引用し、日本はすでに「ゆでがえる」。熱い湯に入れられた蛙は熱さに驚き、飛び出てくるが、ゆっくりと水を煮立たせると、蛙は飛び出す力を失いゆであがる。問題は、すでに蛙が煮立った湯の中にいることだと書かれています。

また、英フィナンシャル・タイムズ紙は2月25日の社説で、「日本の危機は政治がマヒしているせいで悪化している」と指摘。日本はすぐに総選挙を実施して、意思決定できる政府をつくるべきだと訴えています。そして「(中略)慢性的な輸出依存により、世界の需要が衰えると経済が止まってしまった」と日本経済の現状を分析。こうした状況に麻生政権は、不十分な対応を続けていると批判(Asahi.com:ロンドン尾形聡彦)しています。
一方、米誌ニューズ・ウィーク(アジア版、3月9日号)は「Headless in Tokyo:アタマのない東京」という見出しで長文記事を掲載。中川昭一財務・金融担当相(当時)の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での二日酔い会見写真と相次ぎ辞任した4人の日本の首相らの写真を並べ、「日本はグローバル・ビジネス、文化、テクノロジーにおける大国であるにもかかわらず、バナナ共和国(banana republic)のように運営されている」と指摘しています。「バナナ共和国」とは一般的に政情不安定な小国をいい皮肉られた表現。

そして米紙ワシントン・ポスト(3月25日付)は、麻生首相への支持率が下がる中、小沢一郎・民主党代表の公設秘書の起訴により小沢氏が首相の椅子を得る可能性が薄くなったとし、彼に期待していた国民は落胆していると報道。また90%以上の国民が現在の政治を不満に感じていると、「汚職を嫌って自民党を離党した小沢氏」の去就について報道しています。

■しがらみ政治から脱する
世襲問題については、米紙ニューヨーク・タイムズ(3月15日付)は次男を後継指名した小泉純一郎元首相を批判。政界の世襲は戦後日本のダイナミズムを喪失させている。日本社会をより硬直化させ民主主義が弱体化する兆候かもしれないと分析。またブルンバーグ・ニュースのコラムニストのWilliam Pesek氏は、「数々の深刻な構造問題を抱えているとはいえ、能力に応じてリーダーを選べば、日本は潜在力を発揮して、将来的には再び成長の果実を得ることになると思われる。だが、能力ではなく、「生まれ」で首相ポストが決まり、新しい意見が力を得ない日本政治の現在のありようのままでは、先は真っ暗だ。」(3月19日)と世襲化した日本の政治のありようを厳しく批判。有能な政治家を発掘・育成する環境づくりが急がれています。

日本や英国、デンマーク、スウェーデンなどは皇室と政治が切り離されています。しかし、北朝鮮の金正日一族をはじめ、パキスタンのブット一族やインドネシアのスカルノ一族など、途上国の多くの政治のトップが世襲制で継承されている事実を知るにつけ、日本政界のレベルがその域を脱し得ない危惧を持つことを禁じ得ません。もちろん世襲議員の中にも秀逸な人はいますが、小泉首相以降、日本では安倍晋三氏、福田康夫氏、そして現在の麻生太郎氏の4人の首相はすべて世襲政治家。

しかし政治家としての資質や能力があっても、資金のない有能な新人が政界に進出するためには、政治家個人への有効な支援システムを考える必要があります。私が夕食を共にした前述の政治家は、本人の経験として、「最近後援会等の会費の支払はクレジット・カードで処理できるようになったが、米国の大統領選で使われたような、インターネットでのワンクリック献金は難しい」と指摘しています。会費納入と異なり、クレジット会社が不特定多数の相手に対する処理に消極的なことがその理由にあるようです。また日本では寄付金に対する税控除も受けられません。

日本は世襲や企業など特定の組織との既得権益を排除し、利害関係のない政治家を育てなければなりません。以前このブログで紹介した、司馬遼太郎が蘭医学者、緒方洪庵について語っているくだりがあります。「人のため」に生きた彼の生涯を示し、志の大切さやその高い志を共有することで、大きなうねりを起こすことができるとしています。身を持って教えようとした洪庵の精神。使命感と志を持つことの重要性が語られています。

パブリック・リレーションズ(PR)の手法で語るならば、「国民を幸せにする」これが政治家としての大目標のはずです。この究極の目標に向かって政治家個人個人がどのような行動をとるべきかいま強く問われています。かつて主要閣僚として政治の中枢にいたこの政治家は、何かを心に期したように、静かにしかし力強くその場を離れていきました。

投稿者 Inoue : 09:40 | トラックバック

2008年12月06日

急がれる内需拡大
 ~明るい未来の種をまく

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

いま世界は、米国を震源地とした100年に一度といわれる経済危機に瀕しています。
GDPで年内にはドイツを抜き3位に躍り出る勢いの中国は、11月9日、政府による総額4兆元(57兆円)の内需拡大策として公共投資を行うことを発表。グローバルを襲う金融危機にいち早い対応姿勢を示すものとして世界の注目を集めました。

構造改革による内需転換を訴えた1986年の「前川レポート」の報告書作成メンバーの一人、加藤寛(現加藤寛嘉悦大学長、慶応大学名誉教授)さんは、読売新聞の10月26日朝刊1面で日本の1500兆円の個人金融資産活用による内需拡大を提案していますが、いまだ政府による強力な総合対策が打ち出されていません。
円高の時代こそ内需振興が求められます。今回は日本の内需拡大にとって重要となる、「住宅」、「観光インフラ整備」、「石油代替エネルギー」の3つの分野についてお話します。

■内需拡大の早道は「200年住宅
内需拡大の切り札は、米国では住宅建設と自動車そしてクレジットカード。米国商務省(経済分析局)の数字によると、民間新設住宅着工件数は、2005年には年率平均200万戸の大台を維持していたものが2008年10月にはサブプライムの影響もあり、実に同79万戸にまで落ち込んでいます。これでは米国景気が良くなるわけはありません。

一方、日本の新規住宅建設は、官製不況とさえ言われた建築偽装問題以降の落ち込みで、2007年には一時的に新規着工が年率70万戸台に下がったものの、最近では同110万戸台を維持しています。しかし日本の住宅の質的レベルは多くの場合、欧米諸国との比較において依然として劣悪。土地価格が右肩上がりの戦後、住宅の寿命を30年程度としたことで、資産として捉えられなかった結果、中古イメージが付きまとった住宅には持ち主が変わると取り壊しするしかありませんでした。

12月4日、自民・公明両党の税制調査会は、2008年1月から拡充する住宅ローン減税の概要をまとめました。特に「200年住宅」購入者は、最高600万円(一般住宅は最高500万円)の減税を行うものでこれまでにない大胆な内容。住宅に対する考え方は、彼我の税制の違いもあり、建物寿命30年の日本と100年-200年の欧米とでは大きく異なりますが、土地本位制で上ものが無視されてきた戦後の日本では、資産価値のある超長期ローンによる安価で良質な住宅購入の実現は計り知れない経済効果をもたらすものとして期待されています。

衣・食・住たりて人は初めて幸福感を味わいます。住宅問題は国民にとって最も関心の高い問題といえます。

■観光インフラ/クリーン・エネルギー
またこれまで日本では、不況時の景気対策にはダムや道路建設など、土木建設関連業者への救済策として税金が投入されてきましたが、100年に一度しか起きない過疎地の河川氾濫のために、数百億、数千億規模の不要なダム建設は知恵のある施策とは思えません。

しかし同じ公共投資でも、美しい観光都市づくりのための事業は意味をもつはずです。日本は2010年までに、1000万人の外国人観光客の誘致を目標に掲げ、2020年には2000万人を目指していますが、フランス、イタリア、英国など、歴史と伝統を持つ成熟した国はいずれも観光事業に力を入れています。日本には電線の地中化はもとより、街並みや街路樹の整備、判別しやすい英語の標識の充実など新しい形の公共事業は必要といえます。

そして、アジア地域での飛行機利用者の急増に対し、日本ではハブ空港もいまだ整備されず、同地域の他の空港に客を奪われている現状において、不必要な規制を撤廃しハブ空港としての羽田空港の拡張工事を前倒しで行うことも喫緊の課題でしょう。

内需拡大の3つ目は脱石油のためのクリーン・エネルギー開発です。米国オバマ次期大統領は、11月4日、新たなエネルギー政策案を発表し、米国が中東、ベネズエラなどの産油国への過度の依存から脱却するために、向こう10年間で1500億ドル(当時のレートで約16兆2000億円)を投入することを提唱しました。
また、太陽エネルギー、風力発電などの「クリーン・エネルギー」の利用拡大やバイオ燃料開発、省エネ対策を呼び掛け、環境エネルギー産業で500万の雇用を創出すると発表しました。

日本も国家の強い意思により、新しい、クリーン・エネルギー開発に技術と資本を注入し統合的に取り組む必要があります。これらの実現は、将来のエネルギー生産・輸出国としての日本の地位を飛躍的に変化させるはずです。

内需拡大について、先の加藤寛さんは、現在GDPの20%しかない製造業のために、輸出型(円安)モデルを追求するのではなく、内需型産業である非製造業の生産性を高め金融業界の活性化を促しています。これらの振興のために国民のコンセンサスづくりを実現し、目的達成に向けて行うパブリック・リレーションズ(PR)は欠かせないものとなるでしょう。

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2008年11月08日

オバマの新しいアメリカ
 ~新世界秩序へ向けて

米国の大統領選挙で民主党のバラク・オバマ上院議員が共和党のジョン・マケイン候補を大勝で打ち破り、来年1月米国大統領に就任することが決定しました。

オバマ氏については以前このブログでも紹介していますが、私が最初に彼を知ったのは昨年2月、ワシントンDC滞在中に偶然ホテルのTVで放映されていた彼の大統領選出馬表明でした。2007年2月10日、地元イリノイ州のスプリングフィールドでの支持者集会で米大統領選への出馬宣言を行ったときでした。オバマ氏のメッセージは、その2日前にワシントンの大統領朝食会でブッシュ大統領のスピーチを聞いた私に、計り知れない衝撃を与えました。

■ 主要国首脳のメッセージにみる違い
故ケネディ元米大統領(JFK)の再来ともいわれるオバマ氏は、就任すれば建国以来初の黒人大統領。ハワイで生まれ、インドネシアでの生活体験を持ち、米国や世界を人種、宗教、文化など多様な視点で見ることのできる逸材ともいえます。国際協調を訴え、これまで敵対してきた諸国との対話姿勢も明確に打ち出しています。11月4日深夜(現地時間)、12万人を超える支持者の前で行ったシカゴでの歴史的な勝利演説の内容は米国民と世界を感動に包みこみました

各国首脳もこの米国新大統領の誕生に熱いメッセージを送っています。11月6日付朝日新聞(朝刊)には以下のようなメッセージが紹介されています。まず欧州連合(EU)議長国・仏 サルコジ大統領は、「あなたの当選は仏、欧州、全世界に大きな希望を呼び起こす。米国と一緒に世界の平和と繁栄を守るための新たな活力が得られる」と表明し、英国ブラウン首相は、「オバマ氏と私は多くの価値観を共有している。緊密に連携して働けることを期待している」。

一方、中国の胡錦濤国家主席は、「中国政府と私は一貫して中米関係をたいへん重視している。両国の対話と交流をさらに強めたい」とそれぞれ熱いメッセージを送っています。

そして日本の麻生首相は、「どなたが大統領になられようとも、日本にとりまして日米というものが基軸というのは終始一貫、変っていない。民主党政権の時であろうと、共和党政権の時であろうと、日本政府としてきちんとした対応を米国とやってこれた。そういった努力を引き続きオバマという人とやっていかねばならぬ。…」(衆院財務金融委員会での答弁)。

麻生さんの同様なコメントはその後TVでも繰り返し流されましたが、皆さんは何を感じましたか?翌日11月7日付の同紙の社説では、麻生首相の感想がのんきすぎると批評し、「『ブッシュ後』の米国が、そして世界が大きく変わろうとしているという鋭敏な時代認識が感じられない。」と論じています。無味乾燥なコメントの中には、世界を良い方向に向かわせようとする情熱が感じられませんでした。麻生さんは米国はじめ、世界が極めて不安定の中にある最中の米国大統領誕生の意味をどの程度哲学的に捉えていたのでしょうか?少なくとも有能なスピーチライターは用意されていたのでしょうか。この問題は、個人の資質に帰すことは当然のこととして、パブリック・リレーションズ(PR)力の問題でもあるといえます。

■ オバマ勝利を日米関係刷新の機会に
ハワイで生まれ、インドネシアでの生活体験など多様な人種、文化のもとで育ったオバマ次期大統領はある意味で米国にとどまらず特異な存在感を持った政治家。イラク戦争、アフガン紛争、イラン問題、北朝鮮問題など解決すべき国際問題が山積する中で、武力と経済力にだけ頼らず、対話を重視し世界のリーダーと関係構築できるオバマ氏の資質に世界の期待は高まっています。

今回の選挙結果は日本にとっても、戦後長きにわたって続いたこれまでの日米関係を再構築する絶好のチャンスといえます。

こうした中、オバマ氏を取り巻くブレーンやジャパノロジストへの日本からのラブコールは高まっています。しかし政権交代のたびに、単にこれらジャパノロジストとのパイプを太くする目的だけで関係性を深めることは彼らの負担を大きくするだけです。

このところ、TV番組で様々な米国のジャパノロジストによる日米関係の今後の在り方についてのコメントが紹介されていますが、全体的に米国側が日本のどこ(誰)とどのように関わればいいのか判らず戸惑っているような印象を受けました。特に東アジアにおける中国の台頭が目覚ましい中、日本はこれまでのように、米国とのチャンネルを築くためのみに、ジャパノロジストに頼るのではなく、彼らを支援することが重要となります。

日本のよき理解者としての彼らを強力にバックアップすることで、彼らの発言力が米国内で増してくるはずです。そのためにはこれまでのアプローチだけではなく、日本が政治改革、金融改革、地方分権、教育改革、環境問題・脱石油エネルギーなど、今後の日本の新しい取り組みを提示し、これらジャパノロジストと情報共有することが重要になってくるものと思われます。

アジアにおけるパワーバランスが変化する中にあっても、日本が新の自立国家として世界に貢献できることは山ほどあるはずです。新しい日本を指し示すことにより、ジャパノロジストの立場が米国で強化され、結果として日本の立場が強まることになるはずです。

内外からの日本の政治家への期待は、今まで以上に高まっています。オバマ氏の勝利は、これまで幾度となく叫ばれてきた日本のリーダーシップの実現に、パブリック・リレーションズ力が不可欠なものであることを私たちに教えています。

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2008年09月28日

麻生政権誕生
 ~政治は変わるのか

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

5名が名乗りをあげ、繰り広げられた自民党総裁選、結果は下馬評どおり麻生さんが圧勝。9月1日の福田首相の突然の退陣表明から3週間後の22日、自民党の新総裁が誕生しました。2日後の24日には麻生政権がスタート。新内閣はさながら選挙内閣の様相を呈し麻生さんは就任早々、衆議院解散を意識した民主党への対決姿勢を鮮明にしました。

諸外国からみれば、日本国を経営するトップがわずか2年で3人目に入るというのはどう考えても異常というしかありません。総裁選挙中、5名の候補者が名乗りを上げるものの、いずれの候補者も、政権党が引き起こした政治の混乱が国民にもたらした不都合を詫びることはありませんでした。パブリック・リレーションズ(PR)の視点でみれば、途上国でも見られないこのような状況が、なぜ日本で起きているのか、日本とはどういう国なのか、将来どこに行こうとしているのか。国内はともかく世界は日本のこの状態を半ばあきれ顔でみています。

■自民党の新TVコマーシャル
自民党の新しい選挙用TVコマーシャルが9月25日に発表されたのを受け、同日、私は日本テレビのニュース番組「リアルタイム」に出演し、このコマーシャルへのコメントを求められました。質問は、このCMをみてどう感じるかといったもの。スタジオで見たCMについて、小泉首相のキャンペーンCMと同じコンセプトで作られていることを指摘しました。

つまり、新しいCMは「選挙の顔」として麻生という人間を前面に出したもの。小泉さんと同じように、強いリーダーを表現するために個性的な麻生さんを前面に出そうとしたことがうかがえます。違いは、小泉さんが、(古い)日本を打ち壊す、と構造改革を掲げ新しい日本の枠組みを語ったのに対して、麻生さんは世論の声を反映させようとしたのか、生活密着メッセージ。

一方、民主党のCMは小沢さんが前面に出るも地方を歩き回り、様々な人たちの声を聞いている姿を画面に出しています。個人の人気で麻生さんに後れをとる民主党の戦略でしょうか、小沢さんを通して民主党全体をイメージさせる内容となっており、日頃、小沢さんが「政治は、国民を幸せにすること」と主張していることが表現されています。

興味深いことに、CMを見ている限り小沢さんも麻生さんも訴えていることはほぼ同じ。「生活者の目線」では、自民党のCMが民主党のCMに似かよってきた印象を与えています。

■在任1年8カ月では国家経営は無理
1982年11月、中曽根首相が誕生して2008年9月の福田政権終焉までの25年10か月の間、実に14名の首相が誕生・交替しています。1人の首相の在任が1.8年、2年にも満たない状態で、国家経営がどうしてできるのでしょうか?民間企業ならとっくに消滅。官僚が力を持つのは当然です。このような状態を許した要因は何なのかを制度を含めて総合的に点検しなければいけません。

首相の在任期間は、現在長期にわたって政権を運営している自民党の党則に強い影響を受けています。自民党では総理大臣には党の総裁が就任。自民党総裁任期は3年、2期と定められていますが、総裁が首相をつとめる内閣への不信任が高まれば、衆議院解散(参議院に解散はない)により、総選挙で信を問い、新しい首相(継続も含め)による内閣が発足します。無事にいった場合、最高6年まで首相を務めることができますが、現実は、まさに日替り弁当状態です。

新しいシステムは、選挙制度を見直し、少なくとも首相の任期を義務づけ、最低4年できれば8年程度に延長する必要があります(ちなみに現在の米国は4年2期)。民間企業でのリストラでも最低数年かかることを考えれば国家経営にはもっと時間が必要なはずです。明確なマニフェストに基づいた政策プログラムにより、プロフェショナルな政治・行政が求められているいま、地方分権、道州制なども含め、これらを全うできるシステムづくりが喫緊の問題として浮上しています。

麻生政権スタート直後、中山国土交通相が問題発言で辞任しました。このような例は、他の先進国でほとんど見ることはありません。繰り返される大臣辞任、見識が問われています。

国家経営には、内政、外交、国民生活・社会福祉、財政、農業からIT、そして教育など多くの事象に対する複合的な視点を持つことが求められます。さまざまな視点と人間力が要求されるパブリック・リレーションズは、これらの問題解決の強力な武器となるはずです。

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2008年09月06日

自民党総裁選
 ~新しい政治の構築に向けて

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

福田首相の9月1日夜の突然の退陣表明により、政治の世界がにわかにかまびすしくなっています。この発表は、同じ日の1日午前に小沢民主党代表による、9月21日開催の民主党代表選への正式立候補表明を受けたタイミングで行われました。

北海道洞爺湖サミットのホストを果たしたばかりの福田首相の突然の辞任ニュースは世界中を駆け巡りました。昨年9月26日に就任以来わずか11カ月で、安倍前首相に続く辞任として国内にさまざまな反響を呼んでいます。

■オープン性を強調
このような大イベントには、双方が有権者をどのように取り込むのかメディア戦略は極めて重要なものとなります。メディアは今回の辞任について、民主党代表選挙にぶつけるために、気色の悪くなった福田さんが首相を退任し、民主党の無風選挙と対称的な、色とりどりの候補者擁立によるオープンな選挙を内外に示すことを意図しているのではないかと報じています。

おりしも米国でも、11月4日の大統領選挙に向けた民主、共和党の候補者決定が同じタイミングで行われ、8月28日の民主党全国大会ではオバマ上院議員、9月3日の共和党全国大会ではマケイン上院議員が大統領候補として指名されました。指名受諾演説の3大ネットなどでの全米の視聴者数はそれぞれ3800万人を超えたとされています。

自民党は今回の総裁選挙ではオープン性を強調し、民主党との違いを浮き立たせ、代表選候補者が対抗馬のない小沢代表ひとりの民主党に対し、開かれた自民党を演出しようとしているようにみえます。候補者も麻生太郎幹事長のような「積極財政派」、与謝野馨経済財政相の「財政規律派」、小池百合子元防衛相の「上げ潮派」、中堅を標榜する、石原伸晃元政調会長、石破茂前防衛相、加えて中堅・若手を代表する棚橋元科学技術担当相、山本一太参議院議員などが立候補の意思を表明し推薦人集めを急いでいます。現状では、5名を超える候補者が争う様相を呈しています。

■マニフェストを示す
さまざまな候補者が名乗りを上げることは、開かれた党を国民に示す意味では間違っていませんが、問題は他の候補者と比べてどのような政策を掲げるのかが鍵となります。北川正恭元三重県知事(早稲田大学院教授)の提唱で、マニフェスト(政権公約)選挙が普及し、2003年の衆院選では民主党がマニフェスト作成を宣言。その後他党にも浸透しつつありますが、これまで自民党は積極的にマニフストを掲げていません。

9月21日の臨時党大会で行われる民主党代表選挙の翌日に実施される、自民党総裁選び(10日告示、22日投開票)では、具体的な政策論争を展開し他の候補者との政策の違いをそれぞれ鮮明に打ち出すことが重要。さもないと国民はただの政治ショーとしかみなさず、自民党離れは加速するばかりとなります。候補者のマニフェストが期待されるところです。

いま国民が求めているのは、戦後日本のシステムの再構築。企業のリストラと同じように、同じ経営者(政党)が自ら思い切った構造改革を行うには無理があります。小泉政権後の自民党によるさまざまな改革に対する進捗は足止め状態。現在の状況は、年金問題や国家公務員制度改革などさまざまな具体的改革のために政権交替を行い、新しい枠組みによる改革でしか実現できないと、私たち有権者に思考転換を促していると見ることもできます。

このような中で、明確なメッセージを国民にわかりやすくタイムリーに送り、人々の心を一つにするためにパブリック・リレーションズ(PR)の果たす役割は大きいのです。

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2008年07月12日

洞爺湖G8サミットに学ぶもの
 ~クリーン・エネルギーを今すぐ

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

7月7日から3日間にわたって開催された、「北海道洞爺湖G8サミット」が閉幕しました。主要8カ国(G8)に、新興国などあわせた過去最多の22カ国の首脳が集まったサミットは、世界で頻発する異常気象や食料危機を受けた地球・環境サミットとなりました。G8の枠組みが、この様な地球規模の課題に十分に対応できるのかが問われたサミットでもあったといえます。

あぶりだされたのは先進国と途上国との間のギャップ。最終日の9日、G8に中国、インド、ブラジルなど新興国8カ国を加えた主要排出国会議(MEM)では、G8が掲げた「50年まで温室効果ガス排出量を半減」とする長期目標に賛同した国は、韓国、オーストラリア、インドネシアの3カ国。その他の新興国の多くの反応は、「現在の温暖化をもたらしたのは先進国」とこの提案を受け入れず、先進国の「過去責任」と自らの「成長する権利」を重ねて強調しました。

■脱石油と代替エネルギー、
地球温暖化の元凶は石油エネルギーに代表される化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)。石油価格の高騰と異常気象による食糧危機は、石油資源や外貨の乏しい、アフリカ、アジアの途上国へ計り知れない打撃を与えています。危機的状態は途上国に限らず、先進国にも、急激なコスト高によるインフレ不況が蔓延する恐れもはらんでいます。

人類がエネルギーを初めて利用するようになったのは、50万年前の「火」の発見に始まります。1万年前には農耕、牧畜による「牛馬」の利用、さらには「風力や水力」などの自然エネルギーが活用されます。16世紀には「石炭」が登場。やがて19世紀中ごろ、米国で石油採掘技術の開発による「石油」の大量生産が開始。1950年代、中東やアフリカでの相次ぐ大油田の発見とともに、エネルギーの主役は石炭から石油へと変わりました。大量生産による安価な石油はエネルギー革命をもたらし、あらゆる動力源となっていきます。

1970年代の2度にわたる石油ショックは、世界中にエネルギー不安をもたらし、当時石油依存度70%超の日本も、単一エネルギーである石油への依存を減らすために原子力や天然ガスなどの代替エネルギーの導入を始めます。最近では、太陽光エネルギー、風力エネルギー、エタノールに代表されるバイオ燃料などの利用も進んでいるものの、政策不在で民間ベースの開発スピードは決して速くないのが現状です。

一方、世界の人口増加はエネルギー問題にも深刻な問題を投げかけています。1830年の10億人から、1930年は倍の20億人。1980年には44億人、2003年には62億人。そして、今世紀半ばの世界人口は90億人以上に達すると予測されています。将来途上国が発展し、1人当たりのエネルギー消費量が先進国と並ぶようになったとき、世界のエネルギー消費量がどのくらいになるのか、考えるだけでも気が遠くなります。

現在、大気中への二酸化炭素(CO2)の放出は自然が吸収する量の2倍を超えているといわれています。化石燃料を燃やし続けた「つけ」は、北極海の氷の消滅や氷河崩落など、生態系にも深刻な影響を与え、石油・石炭に代わる代替エネルギーの開発はまさに、国際社会共通の喫急の課題となっているのです。

■日本にとって千載一隅のチャンス
現在日本の石油依存度は、前述の70%超から、46.5%(ちなみに石炭21.1、天然ガス14.9、原子力11.8、水力3.0、地熱0.1、新エネルギー等2.6各%:いずれもエネ庁2005年度速報値)とその比率を落としているものの、石油価格の上昇は投機の対象ともなりOPECのコントロールさえ不能にしかねない状況にあります。

1998 年末から1999 年初にかけて1バレル、10 ドルを割り込んでいた原油価格は、10年後の現在、1バレル150ドルにせまっています。世界中の投機資金は流入を続け、将来1バレル200ドルまで上昇するとさえいわれています。

石油価格高騰により、従来コスト高だったクリーンな代替エネルギー開発を加速させることができます。日本には、代替エネルギー開発では世界の最先端をいく技術があります。

まさに日本にとって千載一隅のチャンスがあるといえます。このチャンスを生かし、周到な戦略構築を行い、持てるリソースを統合的に投入することによって、将来とてつもない新エネルギー大国になることも夢ではありません。戦後日本の奇跡的な発展は、国民の意思が一丸となって一つの目的に向かって突き進んだからです。

これまで日本は数々の逆境を克服してきました。日本の公害技術や省エネ技術は世界一。GDP1人当たりの1次エネルギー供給におけるエネルギー効率は、日本を1.0とするとドイツは2.41、米国2.08、英国、フランスそれぞれ1.43、1.36とその省エネ率は極めて高い水準にあります(資源エネルギー庁エネルギー白書2006版)。

埋蔵資源に頼ることのない、クリーンな再生可能なエネルギーは最終的には太陽光、風力、バイオマス、水素エネルギーと絞り込まれてきます。多くの科学者は、この中でも将来最も有望なのが水素エネルギーだと考えています。

水素は水から電気分解して抽出する方法と、ガス(天然ガス、プロパンガスなど)からつくり出す方法があります。いずれもその生産において技術的には解決されているようです。酸素と化学反応してエネルギーを発生させる水素。私の関心は水素エネルギーの開発・実用化です。無尽蔵な海水から得る製法は大いに期待できるものです。

聖書に「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れねばならない」(ルカ5-38)とあるように、「新しいことを始める時には、新しい枠組み」が必要です。そして何事もそうですが、新しいことを行うにはパブリック・アクセプタンスが重要となります。国民の理解と受容なしに進めることは困難を極めます。それらを支援するのがパブリック・リレーションズ(PR)の役割でもあります。

以前このブログ(08年1月4日号「岐路に立つ世界」)でも、PRパーソンにできることがあることをお話ししました。あれからわずか6か月、情勢は悪化の一途をたどっています。私たちは、次の地球を生きる私たちの子孫のためになんとしても、2酸化炭素の元凶である化石燃料依存社会から脱却しなければなりません。いま日本には、コペルニクス的大転換が求められているのです。

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2008年06月07日

食糧危機の元凶

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

6月5日、世界的な食糧価格高騰の対応を協議する国連食糧農業機関(FAO)主催による「食糧サミット」がローマで閉幕しました。3日間にわたって約150か国の代表が参加したこのサミットでは、食糧価格高騰の主要因とされる輸出規制やバイオ燃料の開発、気候変動への対応などが協議されました。

世界40カ国以上の首脳に混じって日本からは福田首相が出席し、最終日に9項目からなる共同宣言を採択。朝日新聞(6月6日夕刊)によると、「焦点となっていたバイオ燃料の見直しは、『詳細な検討や、技術などに関する経験を交換することが望ましい』との表現にとどまった」とされ各国の思惑も異なり、会議がすんなりとはいかなかったことがうかがえます。

■ 輸入ストップで食卓は一汁一菜
先日、私の知人からこんな話を聞きました。それはNHKの「おはよう日本」(6月3日)の中の農水省まとめを引用したコメント。日本の食糧自給率は39%と40%を割り込んだようですが、もし海外からの輸入が一切ストップしたとすれば、私たちの毎日の食卓はほとんど一汁一菜で夕食に魚が一切れ添えられる程度で、なんとも質素なものになるという話でした。乳製品や肉類は数日に一度といった状態で、自称グルメ通のその知人は嘆いていました。

さて、世界の主要国の食糧自給率を見ると、なんといってもオーストラリアが237%で断然トップ。次いでカナダの145%、米国の128%、僅差でフランスが122%とここまでが自給率100%を越える国々で、第5番目となるのが、スペインの89%である(日本以外国についてはFAO 2003年“Food Balance Sheets”を基に農林水産省で試算)。この数字からも明白なように、近い将来、もし、深刻な食糧危機に陥った時、先進諸国で真っ先に打撃を受けるのは、日本ということになります。
日本の台所事情は劣悪で、現在の自給率を当面45%に高めようというのがこの国の施策で、なんともさびしい限りです。ちなみにここでいう食糧自給率とは、カロリーベース総合食糧自給率 のことで、国民1人1日当たりの国内生産カロリーを国民1人1日当たりの消費カロリーで除した数値のことです。

■ 元凶は地球温暖化と肉食
食糧危機の元凶は一体何なのでしょうか?根底にあるのは地球温暖化問題。そもそもバイオエネルギー開発のきっかけは、脱炭素社会への転換のために石油に代わるエネルギーとしてバイオ・エタノールが注目を浴びたことでした。

風が吹くと桶屋が儲かる話は以前このブログでも話しましたが、地球温暖化の原因は石油エネルギー問題。その解決のためにバイオ・エタノール開発へドライブがかかり、その結果、トウモロコシ、小麦など食料や飼料の需給のバランスが崩れます。一方では森林破壊が進み、炭素吸収能力の低下、温暖化などに誘発された異常気象により食料安定生産システムが崩壊などなど、まさに負のスパイラルに入っている状況があります。

加えて、人類の経済発展とグローバル化により、これまで地域の伝統的な食文化が欧米型の肉食生活に変化したことも問題を深刻にしています。

財団法人食品産業センターによると、1kgの牛肉を生産するのに必要な飼料は11kg、同重量の豚肉の生産には7kg、同じく鶏肉の生産には4kgの飼料が必要とされています(いずれもとうもろこし換算)。同様に、牛肉100グラムの生産に必要な水は2トン、豚肉は0.6トン、鶏肉0.4トン(2003年、東京大学生産技術研究所沖グループによる)。ちなみに山根式水耕栽培で、100グラムのトマト栽培に必要な水はわずか572ml(APJ調べ)。飼料だけではなく、水も環境資源として重要になっていることを考えると、肉食がその因果関係においていかに環境破壊をもたらすかが理解できます。

一般的に食糧には統合エネルギーがたくさん必要とされます。食べたら得るエネルギー(カロリー数)と異なり、牛肉の場合、統合エネルギーは、牛に食べさせるトウモロコシを耕作するトラクターの消費する石油エネルギーや牛を輸送し、屠殺後、肉を保存する冷蔵庫が消費する電力、そして料理に使うエネルギーなどの一切を指しています。

近年になって自動車や住宅用建材はもとより、食糧においても統合エネルギーは大いに増えています。地中海やアフリカでとれたマグロなど日本へ搬送する水産物や、南米、オーストラリアなど南半球から、北半球のヨーロッパやアメリカに運搬する新鮮な果物など経済性を追求する結果世界中いたるところで食料が輸送されています。

これらの問題の解決にはいろいろな施策が求められます。しかし問題解決のために、これらの施策が国民や消費者にとって分かりやすいものである必要があります。ここで私は3つの基本的な施策を提案したいと思います。

まず、食糧自給率を限りなく100%に近づけること。つまり作付面積を増やし企業でも農業生産に参入できるよう法改正を行い、地産地消への取り組みを真剣に考えることでしょう。そのためには私たち消費者が、少し高くても国産の農作物(安全性の高い)を買うことを考えねばなりません。

次いでなるべく肉食を控えることで、飼料が食糧に転換できる環境を作らなければなりません。メタボ人口が多い日本では格好のチャンスを捉えるべきでしょう。

3つ目は、国をあげて二酸化炭素規制を行うことが重要。明確な数値目標を掲げた取り組みが求められ、脱石油はまさにキーとなっています。代替エネルギーであるクリーン・エネルギーの開発を国家戦略として大規模に行う必要があります。

こうなってみると、生産・収穫された農産物は貴重品。何年か前に、牛乳が生産過剰に陥ったことで市場価格が下落したときに、酪農農家が価格維持のために牛乳を廃棄したり、キャベツなどの野菜生産者が過剰生産で生産物を廃棄処分をするなど社会的問題となっていましたが、このような対処は全く無駄。ODA予算で、チーズやドライキャベツなどにして保存し、日本の貧困者用、途上国の食糧危機や紛争・災害時のための緊急援助用に備蓄するなど、省庁の垣根を超えた統合的な政策が求められています。

そのために、広く生産者、消費者、行政、国際社会にメッセージを送らなければなりません。企業やPR会社のパブリック・リレーションズ(PR)の実務家にはこれらのことが強く求められているのです。

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2008年05月03日

衆院山口補欠選挙が語るもの

こんにちは井之上喬です。
皆さん、新緑が目にまぶしいゴールデン・ウイーク、いかがお過ごしですか?

4月27日に福田政権発足後初の国政選挙となった、衆院山口2区補欠選挙では、民主党の前衆院議員で社民党推薦の平岡秀夫氏が、自民党新人で公明党推薦の前内閣官房地域活性化統合事務局長山本繁太郎氏を得票率20%以上の差で勝利。ガソリン税や4月からスタートした、後期高齢者医療制度への不満が民主党勝利の大きな要因となったとされています。

■ 総力戦の果て
今回の選挙では与野党とも今後の国政の行方を占う重要な選挙と位置づけ、それぞれの党幹部を選挙区に送り込み、総力戦を展開しました。自民、民主の代表も現地入りし、自民党福田総裁は、選挙の人気取りだけでガソリン税の切り下げを主張する民主党を非難する一方、民主党小沢代表は、長期政権の弊害を指摘し、国民の生活に目を向けた政治の必要性を説くなど、加熱したものとなりました。

選挙期間中、地方の活性化を訴える自民党とガソリン税や後期高齢者医療制度の廃止を訴える民主党との闘いは拮抗していたかにみえましたが、終盤での後期高齢者医療制度の不備が次々にメディアで取り上げられ露呈。自民党の敗北は、お年寄りにしわ寄せする制度への批判が有権者の間で急速に高まった結果といえます。高齢者の支持が多い自民党にとっては今後の政局運営を左右する大きな痛手となりました。

後期高齢者医療制度の実体について、理解している人はほとんどいないと考えた方が自然です。この制度は、新しく制定された高齢者医療確保法に基づく後期高齢者医療制度として、小泉政権時代の2006年6月に立法化されたもので、その施行が2008年4月1日から始まったものです。国会での批准後、制度の国民への周知徹底のための時間的猶予は2年近くあったはずでした。

■ 果たされない説明責任
田原総一郎さんは、BPnet mail 05/02朝刊の「なぜ自民は山口で惨敗したのか」の中で、後期高齢者医療制度の問題について、制度自体の良し悪し以前の問題として、この制度についての与党の説明責任の欠如が一番の問題であることを指摘しています。

そして、「本当にこの後期高齢者医療制度について書かれた自民党の説明書や厚生労働省の説明書などを読んでも、何を言わんとしているのか、何のためにやるのか、さっぱり分からなかった。何でこんなに分かりにくいのか。」と疑問を投げかけ、元大蔵官僚の榊原英資さんの現役時代の話を披露し、「『官僚の書く文章は、暗号だ。国民にはさっぱり分からないように書くのが官僚の文章なのだ。だいたい官僚の書くものは国民に理解されては困るものが大半なのだが、その中でも特に理解されて困るものは徹底的に分かりにくく書く。官僚仲間にだけわかる暗証番号がないと、その暗号は解けないのだ』。つまり、わざと分かりにくく書いてあるから分からないというのだ。」と官僚の作成する文章が説明責任を果たすことからほど遠いことを批判しています。

私も2001年に日本でのBSE問題に関わったことがあります。農水省のプレス向け資料を手にした時は、文章のあまりの難解さに愕然としたことがありました。当時の広報手法や広報体制についての問題点を指摘したことがありましたが、真の答えは田原さんの記事にある榊原さんの話のなかにあったのでしょうか。当時とはいえ、官僚が本当にそのような意識で行政に関わっているとしたらおぞましい限りです。こんな話はパブリック・リレーションズ以前の問題ですが、いずれにせよ日本の公的機関のシビル・サーバントとしての心構えや志が希薄なのには憂うべきものがあるといわざるを得ません。

山口の補選では、制度の適用を受ける多くの有権者が知らされないまま制度の発効を迎え、自らに降りかかって初めてことの重大さに声を上げ、投票行動に出たということになります。政権与党、自民党の敗北は、制度そのものに対する不満と共に、行政を把握できず、結果として説明責任を果たさなかったことへの有権者からの厳しい判定とみることができます。自らが掘った墓穴に落ち、民主党を利することになったのです。

そんな中で、ガソリン税の暫定税率を復活させる税制関連法案を与党が4月30日に衆院で再可決しました。

それにしてもこのところの政治は行なうことがチグハグして迷走状態。福田政権への支持率も20%を切りました。各種世論調査では、「衆議院を解散し、総選挙により民意を問うべき」とする声が高まっています。

パブリック・リレーションズは、明確な目標設定を行い、個人や組織体、国民や国家、地域や世界をよりよい方向へ導いていくための、関係構築(リレーションズ)活動です。混迷にあるときにこそ、倫理観双方向性コミュニケーション自己修正機能を持つパブリック・リレーションズが求められているのです。

5月3日は憲法記念日。国民の政治への関心は一段と高まっています。

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2008年03月29日

ジャーナリストと社会
 ~ジャーナリズムが危ない

皆さんこんにちわ。いかがお過ごしですか?
毎年この時期は、学生達は卒業式、社会人は年度末であわただしい毎日を送っていることと思います。今日のテーマはジャーナリストと社会です。

ジャーナリストは社会にどう向き合えばいいのか。今、ジャーナリストのあり方が問われています。私は仕事柄よくジャーナリストのかたがたとお会いします。業界紙、雑誌や新聞社に所属するメディア・ジャーナリストからフリーランス・ジャーナリストで活躍する方まで、ジャーナリストにも立場や思想・信条はいろいろあります。

■ 発表ジャーナリズムの限界
日本新聞協会研究所で発行されている『いま新聞を考える』(1995)によれば、マスメディアを通して伝えられるニュース報道は、4つに分類されます。

1つ目は、「ストレート・ニュースあるいはスポット・ニュース」。記者の主観を入れない客観報道で、5W1Hを基本に事実をありのままに伝えることが重要となります。

2つ目は、「調査報道」。取材者の問題意識に基づいた視点で隠れた事実を掘り起こして報道するもの。 このスタイルでは記者個人の主観により切り口や主張点が決まります。したがって記者の姿勢が公正、誠実であることが報道に信頼性を与える鍵となります。

3つ目は、「キャンペーン報道」。暴力追放や公害防止など読者に広く受け入れられる目標を掲げその目標に沿う報道を意図的に続ける手法。そして4つ目は、「論評や解説を中心とする報道」です。

日本のメディア環境における大きな特色は、記者クラブ制度。日本のニュース・メディアはその数全国で100を超える記者クラブ発の情報に多くを依存。流される情報は前項で述べた、ストレート・ニュースで客観報道。これは「発表ジャーナリズム」とも呼ばれ、その結果、新聞紙面が他紙と同じような内容になりがちとなります。

日本はこの記者クラブ制度のために調査報道が少なく、事実を掘り起こして真実を追究する記事の割合が欧米対比で圧倒的に低いのが特徴といえます。また日常の取材活動に過度に追われ、発表ジャーナリズムの限界をみます。

■ ジャーナリストに責任を持つ
ジャーナリスト本来の役割は、社会に対し、今考えるべき問題を提示すること。そして疑問点を整理し、隠れた問題点を掘り起こし、真実をわかりやすく照らし出すことです。

その結果、反発を招くこともあります。記事を書いた企業から、広告出稿の不当な規制を受けたり、訴訟されることもあります。その場合にも真摯に立ち向かうこと。つまり批判に対しても恐れず、透明性のある正確な情報により十分な説明を行なっていくことが大切です。

批判的な記事の当事者が、スポンサー企業だからといって、その企業に不利益となる記事は書かない。ジャーナリズムにこのような行為は禁じ手ともいえます。

常にリスクが伴うジャーナリスト。リスクに向き合う強さを支えるのは、高い志とともにジャーナリスト精神ともいえる「公正・公明に、真実を報道する」強い使命感。

それゆえ、私達パブリック・リレーションズの実務家はメディアへ提供する情報に責任を持たねばなりません。ジャーナリストの社会に対して負う責任は大きいからです。私たちの役割は彼らに正確で透明性のある情報を提供することなのです。

ジャーナリストは、いわばオーディエンスに報道することで健全な民主主義を守る「防人」といえます。一方、PRパーソンは情報提供側に位置します。一線で働くジャーナリストとの良好な関係性を通し、倫理に外れることのない自由で闊達な対話ができる環境を醸成・維持する責任を持っています。時としてクライアントへの辛口のアドバイスも必要とされるかもしれません。

いま、メディアに携わる人に求められているのは、真実を社会に照らし出すこと。健全な民主主義を持続的に守る情熱と報道姿勢だといえます。

高校(都立立川高校)時代のクラスメート、田勢康弘君(早稲田大学院教授、日経新聞客員コラムニスト)の著わした『ジャーナリストの作法』(日本経済新聞社)の中に次のような一節があります。

「いかなる権力も必ず腐敗することは歴史が証明している。権力を監視し、不正を暴き、政治や社会の透明性を確保する。それができるのはジャーナリズムである。とくに、司法が健全に機能していない場合には、ジャーナリズムだけしか権力を告発するものはない。」(p.250)

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2008年03月01日

イージス艦衝突事故
 ~パブリック・リレーションズ不在の不祥事、再び

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

千葉県・野島崎沖で起きた海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故。事故発生から8日後の2月27日、ようやくあたごの艦長が行方不明の父子の自宅を訪れ謝罪しました。

民間人が巻き込まれた今回の事故。自衛隊による謝罪までの時間は、あまりにも長すぎました。これは一般の国民には理解できない対応。しかしこの対応こそが今回の事故を象徴しているともいえます。

■ 許されぬミスの連鎖
これまでの調べで今回の衝突事故は、「あたご」による不十分な監視や連絡ミスなど、漁船を把握しながら状況に適切に対応しなかったため起きた人為的事故であることが明らかになってきました。

防衛省や自衛隊は国の安全を担うべきプロとして情報を迅速かつ的確に取り扱うべき組織。にもかかわらず防衛省・自衛隊の対応は表面的にみて、情報収集において緩慢、情報開示においては消極的。度重なる内部でのミスや対応の遅れが問題を巨大化させており、彼らの危機管理意識や能力に疑念を持たざるを得ない状況です。

乗組員による漁船の視認が2分でなく12分前であった事実や海上保安庁の事情聴取前に、石破茂防衛相を含む防衛省・自衛隊首脳が大臣室で航海長から聴取事情を行っていた事実など、発表が後手後手の状態。情報開示の遅れ。これらの不手際な対応を見ていると、防衛省・自衛隊が国民の方を向いて組織運営を行なっていないことの証しともいえます。ここにパブリック・リレーションズの不在が見て取れます。

もし防衛省・自衛隊に、目的達成のための対象となるパブリック(国民、漁民、地元民、あたごの乗組員、海上保安庁など)の視点があれば、情報を共有して事故を未然に防ぐことを可能にしたかもしれません。不幸に起こったとしても事故発生直後からの迅速な事実の究明、情報開示、謝罪など、素早い危機管理対応が可能となり、事故再発防止に向けた組織への信頼回復も高まっていったはずです。

しかし連日メディアの報道から垣間見られるのは、防衛省・自衛隊の情報収集能力や国民に対する情報開示能力の貧困。機密情報を取り扱う能力さえ疑われるほどのお粗末な対応ばかりです。そこには自己修正の片鱗も見えません。

■ 情報隠蔽は自滅の始まり
軍艦としてのイージス艦の性能など防衛省や自衛隊に機密事項が存在することは国民にも理解できること。しかし明らかにされるべき基本的な事項が知らされていないために、国民の不信感は募るばかりです。つまり、「いつ」、「どこで」、「誰が」、「何を」の5W1Hの極めて基本的な情報が国民へ知らされていないのです。

前にも述べているように、今回のケースではおかしなことに、事故発生日で行方不明者捜索の真っ只中、海上保安庁への事前連絡もなしに、あたごからヘリコプターで防衛相へ直接報告があったとされていることです。この事実もごく最近明るみにされました。組織ぐるみの隠蔽と疑われる行動を自らとっていることになります。

自衛隊存在の目的は、日本の平和と独立を守り、国民の生命と財産を守ること。今回の一連の自衛隊の行動で残念なことは、その目的が組織防衛となっている印象を内外に与えてしまったということです。組織内の広報がまったく機能していない証左となってしまいました。

どのような組織体にも当てはまることですが、インターネット時代では、何かの事故が起きた場合、事故後の対応において隠せるものは何もないということです。これを怠った場合、かえってパブリックの信用を失ってしまいます。特に防衛省にあっては、今回のような迷走によって国民は勿論のこと、国際社会までが日本の防衛に不信感を持ち、ひいては国家の安全を危険にさらすような事態に繋がらないとも限らないということです。

今回の事件は、パブリック=相手の視点を持たないために倫理観双方向のコミュニケーション自己修正機能がことごとく欠落したために起きた典型的な不祥事。このケースは、パブリックの視点の欠如がもたらすリスクの大きさを改めて私たちに教えています。

情報流通が多様性を極める21世紀においてパブリックの目は世界中に張り巡らされ、組織体に逃げ場はありません。最低限の情報開示もタイムリーにできない組織は、結果的に自滅への道を歩むほかありません。

一日も早く二人の行方不明者が発見され、海上保安庁などによる事故の原因究明と迅速な再発防止策が講じられることを願うばかりです。


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2008年02月22日

今、子供が危ない。
 ~人間らしく生きるための教育とは


今、中学進学競争が過熱しています。2月初旬、私は受験に向かう小学生を連れた親子連れをたくさん見かけました。人生の楽しさを全身で味わうべき子供たちがどうして受験という機械的な選別の枠組みの中に巻き込まれてしまうのか。私は彼らの姿を見て、この社会に異常事態が起きているとしか考えざるを得ませんでした。

■ 聞こえてくる子供達の叫び
私立や公立の中高一貫校が出現した現在、中学受験の2007年志願者数は首都圏(1都3県)を例にとると約5万2,000人で受験率は17%と推計されています(四谷大塚進学教室調べ)。それに伴い受験準備のため塾に通う小学生の割合は41.3%(2004年度文部科学省調査)。こちらも年々増加傾向にあり、受験の加熱度がはっきりと伺え、分別のまだつかない子供達の心の叫びが聞こえてくるようです。

またこの数字は、良い学歴=一生安泰という図式は壊れつつあるものの、従来の詰め込み知識重視の学力観により学歴で他を制した者が人生を制するといった感覚が未だ日本社会に深く根を下ろしていることを示唆してもいます。

このような社会で鍛えられるのは、受験に必要な画一的な能力。つまり問題を制限時間以内に処理し、用意された答えを導き出す能力です。こうした訓練の繰り返しは、複数の解決法が適応できる生活上の問題においても絶対的な答えを1つだけ捜し求める傾向を強め、子供の多様性を奪ってしまう危険性があります。答えの用意されていない課題にどう対処するかといった問題解決能力は育たなくなります。

初等教育を受ける6歳から12歳までは、第2次成長期を迎える前で、自我が確立していない大切な時期。その子供たちが学ぶべきことは、人間として生きるための基礎的能力、人間力です。健康な体力はもとより、日々の生活の中で出会う問題を解決しながら生きていく力に他なりません。

では、どうすべきか。それには、地球の成り立ちや営みを子ども自身が見て触って5感で感じて考えられる機会を与えること。理科や算数、社会といった基礎知識を頭に入れる学習とともに、身体を動かしながら知識を実践に応用する機会を提供すること。頭と身体のコミュニケーションを双方向にする教育に重点を置くことではじめて、健全な精神を育む全人的な学習が可能になると考えます。

■ パブリックと私
また、人間力とは、周囲(パブリック)との関わりの中で自分の道を切り開いて生きていく力でもあります。人間は一人では生きられません。人は関係性の中で生かされており、人生は外界とのリレーションズ活動によって成り立っています。

その力を磨くには子供たちに豊かな関わりを持たせること。子供は、多様な他者との関わる体験を通して、友人と私、学校と私といったさまざまなパブリックと私の関係を感じるようになります。そこから対話や相互理解の大切さ、思いやり、倫理観など公私の精神も育っていきます。それをサポートするのが親や学校、そして地域社会。

私は小学校時代、6度も転校を繰り返しました。新しい環境へすばやく適応するには、子供たちや先生たちと積極的にコミュニケーションし、互いに受け入れあうことが大切であることを無意識に感じ取り、自然に実践していました。

また私の育った家庭は7人兄弟。6番目の子供である私は、自分より大きい兄弟たちとの関わりの中で社会の成り立ちや助け合う素晴らしさを学びました。自分の過去を振り返ってみると、多様な人々の関わりによる情操教育の重要性が再認識できます。

「第三の波」や「パワーシフト」の著者である未来学者、アルビン・トフラーはNHKのインタビュー(2006年)の中で日本の教育制度について、「現在の教育制度は、将来子供たちに必要とされる創造的能力の育成を阻んでいる」と述べています。

人が世界中を闊歩し、どこからでも情報を発信し受信できる時代に必要なのは自分の個性です。個性尊重の時代において学校は全てではありません。自分の道をもって生きることこそ、その人の人生を輝かせるのではないでしょうか。

世界が急激に変化し混沌とする中で、それぞれが与えられた天賦の個性をどう磨いていくのか。これは私たち大人に課せられた大きな課題です。私たちにできる第一歩は、自らが、多様な関係性を通して感性豊かな強い個を実践することかもしれません。


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2008年02月15日

岐路に立つ米国 ― オバマの大統領選

「リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、あるのはアメリカ合衆国だ。 黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただアメリカ合衆国があるだけだ…」

米大統領選の民主党の候補指名争いで快進撃を続けるバラック・オバマ氏。私は、ちょうど1年前の昨年2月、オバマ氏が初めて米国大統領選へ出馬表明をした時、ワシントンに滞在中でした。彼が一点を見つめ“…We are all Americans(みな同じアメリカ人なのだ)”と熱く聴衆に語りかける姿に、深い感動と衝撃をうけたのを今でも覚えています。

■ 多様性を秘めた異色の政治家
冒頭のスピーチ内容は、オバマ氏が2004年米国大統領選の折、民主党全国大会においてジョン・ケリー上院議員支援の場で披露されたもの。この夜、壇上でのオバマ氏は故ケネディ元米大統領(JFK)を彷佛とさせる優雅で説得力のあるスピーチで全米を一気に魅了しました。

人種や党派を超えて全米の人々を惹きつけるのは、その生い立ちと関係があります。オバマ氏は1961年ハワイ生まれ。ケニア出身の父親とスウェーデン系アメリカ人の母親を持ち、多感な時期を多様社会ハワイで過ごし、再婚した母と共にインドネシアに在住の経験もあります。

オバマ氏は東部のコロンビア大学卒業後、シカゴでNPO勤務を経てハーバード大学ロースクールに入学。アフリカ系として初の「Harvard Law Review」の編集長を務めました。その後、弁護士として活躍する傍ら貧困層を支援する社会活動に従事。

バランスの取れた思考力とパワフルな行動力で人権派弁護士として頭角を現し、36歳でイリノイ州議会議員に選出。43才初出場で対立候補を得票率70%対27%の大差で破りイリノイ州選出の上院議員に当選。

オバマ氏は多様な文化のせめぎ合いで壊れ行くアメリカ社会の底辺を見つめてきた人。その彼が、もう一度アメリカを理想的な民主主義国家へ再生させたいと考えるのは自然なこと。その思いを乗せた冒頭のスピーチは国民の心を目覚めさせ、アメリカをひとつにしたといえます。

■ スピーチライターはJFKの元側近 
オバマ氏は多民族国家アメリカを象徴する存在として人々の心をとらえるだけでなく、彼にはコミュニケーターとしての天性の力があります。誇りに満ちた外見と誠実さ溢れる声。自分の考えを押し付けるのではなく、聴衆の視点に立ち民衆にメッセージが伝わる言葉選び。

彼の演説は素晴らしく、その勇姿は故ケネディ元米大統領(JFK)の再来ともいわれています。そしてなんと彼のスピーチライターは、ケネディ政権の大統領特別顧問でケネディのスピーチライターを務めた今年80歳のテッド・ソレンセン氏。JFKの大統領就任演説を思わせる、明快に人々の心に訴えるスピーチの裏には、彼の存在があったのです。

先の5日に行なわれた予備選、スーパーチューズデー直前にJFKの弟エドワード・ケネディ上院議員やJFKの娘カロライン・ケネディがオバマ支持を表明したのもうなずけます。

政策面では、これまで放置されてきた年金制度や医療制度などの国内の諸問題に積極的に取り組み、外交的には、一貫してイラク戦争からの米軍撤退を掲げると共に国際的な核兵器禁止に向けて他国と協働する姿勢を貫いています。

その他には石油の依存度を低減させる環境問題にも真摯に取り組む意欲をみせており、軍事的な強さだけに頼らない、他者との協調による国づくりを行なう意向を明確に打ち出しています。オバマ氏のその堅実な、政策に取り組む控えめな姿勢は1968年大統領候補指名選キャンペーン中に銃弾に倒れたロバート・ケネディ(弟で司法長官)とも重ね合わせることができます。

混沌とする世界、インドや中国といった大国の台頭による世界秩序の大変化のなかで、地球はいま岐路に立っています。複数の大国が共生を迫られる時代に必要なのは緊張ではなく融和です。

オバマ氏はスーパーチューズデー後、勢いを増し、ヒラリー・クリントン上院議員を圧倒的な差で抑えワシントンDCを含む7州で連勝しています。代議員の獲得総数もオバマ氏1253人、クリントン氏1211人(CNNテレビ推計)と、オバマ氏が大幅に伸ばし、指名獲得に向けて大きく前進しています。

経済政策や外交政策など彼の実力は未知数ですが、彼が大統領に就任することでアメリカが変わることが期待されています。「傲慢なアメリカから謙遜で節度あるアメリカへ」。灯台の光のようなバラック・オバマ。彼の登場によりアメリカが世界に平和をもたらす新しい国家へと変容していくことを願うばかりです。

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2008年02月09日

21世紀の公務員誕生のために

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

グローバル化の波が押し寄せる昨今、民間は血のにじむような努力により日々革新を図っています。それに比べ行政は、改革が叫ばれるなか政治不在もあり、官僚組織のシステム改革が大幅に後れを取っているのが現状。各省縦割りの硬直化したシステムが天下り体質や政官癒着を生み、結果的には巨大な国費の乱費をもたらす構造的な問題を抱えた状況が続いています。

■ 動き出した公務員制度改革
1月31日、国家公務員制度の抜本改革に向けた福田首相の私的懇談会「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」による最終報告書が、首相へ提出されました。

東芝の岡村正会長を座長とする同懇談会の報告書は、堺屋太一元経済企画庁長官を中心にまとめられ、現状の縦割り行政からの脱却を促すと共に、政官癒着の防止を求めています。

具体的には、「内閣人事庁」創設とキャリアの半数を公募で充当するなどのキャリア制度の抜本的な見直し。管理職以上の人事権を内閣人事庁に一元化させるシステムの導入。首相による一般公募の次官級の専門職「国家戦略スタッフ」の任用などです。

国家公務員の採用・配置や官民交流を一元管理することは、省庁や官民の枠組みを超えた人材配置を促し、人材の流動性を活発化させます。また採用時から幹部候補を決める制度の廃止は、より多くの職員に幹部になる機会を付与できることから、職員のモチベーション向上につながると期待されています。

また、めまぐるしく移り変わる世界にあって、グローバルな視野を持った民間人の積極的な登用は多様性のある思考の共存を可能とし、現状に対応できる柔軟な発想で組織運営が実現できます。加えて国民に発する情報が統合されることで、国家の政策が国民へわかりやすく伝わり、国民に密着した行政の実現につながります。

私は、1980年代の日米通信・半導体摩擦、90年代の日米自動車部品問題に米国サイドのPRコンサルタントとして関わりました。例えばクリントン政権時代に起きた自動車部品問題では、車輌の保安基準などを定めた道路運送車輌法による規制(当時の運輸省管轄)と重量税に関する問題(当時の大蔵省管轄)が複雑に絡み合い国産メーカーを保護し、外国製品を阻害する仕組みがみごとに出来上がっていたのです。国民や消費者の利益を全く無視した、縦割り行政が省庁間の調整を困難なものにしていました。

今回の改革案は、通気性の良い柔軟で無駄のない組織の実現への大きな一歩となるものですが、具現化するには越えなければいけないハードルが多々あるように見受けます。

特に人事評価の問題。設置や運営においては人事のプロフェッショナルを積極的に採用することはもちろんですが、暗黙知のない第三者に公務員の業務評価は多難です。形式化させないためにも、行政がどれだけオープンに情報開示して官民協働を実現させていくかが重要となります。

また、国家戦略スタッフの導入も政が官を主導するシステム構築という意味合いがあるものの、逆に政治の力量が問われる場面にもなってきます。どのような基準でどんな人材を揃えるのかが重要な鍵を握ります。

■ ターゲットを常に意識する
民間にとってターゲットとは、顧客やマーケットなどを意味しますが、国家にとってのターゲットは国民であり納税者。つまり政府や行政は、国民のために何がベストかを常に考え、短期的、長期的な戦略立案を行ない実施することが求められます。

しかし、現在の行政と国民との間にはサービスを提供するための礎となる相互理解や相互理解のインフラとなる双方向性コミュニケーションの環境が実現しているとはいい難い状況です。

相互理解は、情報開示や国民の声を聞くことに積極的でオープンな環境が整ってはじめて得られます。21世紀の公務員にとって、決め細やかなサービスの実現にはオープン性と創造性が要求されます。こうした新しい公務員としての意識は、パブリック・リレーションズの意識そのものといえます。

私たちPRパーソンは、様々な形で行政と仕事をすることがあります。行政から制約が課せられるケースも多く、ともすれば役所のほうを向いて仕事をしがちになってしまうこともあります。

しかし、憲法が「国民を幸せにする」国家運営のための最高法規だとすれば、その思想を支える形で、公務員は公僕(シビル・サーバント)として国民納税者への利益に貢献すべく行動しなければなりません。それは、行政と協働するPRパーソンにも当てはまること。国民の視点に立って行動することが求められているのです。

公務員改革が叫ばれて実に長い年月が経っています。いまや制度改革は国民にとっても喫急の問題。政府は報告書に基づいて今国会に基本法案を提出し、5年以内に改革を実現していく予定ですが、今回の公務員制度改革が、公務員の意識変革に寄与し、近い将来、国民の手に届く行政が実現することを願っています。

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2008年01月04日

岐路に立つ世界

新年あけましておめでとうございます。

旧年中はお世話になりました。
本年もよろしくお願いいたします。

皆さんはお正月をどのように過ごされましたか?私は自宅でTVをみたり、友人に久しぶりに会ったり、ゆっくりした正月を過ごしました。

■ 壊れ行く地球
この数年、日本を始め世界中を襲う集中豪雨、ハリケーン、干ばつ、高温化、氷河崩落など異常気象が起きています。原因は二酸化炭素(CO2)など、温室効果ガスによるものとされ、その削減に向けて数々の国際会議で真剣に討議されています。特に、ブラジル、ロシア、インド、中国などBRICSでの開発の勢いは森林伐採、CO2排出に更なる勢いをつけています。

いま誰もが地球が危険な状態あることを知っています。地球が支えうる限界をすでに超えたとする学者もこの危機的状態に強い警鐘を鳴らしています。

朝日新聞の新年3日の社説には、「地球の温暖化は今、核兵器と同じように人類の脅威となっている….」と断じていますが、核は人間がコントロール可能。でも環境は恐らく一度壊れたら人間の手で回復できるのかどうか誰も予測できません。

異常気象で、東京に集中豪雨が襲い地盤が緩みきっているとき、関東大地震規模の震災が起きたことを想像するだけでぞーっとします。

人間は不思議です。痛さを感じ、初めて怖さを知るようです。地球温暖化問題が政治課題として国際社会で取り上げられたのは20年前の1988年、カナダのトロントで開かれた国際会議。当時は、将来環境破壊が起こることを誰もが頭では理解していましたが、有効な対策はとられませんでした。現実的なものとなったいま、これまで問題解決に消極的であった米国、カナダ、オーストラリア、そして日本までもが目の色を変え本気で対処しようとしています。

問題解決法はあるのでしょうか?多くの原因は石油化学依存から来ています。電気や動力の多くが石油エネルギーでまかなわれています。一刻も早く脱石油を目指さなければなりません。

そのための代替エネルギーの開発も急がれます。原油価格が1バレル100ドル時代にあって環境は熟しています。日本の省エネ技術のレベルは世界で最高水準。風力、太陽光、バイオガス、燃料電池、水素燃料、潮力発電などなど、地域や国、そして民間企業や自治体、大学を始めとする各種研究機関などが力をあわせて問題解決に当たれば、その成果を世界がエンジョイすることは夢ではありません。

ある意味で、逆境の中で日本の技術と知恵が発揮でき、世界を新しい科学技術でリードできるかもしれません。

■ PRパーソンにできること
さてこうした事態に、PRパーソンはどのような行動をとるべきなのでしょうか? 
企業の広報担当者やPR実務家は、自らの企業やクライアントに対し少しでもこれらの問題を解決しうる環境技術の有無についてチェックし、リスト化します。次いでそれらの技術・ノウハウが他社の技術と比べ、どのレベルにあるのか内外の知恵を駆使し分析します。

そしてその技術が本業の延長線上にあるのかどうかを知り、本業であれば社内での注意を喚起しドライブをかけます。眠っている技術であれば製品化への再検討を促し、現在顧客によって利用されているものであればそれらの技術・製品に光を当て内外にきめ細かくPRすることも重要です。

自社は全く関係がなければ、他社のこれらの新技術(新製品)を積極的に導入・利用し、企業の環境問題に対する真剣な取り組を内外に示すことも大切なことだと思います。

いま地球が壊れている。待ったなしの状態です。私達は環境問題を解決し、子孫のためにも地球を蘇らせ、再び青く美しい地球として後世に引き継いでいかなければなりません。

混沌とした時代、PR実務家の役割は今後ますます拡がることでしょう。
私達専門家には、自分たちの帰属する職場やクライアントに対して、世の中をより良い方向に持っていくための役割がきっとあるはずです。たとえ小さなことでも、その考え方が周りを刺激し大きなうねりを作り出すことができます。

もちろん、日々の業務を着実に遂行することは大切なことですが、そうした思いを常に意識し持ち続けることによって少しずつ車輪が動き出していくことに気づくはずです。

今年も皆さんと一緒にパブリック・リレーションズを考えていきたいと思います。

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2007年09月21日

次期首相に願うこと

突然の安倍晋三首相の辞意表明。これを受け9月23日、次期首相を選ぶ自民党総裁選が行われます。

安倍内閣は、教育基本法改正、国民投票法、米軍再編法、国家公務員法改正など重要な法案をいくつも通しながら、発足直後から社会保険庁の不祥事や政治とカネ問題、閣僚のスキャンダルや失言などが相次いで発覚。長期政権とも目された安倍政権は、今の日本政治を象徴するような問題に翻弄されるかのように1年足らずで幕を閉じようとしています。

■ 具体的メッセージの欠如
任期中、表面化した社保庁問題や相次ぐ大臣辞任など、不運に見舞われたこともありますが、政策面における最大の敗因は、内閣として国の将来像を具体的に示せなかったことにあったのではないかと考えています。内閣には、国民の利益に資する政策を国民に分かりやすく説明し実施する責務があります。しかし安倍内閣は昨年9月の発足以来「美しい国づくり」という大儀を掲げながら、その具体的な方策については明示できませんでした。

美しい国とはどのような国を指すのか? 国民にとって、家族にとって、地域にとって、そして若者やお年寄りにとって、どのような国が美しい国なのか、それぞれの視点で具体的に語られることはありませんでした。

加えて、理解が困難な「戦後レジームからの脱却」の提唱によって、公共の精神、伝統や文化の尊重など観念的なメッセージばかり上滑りし、多くの国民は安倍政権の目指す具体的な国づくりのイメージを抱くことも共有することもできませんでした。

国民へ明確なイメージを伝え、それらを具体的な政策に反映させる。広報担当補佐官が新任されたにもかかわらずパブリック・リレーションズが機能しなかったことは残念としか言いようがありません。

また危機管理体制の不備により、不祥事がダメージを拡大させたことも大きな痛手となりました。閣僚の不祥事発覚時、首相は即座にこれら関係閣僚を辞任させ心機一転を図るといった、素早い対応をとりませんでした。相次ぐ閣僚辞任でこれ以上の辞任者を出したくないとする思惑があったかもしれませんが、国民が安倍内閣にどんな政治を求めているのかを理解していれば、即断実行しか選択肢はなかったはずです。民間企業であれば、相次ぐ役員の不祥事への対応の遅れは、即座に不買運動、株価暴落につながり企業崩壊は明白。ここでもパブリック・リレーションズが機能していませんでした。

年金問題で国中がゆれる中、与党自民党は7月の参院選で、「国民の生活が第一」を掲げた民主党に大敗しました。

■ 国民を幸せにする政治を
9月15日に出揃った自民党総裁候補は福田康夫元官房長官と麻生太郎幹事長。福田氏は「自立と共生の社会」を掲げ、「若い人が希望を持ち、お年寄りが安心できる社会」にしたいと強調しました。一方麻生氏は、「活力ある高齢化社会」を真っ先に挙げました。

誰が次期首相に選出されるにせよ、一国のリーダーにはどのような場合においても、「国民を幸せにする」という国民の視点に立った政治が求められています。

その上で、経済的には、国際競争力のある国力を強化するための技術力育成や企業の直接投資、優秀な人材の確保など、市場における競争力を重視した経済政策を推進。外交的には、環境問題や持続可能な世界経済の実現など国際的な役割を積極的に果たし、日本の存在感を示す。それらを実現するために、教育面においても、強い個を発揮できる思考力のある有能な人材育成のため、初等教育から高等教育まで教育内容の抜本的な見直しも考えなくてはなりません。

選出される次のリーダーには、これら全ての要素を統合して鳥瞰し、細部に注意を払いながらも、時には大胆な決断をし「国民を幸せにする政治」を推し進めていかなければなりません。日本社会はいまきわめて不安定な状態にあるといえます。

そのためには、常に多様な国民の視点を持つこと。そして様々な分野において具体的なメッセージや方策について自らの言葉ではっきりと国民に説明する努力をすること。そして、対称性の双方向性コミュニケーションで国民との対話を深め、良好な関係を構築・維持していかなければなりません。国家運営においてもパブリック・リレーションズ的なアプローチと実践が求められているといえます。
  
データ上では「景気回復」とこれまでの改革の成果が強調されていますが、地方ではその実感は乏しく、地方経済は一層疲弊しているように見えます。経済格差の拡大や社会の高齢化を受け、病気になっても治療を受けられないお年寄りなど弱者の救済をどうするのか、問題は山積しています。

日本が抱える深刻な問題。そして急速に進展するグローバル化に対応し日本再生を図るには、改革の手綱を緩めるわけにはいきません。

国民、そして世界にどのようなメッセージを発信し具現化していくのか。この不安定な時代にあって、国家運営の最高責任者は、浮ついたポピュリズムに陥ることなく日本の国益に利する政策を明確に打ち出し実施していく、強力なリーダーシップが熱望されています。

大正・昭和にかけて「憲政の神様」と呼ばれ、真の民主政治と世界平和の実現にその一生を捧げた清廉潔白な政治家尾崎行雄は、議会の本質を示すものとして以下のような言葉を残しています。
「一般人民から選ばれた代表が一堂に会して会議を開くのは、何のためであるか。いうまでもなく、それらの代表が、どうすることが最大多数の最大幸福であるか、どうすれば国家の安全と繁栄が期せられるかという立場にたって、思う存分に意見をたたかわし、これを緊張した各代表が、何者にも縛られない完全に自由な良心を持って、議案の是非善悪を判断した結果、多数の賛成を得た意見を取り上げて、民意を政治に反映させるためである。」

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2007年07月27日

29日は参院選、まずは投票所へ行きましょう

2007年7月29日は参議院選挙の投票日。今回は12年に1度の「亥年(いどし)選挙」。参院選と地方統一選挙が同じ年に実施されます。7月22日現在での期日前投票は約400万票で、前回比53.58%増と出足は好調な様子。このまま推移すれば1000万票に届くのではとの見方もでています。投票率が下回れば、組織票が有利に働くといわれる選挙戦。今回の参院選で、日本の政治に変化を求めるには55%以上の投票率が必要といわれています。

■ 投票はより良い国づくりへの国民の責務
憲法学的にみれば、投票という行為は参政権の行使の一形態。 参政権は国民として国政に参加することが認められる権利です。

古代ギリシャでプラトンは、人間には理想国家を構築する力があるとし、また少なくともより良い国家を構築することができると示しています。

現代に解釈すれば、私たち(国民=有権者)は、投票行為を通して国民の代表を国政に送り、有権者はより良い社会の実現のために行動しなければならないのです。 私たちは、国政をつかさどる代表者を選出する選挙において、投票することでより良い国づくりへの責任と義務を負っているのです。つまり、投票することは国民としての責務。投票しないことは、社会の一員としての自らの責務を放棄することを意味します。

福田赳夫元首相(総理在職期間:1976‐78)は、日本国民のガバナビリィティ(被統治能力)の低さを嘆き、「政治家を生んでいるのは国民であり、政治のレベルは国民のレベルを投影している」といった主旨のことばを残しています。質の高い政治を確保するには国民の高い関心が不可欠。その関心度が端的に現れる数字が投票率です。

2005年に行われたドイツ連邦議会選挙における投票率は77.7%。今年6月のフランス国民議会(下院)選挙の投票率は約60%、今年4月に行われた大統領選挙の決選投票に至っては投票率85%以上を記録。このように成熟した国家では選挙民の意識の高さが見て取れます。

しかし日本における参院選での投票率は、過去10年間60%を超えたことはなく、低調なのが現状。国民の政治的無関心さを露呈しています。

■ 1票の重み、発言力を行使する
日本の政治状況をみると、不祥事が相次いで発覚。国民は政治に対して嫌悪感や無力感を抱いています。これらは最近の選挙における投票率低下の原因となっています。この結果、投票しないことで国民を顧みない政治家を議会に送る結果を生み出しているのも事実。

投票行動をとらない場合、私達はその結果に対しても責任を持たなければなりません。現行の政治に不満や要求があるならば、まずは投票に行くこと。自ら行動を起こすことが大切なのです。

たとえ理想の候補者がいない場合でも、次善の策をとり投票すること。ここで諦めてしまっては、そのつけは将来必ず自分自身そして子孫の生活に跳ね返ってきます。

また「1票では、何も変えられない」と考えるのも誤り。100万人の有権者のうち30万人の人が何かを変えようと投票行動をとれば、それは想像を超える大きな力となりうるのです。そのときは単なる100万票分の1票ではないということです。

これまでメディアは、国民が「政治」を自律的に理解し、判断できる材料を情報発信する立場にありながら、これまで投票を喚起するような報道を積極的に展開してきませんでした。しかし今回の選挙では、メディアも読者・視聴者に投票に行くよう積極的に呼びかけています。国民の政治への関心と参加性を高めるため、より深みのあるパブック・リレーションズの手法の導入が求められているといえます。

バブル経済崩壊後の10数年、民間ではコスト削減やリストラなど血のにじむような努力が重ねられて経営の効率化が図られてきました。しかし政界や公的機関の分野ではその努力が適切に払われているとはいい難い状況です。現在日本の債務残高は1000兆円を超えています。この国を未来につなぐために、何か行動を起こさなければなりません。

イギリスの思想家エドマンド・バークは、「変革の手段を持たない国家は、自己保存の手段も持たない」といっています。日本政治の変革の第一歩として、国民が市民としての責務を果たす。つまり、国民の一人ひとりが参政権という責務を自覚し、投票に行くことから始めるべきではないでしょうか。

投票日は7月29日。期日前投票(不在者投票)も以前に比べれば非常に簡易となりました。皆さん、投票所に足を運び、日本の未来のために一票を投じましょう。

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2006年01月27日

地震大国日本における耐震強度偽装問題が日本社会に提示するもの

こんにちは、井之上喬です。早いもので1月も最後の週になりました。

今週は、ライブドアの堀江前社長の逮捕劇から始まり、今朝のニュースのトップを飾った「東横イン」の偽装建築問題など、不祥事のニュースでメディアが埋め尽くされた週となりました。

どうしてこのような不祥事が際限なく噴出するのでしょうか。私にはこの状況が、例えていうならば、人間(とくにバックボーンのない)が内的変化を起こすときに見せる混乱や錯乱が、構造転換をはかる日本社会にも起きているように見えてなりません。

今日は、パブリック・リレーションズの視点で耐震強度偽装問題について考察し、「何が日本に欠けているのか?そして混沌とした日本社会に秩序をもたらす処方箋はあるのか?」皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

1995年1月17日、震度7の地震により6,434人もの尊い命を奪った阪神大震災の悲劇の教訓もむなしく日本を震撼させているこの偽装事件は、昨年11月に国土交通省が耐震強度偽装問題を公表したことで発覚しました。偽装工作は、建築物の構造設計専門家である姉歯秀次元一級建築士が、地震時の圧力を低く入力するなどの方法で構造計算書を偽造した98年にさかのぼります。

偽装隠蔽ルートは設計・施工から販売にいたるまで整えられており、民間の確認検査機関や地方自治体の安易なチェックシステムにより建築確認が出されていたようです。この結果、各地で耐震強度不足のマンション、ホテルが建設・販売されました。今年1月20日までに確認されている偽装物件は18都府県にわたり計95棟とされ、中には震度5弱で倒壊しかねないものもあるとされています。

この事件をとおして、近年日本で続出する様々な不祥事に共通する根本的問題点が浮かび上がってきます。それは、倫理観の不在、自己修正能力の欠如、相手視点の欠落からくる危機管理に対する甘さです。パブリック・リレーションズの生命ともいえるこれらの要素が日本社会で希薄なために、同じ過ちが繰り返されているのではないでしょうか。

本来、建築設計や建設・施工の仕事は、利用者の安全・生命を守る専門家として、自覚と責任を持って従事すべき職業です。しかも日本は世界有数の地震大国。耐震強度不足の建物は人の命を奪うことに直結しかねません。それを認識しながら目先の利益を優先し、問題さえ発覚しなければ不正も良しとする彼らの行動には、倫理観の片鱗も見ることができません。

問題発覚後も、関係者の情報開示に対する消極的な姿勢や度重なるその場しのぎの発言など、彼らはどの程度この問題の重大性を認識しているのでしょうか。また発覚後の関係者による一連の行動は、責任の所在を明らかにして問題解決に向き合うために必要な自己修正能力の欠落をも露呈させています。

それを象徴するのが1月17日に衆院で行われた証人喚問でした。建築主ヒューザーの小嶋進社長は「刑事訴追の恐れがある」として問題の核心部分について証言拒否を繰り返しました。証言した答弁でも問題をはぐらかすなど、自身の保身に終始し、自分の過ちを認めて全貌解明に協力する姿勢は見受けられません。

ひるがえって、この問題は行政側の危機管理の甘さをも露呈しています。このことは行政が国民(相手)の視点に立って行われていないことに起因していると考えています。パブリック・リレーションズの視点で考えると、情報発信者は同時に受容者にもなり、行政従事者は消費者や顧客でもあることが理解できます。相手の視点を持つことにより、節穴だらけの管理体制は容易に排除され、真の国民の求める安心して暮らせる住環境の実現が可能となるのです。

パブリック・リレーションズの視点で見るまでもなく、住宅のような専門的知識が要求される買い物の場合には、顧客が商品の欠陥、それも目に見えない構造的な欠陥を見いだすことは極めて困難といえます。他の自動車(事故を誘発する)や電気製品(感電や火災を誘発)と同様に、欠陥が原因での事故が災害をもたらす場合の製造者責任は極めて重大とみるのが自然です。

補償問題に関して、小嶋社長個人や会社の被害者への補償能力がほとんど期待できないなか、自治体、政府、検査機関が今後どのように対応すべきか国民が注視しています。

現在、耐震偽装や危険な建物の建設・販売に対する罰則は、建築基準法第99条に示される50万円以下の罰金のみです。罰則規定の甘さへの批判が強まり、国土交通省は1月14日、罰金の強化と最大「3年以下」を軸にした懲役刑導入の検討を発表しました。しかし地震大国日本において、住居は住人の生命を預かるものと考えれば、この種の違反には「殺人未遂罪」と、より厳しい罰則が適用されてもおかしくありません。抑止力として機能させるには、より厳しい罰が必要です。

この事件の真相はいまだ明らかになっていません。閉鎖に追い込まれたホテル。すでに解体工事が始まっている建物。そして倒壊の恐怖におびえながら将来の展望も見えず暮らす人々。まったく気の毒としか言いようがありません。被害者のためにも、そして今後同様の事件が繰り返されないためにも、国や行政は徹底的に真相を究明して責任の所在を明らかにし、早急に対応策を講じなければなりません。

先にも述べたとおり、今回の不祥事もパブリック・リレーションズの概念がことごとく欠落していたため起きてしまった事件であったといえます。パブリック・リレーションズの手法が日本社会に根付いていれば、業界活性化への試みが逆に手抜きの温床にならずに済んだのではないかと考えると非常に残念です。

再生後の日本の進むべき方向を明確なものとするには、社会において核となるバックボーンが不可欠となります。そのバックボーンとは倫理観にほかなりません。そして、どのような変化にもリアルタイムで対応できるパブリック・リレーションズこそ一連の不祥事の処方箋といえます。パブリック・リレーションズを日本社会に導入することにより、希望のある未来へ確実に近づけるのではないかと確信しています。

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2005年08月15日

終戦60年、世界の持続的安定と平和のために
 ~もしあの時パブリック・リレーションズを知っていたら

60年前の8月15日の今日、日本の降伏により第二次世界大戦が終結しました。広島、長崎への原子爆弾投下を受けての無条件降伏でした。

日本が引き起こした太平洋戦争は、周辺諸国に甚大な被害と悲しみを与えました。明治維新以降、欧米列強からの支配をのがれ、彼らに追いつこうとした結果がもたらした大戦の結末でした。

アジア周辺諸国では約2000万人、日本では310万人といわれる犠牲者(軍人も含まれる)の数(http://www.asahi-net.or.jp/~pb6m-ogr/ans074.htmhttp://www.parc-jp.org/oda_watch/kisochishiki/baisyo.html)は戦争が如何に悲惨で、非生産的かを物語っています。兵士は無論のこと一般市民に異常な体験を強いた戦争の狂気と、指導者(リーダー)の責任の重大性を考えずにはいられません。

戦後新しい国家として再生のスタートを切った日本は、1952年のサンフランシスコ講和条約発効によって、戦後賠償による過去の清算を行い、国際社会に復帰しました。

しかしながら戦後60年を経た今なお、韓国、中国を初めとするアジアの国々には日本に対する不信感や警戒心が根強く横たわっています。いったいこれらは何処から来るのでしょか?

これにはいくつかの理由があると思われますが、最も大きな理由はこれら周辺諸国へのしっかりしたパブリック・リレーションズが不足していたことにあるといえます。相互理解による友好関係の醸成は、パブリック・リレーションズの基本ともいえますが、その不在が近隣諸国との真の和解を阻んでいるのではないでしょうか。

日本国民に対しても同様で、大戦の歴史的総括をあいまいにしていることが、国民の歴史認識の浅さにつながっているといえないでしょうか。先の大戦は他国が自分の国に攻めてきた戦争でなく、自分(日本)が相手領土で起こした戦争であるという認識に立ち、あの大戦が如何に周辺諸国に惨禍をもたらしたか、考える環境や情報を十分に得ていたでしょうか。

正確で客観的な歴史認識を持たない私たち日本人が、被害者意識を持つ周辺諸国の人たちの、被害を受けたもののみが抱く心の傷に、相手側の立場に立って、思いを馳せてきたでしょうか。これらの国々との感情的対立の根底に、双方向性コミュニケーションの不在を見ることができます。

先週、私の所属する日本広報学会で日中関係をテーマにした国際シンポジウム(http://www.edogawa-u.ac.jp/~hamada/expo/)が開催されました。パネルディスカッションで、中国のパネリストが今後の日中関係でもっとも重要なことは「心」であるとアドバイスしたことに強い印象を持ちました。

私たちが常に忘れてはならないのは、我々は太平洋戦争の加害者であるということです。謝罪と反省の「心」をベースに、その気持ちを形にし、パブリック・リレーションズの活用をとおしてきちんと相手に伝えていくことで、真の和解が成立するのではないでしょうか。

一方パブリック・リレーションズ不足に起因しているのか、日本の戦後賠償やODAにしても、国家としてアジア諸国に対し多大な資金を投じていることは、今の日本の若年層にはもちろんのことアジア諸国民にもあまり知られていません。日本がどのように取り組んできたのか、ただ一方的な情報発信で終わるのではなく、相手国家のレベルから一般社会レベルまで、発信された内容がターゲットとする相手にどう受け止められているかを知るためのフィードバック作業が重要となります。

そのフィードバックをもとに修正を加え最適化した情報を発信すれば、「心」は着実に形となって伝わっていくのではないでしょうか。

また、毎年8月は人類史上初めて広島・長崎へ原子爆弾が投下された月でもあります。原爆の投下は避けて通れなかったのでしょうか?

ここで太平洋戦争のきっかけとなった真珠湾攻撃について、パブリック・リレーションズの視点で考えてみたいと思います。

太平洋戦争のきっかけを作ったのは、44年12月8日の真珠湾に対する奇襲攻撃でした。94年11月21日付の朝日新聞の朝刊一面には、「真珠湾攻撃に先立って米国への開戦通告の遅れたのは、当時の在米日本大使館の情勢認識の甘さと職務怠慢からだったとする報告書を敗戦直後の46年外務省がまとめていたことが、20日付で公表された外交文書で明らかになった、しかし関係者の明確な責任追及や処分は行われなかった」ことを大きくスクープしています。つまり在米日本大使館内部の開戦通告の遅れにより、結果として、国際法を無視した米国への宣戦布告なしの奇襲攻撃となったのです。

日本政府は米政府への開戦通告の遅れが内部的ミスであったことが発覚した時点で、直ちにその事実を国際社会に明らかにすべきでした。しかし、現実にはオープンされることなく、それまで、ためらっていた米国に格好な口実を与え、米国の第二次世界大戦への参戦を決定づけました。しかも、戦後50年以上にわたり、日本のイメージは「卑怯でずるい日本(Sneaky Jap)」として、その後の日米関係において数々の経済摩擦と絡み、米国民の対日不信感の奥底に深く刻まれていったのです。

パブリック・リレーションズの基本ともいえるオープン性が、このような国家イメージを傷つけかねない危機的状況のなかでもまったくみられません。第一次、第二次世界大戦で米国が、戦費調達や民主主義を守るためにとったパブリック・リレーションズ手法を考えると、双方のあまりの違いに、悲しささえ禁じえません。
 
いつの時代も戦争は悲惨なものです。米国による原爆投下の背景にはいろいろあるようですが、真珠湾奇襲を受け、国論が沸騰した米国が、「Sneaky Jap」のレッテルが貼られた日本に対し、自分たちと同じ価値観や文化をもった人間でないとして、原爆投下に踏み切ったことを誰が否定できるでしょうか?
 
多くの尊い命が一瞬にして失われた広島や3日後に落とされた長崎への原爆投下は、もし真珠湾の卑怯な攻撃の真実が国際社会にオープンに発せられていたなら、起こりえなかったことかも知れません。少なくとも長崎への投下は避けられたかもしれません。また、66都市に対する、原爆投下を含めた無差別爆撃で40万人を超える犠牲者をもたらした日本焦土作戦も、これほど凄まじい結果にはならなかったのではないかと思います。

このように日本が被った精神的、経済的損失、またその後の日本民族のイメージに与えたダメージの大きさは計り知れません。戦前の軍国主義の日本では「オープン」で「フェア」「スピーディ」なパブリック・リレーションズの基本姿勢が、存在すべくもなかったことかもしれません。しかし、将来、日本で同じような過ちが起きない保障はどこにもありません。だからパブリック・リレーションズに真剣に取り組む必要があると思うのです。
  
20世紀は激変の時代でした。今世紀に再びあのような戦争が起きればこの地球はどうなってしまうのでしょうか。いま私たちが生きている地球は、ひょっとすると後100年も持たないのではないか、ふと感じることがあります。

相手を理解し、違いを受け入れあうことができれば、世の中は確実に変わっていきます。争いのない世界を築くには、パブリック・リレーションズ力を身につけ、ひとり一人が考え、勇気を持って平和を訴え、行動していかなければならないと思うのです。


2005年8月15日 終戦記念日に

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2005年06月20日

日中関係をPRの視点で捉えてみる

小泉純一郎首相の靖国神社参拝をめぐって日中関係が急速に冷え込んできています。双方とも改善への糸口を模索していますが予断を許さない状態にあります。ことの発端は、小泉首相による参拝継続に関連する問題で、今年4月参拝の意向を示唆した国会答弁がきっかけとなり、それまで抑制されていた中国側の対応が一転して強硬路線に変わってきたことです。現体制下で、中国国内で起きた反日運動をどう捉えるか議論があるところですが、世論の感情的な高まりは表面的に収まっているようには見えるものの、一触即発といった見方をすることもできます。

パブリック・リレーションズ(PR)は最短距離で目的を達成するリレーションズ活動です。今日は、膠着状態にある両国の関係を打破するためにどうすべきかを、パブリック・リレーションズのベースとなる「倫理観」 「双方向性コミュニケーション」 「自己修正」の視点で考えてみたいと思います。


「倫理観」に支えられた行動を
両国にまたがる問題は、尖閣諸島の領有権問題、東シナ海のエネルギー開発問題などいろいろありますが、その根底にあるのは歴史認識の問題だと思います。

その意味では、4月22日ジャカルタで開催された、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)50周年記念首脳会議における小泉首相のスピーチは、1995年(戦後50年)の当時の村山富一首相談話に基づく歴史認識を改めて強調し、植民地支配と侵略によって多大な損害や苦痛を与えたアジアの周辺諸国に、「痛切な反省と心からのおわび」を公式に表明し、日本が今後も「平和国家」として歩んでいく姿勢を強調しました。

戦後生まれが大多数を占める日本社会がよく理解しておくべきことは1930、1940年代に多くのアジア諸国を巻き込んだ戦争は、その舞台(戦場)が日本国内ではなく相手国内であったということです。善悪の基準を表す「倫理観」に照らし合わせてみれば、先の第二次大戦は、誤った戦争であったとの認識を持つことが極めて健全です。そうであれば、フォルカー・フルート弘前大助教授の「一歩踏み出すのは加害者から」(2005年6月18日朝日新聞朝刊17面)という言葉どおり、日本側から歩み寄りの姿勢を示すことが和解の第一歩になると考えます。

一方中国には、その体制の特異性ゆえ、民主主義社会に住む私たちにとっては理解できない事柄が多く存在しているのも否めません。倫理観の視点で捉えた場合、中国側のこれまでの行き過ぎた反日教育に問題が無かったと考えることには無理があります。中国政府はこれまで、どのくらい、戦後の日本の歩みを自国民に伝えてきたのでしょうか。つまり、日本が戦争を放棄し、平和憲法の下でその道を歩み、中国をも含めた途上国へのODA援助をたゆまず行ってきことを伝えてきたのかどうか、多くの日本人にとっては不透明に感じる部分も少なくありません。中国には、あくまでも事実に基づいた歴史教育の実施が求められているのです。

同じように、日本の中等教育における近現代史(明治維新以降)の不十分な学習上の問題は、21世紀を生きる日本人にとって憂慮されるべき問題です。アジアの世紀といわれる時代を生きぬく子供たちにとって、自国の歴史についての理解は尊敬される国際人としての要件であり、とりわけ周辺諸国と関わりのある近現代史への正しい歴史認識は極めて重要とされるからです。


「双方向性コミュニケーション」を通して両国のリレーションズづくりに努める
日本と中国の関係を修復し、友好関係を維持する目的を達成するには、双方向性コミュニケーションつまり相互の交流・対話を、リレーションズ活動として、政府間レベルはもちろんのこと、ビジネス、民間、草の根など、あらゆるレベルで活発に行われなければなりません。中国の特異性を考えたときには極めて必要になってくると考えます。

中でも客観的な視点を持つ学者の交流は非常に重要です。学者の目線で、歴史に関する事実を調査・検証し、その上で、双方が事実に基づいた歴史をしっかりと受け入れ、そこから互いに何が必要で、何ができるのかを見据えて対話を進めていくことに大きな意義があるのだと思います。

日韓問題を例にとると、小泉首相が2001年訪韓し金大中大統領と首脳会談した際、歴史教科書問題の日韓共同研究について合意しました。翌年5月、日韓歴史共同研究委員会(日韓各11人の研究者で構成)が発足し、今月10日、第一期の報告書が公表されました。歴史認識をめぐる見解は割れたものの、共同作業は、「双方の違いと共通点を確認し」溝を埋める第一歩になったと、その成果が大きく評価されています。インターネット上で報告書を公開し、日韓両国民ひとり一人が研究成果に直接アクセスできるように考慮されています。

日中間には、2000年以上にわたる交流を通して、漢字文化や仏教、儒教思想など多くの共通の文化が存在します。近年では、ポップ・カルチャーなど民間レベルでの文化交流も活発に行われています。特にここ数年の日本企業の中国進出は目覚しく、進出企業数は2003年12月時点で18,136社(中国対外経済統計年鑑2004年版)を数えていますが、政府の明確な対中政策を基盤としたリーダー・シップなしには、多様なレベルでの交流や対話を両国の友好関係に十分に活かすことはできません。被害を受けた側の苦しみや悲しみに思いを馳せ、つまり相手の視点に立ち、過去に対する態度と決別し、和解に向けたビィジョンに基づく一貫したメッセージを積極的かつ継続的に打ち出していくことが求められていると思います。

「自己修正」
1985年、終戦記念日に公式参拝した中曽根首相(当時)が、国内世論や野党からの批判だけでなく、中国からの非難を受けて、翌年の86年に「公式参拝は行わない」との政府発表を行いました。国内外からの批判をフィードバックとして捉え、「国益」を優先し、中国をはじめとした近隣諸国への気遣いを表すことにより修正を加えたとみることができます。端的に言い表すならば、日本の繁栄と国民の幸福のために、国益を守ることを目的とする一国の宰相として、その遂行のために必要な決断をしたといえます。

2001年、小泉首相は首相就任前の自民党総裁選で、日本遺族会に対し首相になれば靖国神社を参拝する意向を示し、その後の「公約」にしてきましたが、今回の問題を巨視的に捉えるならば、遺族会に対する「義」を取るのか、アジア全体の平和と繁栄を考えた上での「国益」を取るのか、GDP世界第二位の日本国最高責任者として、とるべき行動は自ずと見えてくるのではないでしょうか。


今回の問題はある意味で、PRの実務家にとって専門家としてのとるべき行動がどのようなものであるかを考えるいい機会であったと思います。

この問題における相手国側の過剰ともいえる反応は、基本的なところでの相互信頼関係が未だ構築されていないことを露呈しています。何故相手国がこのような強い疑心を持っているのか、その大半は、PR不足からきていると見ることができます。私たちは、戦後、どのくらい日本が変わったのか自らPRしてきたのでしょうか、相手の国民は現在の日本について殆ど情報を持っていなかったと考えたほうが自然かもしれません。勿論、体制の異なる国への広報活動には難しい問題が横たわっていますが、互いを知らないまま、不信感だけで相手となじり合うことほど不幸なことはありません。

企業体が行うパブリック・リレーションズの場合は、ひとつの情報発信者(企業体:本社、事業部)が複数のターゲットに対して様々なリレーションズ活動を行います。一方、国家間で行うリレーションズ活動は、時として政府間交渉に止まらず、民間やNPO、草の根個人など、幅広い複数の情報発信者が複数のターゲットに対し行動をとり、向かうべき流れを明確にし全体を加速させます。近年、中国、韓国の10代の若者層に親日家が増えてきていることを見ても、国家間のリレーションズ活動においても文化的(ソフトパワー)交流が如何に重要かを示しています。

昨年中国(香港を含む)は、日本の対外貿易相手国として始めて米国を抜き第一位になりました。21世紀の日中関係が相互依存型で不可欠の存在になっていることを再確認させてくれたといえます。だからこそ、日中間の交流を妨げる要因があれば、双方が叡智を結集して問題解決に向かって協動することが大切なのではないでしょうか。

国内に多くの問題を抱えた中国が、価値観の異なる国であることを十分にわきまえて対話を進めなければなりません。

時として、反省や謝罪にはそれに見合った行動が求められます。首相の靖国参拝問題は私たちに、日本が他のアジア諸国と今後どのように関わっていくべきか、より明確で戦略的な国家ビィジョンの策定の必要性を提示しているといえます。

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2005年05月23日

JR電車脱線事故をPRの視点で捉えてみる。

あさって、5月25日、兵庫県尼崎市のJR宝塚線(福知山線)の電車脱線事故から、ちょうど1ヶ月を迎えます。人的ミスによる事故で、107名もの尊い命が奪われました。

事故の主因は、速度超過と考えられていますが、その経緯をたどってみると、日本で多発する一連の不祥事の中に浮かび上がる、一つのパターンが見えてきます。そこに共通しているのは、「倫理観」「双方向性コミュニケーション」そして「自己修正機能」といったPRのベースとなる3つの要素の不在にあります。

倫理観の欠如
新聞報道によると、JR西日本の大阪支社長は、今年度4月初めに、収益性を最優先に掲げ、安全輸送を第2の目標に置く文書を全社員に送っていたといいます。私鉄との激しい競争の中、収益性を意識するあまり、高速化や超過密ダイヤなど、JR西日本は、輸送力の拡大に固執してきました。その結果、安全対策がおろそかになり、このような大惨事を引き起こしたといえます。脱線電車に乗り合わせた運転士が救済活動せずに現場を立ち去ったり、事故発生当日に社員が宴会を開くなど、厳しい見方をすれば、倫理観の片鱗も窺うことができません。

双方向性コミュニケーションの欠落
一般的に、顧客からのフィードバックには2種類あり、顧客が声を上げて要請してくるものと、サービス提供者側が、顧客の要望を察知し、吸い上げるものとがあります。

今回の事故の場合、JR西日本は財務経営にはしりすぎ、安全第一という、お客様の基本的で真の要望を認識できませんでした。その認識の甘さが、ずさんな危機管理につながったのでしょう。新型自動列車停止装置(ATS)の導入や脱線防止ガードの設置に積極的でなかったことからも、安全管理に対する不備は明らかです。

また、社内のコミュニケーションも双方向とは言いがたい状況です。全て一方向のトップダウン形式で、トラブルが起きれば、その原因追求よりも個人責任を追及する企業体質が明らかになりつつありますが、そのような環境の中、社員一人ひとりが自己防衛に走り、利用者の視点を見失ってしまったのではないでしょうか。常に過度のプレッシャーが与えられている状態で、危機発生時の適切な自己判断や自己決定ができるはずもありません。

自己修正機能の欠如
1991年5月に起きた信楽高原鉄道事故や国土交通省からのオーバーランに関する勧告など、過去に自己修正する機会は何度かありました。しかし、報道内容を見る限り、JR西日本は、そのチャンスを見過ごしてきました。これは、明らかに自己修正の欠如といえます。経営サイドとは別に、現場でも車掌と運転士の口あわせで、オーバーランの距離を虚偽報告するなど、個人責任の追及を逃れるために、ミスやトラブルの隠蔽が日常化していたという報道もあります。これでは、事故の予兆を組織全体として正確に把握し修正を試みようとしても、その機能が働かなくなってしまいます。

このような大きな事故が発生してしまう背後には、その原因となる企業体質つまり企業風土が深く関係していることが考えられます。まず、社内ですべてをオープンにして自らを客観的に見据え、組織の階層(ヒエラルキー)を超えて十分な分析・討議を行い、正面から問題に向き合う事が極めて重要だと思います。その上で、企業風土を全面的に見直し、オープンで透明性のある企業文化を育てていくこと。さらに、コンプライアンス(法令順守)の徹底、安全を最優先事項に据えた運行体制の再構築といった取り組みをベースに、再発防止策を講じなければなりません。そのための必要なダイヤ改正も避けてとおれないこととなります。

また輸送業界では、乗客を運ぶことは、ある意味で、乗客一人ひとりの命を預かり、人生を一時期背負っているともいえます。まして、路線鉄道は、利用者にとってほかの航空機や車両とは異なり、別の路線を選択する条件はほとんど与えられていない独占公的機関と見ることができます。このことを十分理解して、経営者をはじめ全ての社員が、安全を最優先する強い意識を持たなければなりません。そのためには、最も基本的な「安全第一」の思想に立ち返り、安全教育の徹底を図ることが急務といえます。

今回のケースは、これまで紹介してきた、PRを成功に導く要素が、ことごとく欠落していたために、起こってしまった悲劇的事故であったといえます。

PRの手法を経営戦略に組み込み対処していれば、今回の事故を未然に防ぐことが可能だったと考えると、非常に残念です。今後のJR西日本の対応を注視したいと思います。

先日、宝塚に住む私の兄と会ったとき、彼もひとつ間違えば、この惨事に巻き込まれていたことを知りました。普段よくこの時間帯に電車に乗っていたようですが、当日はたまたま所用で銀行に立ち寄ったために乗車しなかったとのこと。本当に他人事とは思えない事故でした。

最後に、この事故で亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。

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